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君と、終わりの向こう側へ  作者: 亀


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第142章 今度は、林夏の行きたい場所

月曜日の朝。


万事修理店の前に、月白が立っていた。


手には、先週買った青いガラス瓶がある。


「おはようございます」


「おはよう」


林夏は店の奥から顔を出した。


「それ、持ってきたの?」


「はい」


「何を入れた?」


月白は瓶を少し持ち上げた。


中には、小さな飴がいくつか入っている。


「結局、普通ですね」


「俺の予想が当たった」


「少し悔しいです」


「何で?」


月白は笑った。


店の中へ入る。


机の上には、先日の旅行雑誌が置かれていた。


月白がそれを見る。


「次の場所、決めましたか?」


「まだ」


「珍しいですね」


「今回は月白が決める番じゃないから」


「……覚えていたんですね」


「覚えてるよ」


月白は少し嬉しそうにした。


「では、どこへ行きたいですか?」


林夏は雑誌を手に取った。


しばらくページをめくる。


海。


山。


美術館。


動物園。


古い町。


そして。


「ここ」


林夏が指を止めた。


「市場?」


「うん」


「市場に行きたいんですか?」


「朝市があるらしい」


「食べ物ですね」


「もちろん」


月白は笑った。


「林夏らしいです」


「悪い?」


「いいえ」


月白は雑誌を覗き込む。


「土曜日ですか?」


「土曜日」


「分かりました」


月白はスマートフォンを取り出した。


予定表を開く。


【土曜日】


【朝市】


その文字を入力する。


保存しようとして、少し手を止める。


「どうしました?」


「今回は、私が誘ったわけじゃないから」


林夏が言った。


「じゃあ、俺が誘ったって書けば?」


月白は少し笑った。


「はい」


入力する。


【林夏の提案】


その文字を見て、月白は頷いた。


「これでいいです」


「そんなに大事?」


「はい」


「どうして?」


「誰が決めたかを残しておきたいので」


林夏は少し考えた。


「なるほど」


午後。


林夏は修理の依頼を受けた。


古い時計だった。


客は中年の男性だった。


「父の形見なんです」


時計を渡しながら言う。


「動かなくなってしまって」


林夏は時計を確認した。


「部品が古いので、少し時間がかかるかもしれません」


「お願いします」


男性は店を出ていった。


月白は時計を見ていた。


「大切なものなんですね」


「そうだな」


「林夏は、こういうものを見るとどう思いますか?」


「直せるなら直す」


「それだけ?」


「それ以上は、その人が決めることだから」


月白は少し笑った。


「林夏らしいですね」


「またそれ?」


「はい」


夕方。


修理を終える。


時計の針が動き始める。


林夏は少し安心した。


「直った」


月白も覗き込む。


「よかったですね」


「時計はな」


「時計は?」


「思い出まで直せるかは、分からないから」


月白は黙って頷いた。


夜。


二人は店の前に座っていた。


林夏が聞く。


「土曜日、朝早いけど大丈夫?」


「はい」


「眠そうだったら無理しなくていいぞ」


「行きたいです」


「分かった」


月白は少し考えた。


「でも、もし当日、行きたくなくなったら?」


「その時は言えばいい」


「林夏は?」


「俺も言う」


「怒りませんか?」


「ちょっと残念にはなる」


「それだけ?」


「それだけ」


月白は笑った。


「やっぱり、いいですね」


「何が?」


「変更できる予定」


林夏は空を見た。


「予定って、約束じゃないのかもな」


「では、何ですか?」


「行きたいって思った時点で作るもの」


月白はその言葉を聞いていた。


そして。


「じゃあ、約束は?」


林夏は少し考えた。


「約束は、守りたいと思うもの」


「似ていますね」


「でも違う」


「はい」


月白は頷いた。


「少し分かる気がします」


夜。


月白はノートを開いた。


――林夏が次の場所を決めた。


――朝市。


――朝が早い。


――食べ物がたくさんあるらしい。


少し考えて。


――楽しみ。


その下に。


――誰かが決めた未来でも、自分が行くと決めたなら、自分の選択になる。


月白はそこでペンを止めた。


端末が光る。


【次回予定:朝市】


【提案者:林夏】


【同行者:月白】


【本人による参加:確認】


しばらくして。


もう一つ表示された。


【予定変更:可能】


月白は画面を見て、笑った。


「はい」


小さく呟く。


「それでも、行きたいです」


その夜。


林夏の端末にも短い通知が届いた。


【土曜日、楽しみにしています】


林夏は返信する。


【俺も】


少し考えてから、もう一言。


【朝寝坊するなよ】


すぐに返事が来る。


【林夏こそ】


林夏は笑った。


「そっちか」


店の明かりを消す。


土曜日は、まだ先だった。


けれど。


二人がそれぞれ選んだ予定は、静かにそこへ向かっていた。


【次回接触:予定】


【提案:林夏】


【参加:月白による選択】


【関係:継続】


【固定:なし】


【未来:未確定】

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