第二章 僕のせい? ただの修理屋なんだけど
「痛くないから、じっとしてて」
林夏は包帯を広げながら言った。
少女は椅子に座ったまま、警戒するように彼を見ている。
「……本当に?」
「何が?」
「痛くないって」
「それは知らない」
「……」
少女の眉がぴくりと動いた。
「あなたが言ったんでしょう」
「俺は『俺は痛くない』とは言ってないよ」
林夏は真顔で答えた。
「痛いのはそっち」
「……」
「だから、じっとしてて」
少女はしばらく彼を睨んでいたが、やがて諦めたように目を閉じた。
林夏は傷口を確認する。
左肩から胸元にかけて、細長い傷が走っていた。
普通の刃物による傷ではない。
傷口の周囲に、淡い青色の光が残っている。
まるで血管の中を、細かな光の粒が流れているようだった。
林夏は少しだけ眉をひそめた。
「……これ、何で切られた?」
「言えない」
「即答だね」
「あなたには関係ないから」
「まあ、そうだけど」
林夏は消毒液を傷口に当てた。
「じゃあ、俺も聞かない」
少女は意外そうに目を開いた。
「聞かないの?」
「聞いてほしい?」
「……」
「じゃあ聞く」
「聞かないで」
「はい」
林夏はあっさり頷いた。
少女はしばらく彼を見つめていた。
「……変な人」
「よく言われる」
「褒めてない」
「それもよく言われる」
林夏は笑いながら包帯を巻いていく。
手つきは意外なほど丁寧だった。
少女はその手元を見ていた。
「……慣れてるの?」
「何が?」
「怪我の手当」
「仕事柄ね」
林夏は棚の奥を顎で指した。
そこには、工具だけではなく、簡単な医療用品や古い薬品まで並んでいる。
「この辺は、壊れたものがよく持ち込まれるから」
「……人も?」
「たまに」
「人間を修理するの?」
「それは無理」
林夏は少し考えてから、
「でも、壊れる前に止めることはできる」
と言った。
少女は黙った。
その言葉が妙に引っかかった。
だが、理由を聞く前に――
ドン。
店の外で、何かが落ちた。
二人とも顔を上げた。
雨音の向こうから、金属を踏む音が聞こえる。
カツン。
カツン。
一定の間隔。
誰かがこちらへ歩いている。
少女の表情が変わった。
先ほどまでの疲労が一瞬で消える。
「……来た」
「誰?」
「追手」
林夏は窓の外を見た。
雨で視界が悪い。
だが、通りの向こうに人影が三つ見えた。
黒い外套。
顔は見えない。
三人とも、同じ歩幅で歩いている。
林夏は少し考えた。
「……知り合い?」
「違う」
「じゃあ、客?」
「違う」
「借金取り?」
「違う!」
少女が思わず声を上げた。
林夏は肩をすくめた。
「じゃあ、何?」
少女は立ち上がろうとした。
しかし、傷が痛んだのか、身体がふらつく。
林夏がすぐに支えた。
「おいおい」
「離して」
「立てないだろ」
「ここにいたら、あなたまで巻き込まれる」
「それは困るな」
林夏は真面目な顔をした。
少女は一瞬だけ安心した。
だが――
「せっかく掃除した店をまた血だらけにされたら困る」
「……」
「あと、修理代もまだもらってないし」
「あなた……」
少女は呆れたように彼を見る。
林夏は笑った。
「冗談」
そして、店の奥へ向かう。
「ただ、今の状態で外に出るのはもっと危ない」
「じゃあ、どうするの?」
「隠れる」
「どこに?」
「そこ」
林夏が指差した。
古びた工具棚。
少女は目を疑った。
「……あそこ?」
「うん」
「狭すぎる」
「大丈夫。俺も入ったことある」
「なぜ?」
「昼寝にちょうどいいから」
「……」
少女は本気で頭を抱えたくなった。
その時。
――コン、コン。
店の扉が叩かれた。
二人とも動きを止める。
雨の音だけが聞こえる。
もう一度。
――コン、コン。
今度は少し強い。
「万事修理店の店主、林夏」
低い声が響いた。
林夏の表情から、笑みが消えた。
「……俺の名前まで知ってるのか」
少女が小さく囁く。
「逃げて」
林夏は答えなかった。
店の入口を見る。
それから少女を見る。
「なあ」
「何?」
「君、名前は?」
少女は少し迷った。
そして、静かに答えた。
「……月白」
それが本当の名前なのか。
林夏には分からなかった。
「月白ね」
林夏は頷いた。
「じゃあ、月白」
「何?」
「そこにいて」
「あなたは?」
林夏は入口へ




