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君と、終わりの向こう側へ  作者: 亀


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第140章 予定の途中

土曜日の朝。


月白は目を覚ますと、最初にカレンダーを見た。


土曜日。


先週、自分で書いた予定がある。


【林夏と出かける】


【古い商店街】


月白は少し笑った。


着替えて、家を出る。


駅へ向かう途中、スマートフォンが鳴った。


紅葉からだった。


【今日、七番と会う】


月白は返信する。


【楽しんできてください】


すぐに返事が来る。


【そっちもね】


月白はスマートフォンをしまった。


駅に着く。


林夏はまだ来ていない。


約束の時間まで、五分。


月白は駅前の時計を見る。


四分。


三分。


二分。


そして。


林夏が走ってきた。


「ごめん!」


「大丈夫です」


「寝坊した」


「珍しいですね」


「昨日、遅くまで本を読んでた」


「植物の本ですか?」


「違う」


「では?」


「料理の本」


月白は笑った。


「林夏らしいです」


「朝飯作るためだからな」


「では、許します」


「ありがとう」


二人は改札を通った。


電車に乗る。


古い商店街へ向かう予定だった。


ところが。


途中の駅で、電車が止まった。


車内放送が流れる。


「信号確認のため、しばらく停車します」


月白は窓の外を見る。


林夏も時計を見る。


「どうする?」


「待ちましょう」


「うん」


十分。


二十分。


三十分。


電車は動かない。


月白は少し考えた。


「林夏」


「ん?」


「商店街、今日はやめませんか?」


「いいの?」


「はい」


「楽しみにしてたんじゃ?」


「楽しみにしていました」


月白は笑った。


「でも、今日行かなければいけないわけではありません」


林夏は少し驚いた。


「じゃあ、どうする?」


月白は窓の外を見る。


知らない駅だった。


「ここで降りてみませんか?」


「この駅?」


「はい」


「何があるか分からないぞ」


「だからです」


林夏は笑った。


「いいな」


二人は電車を降りた。


小さな駅だった。


周囲には住宅と古い商店が少しある。


観光地ではない。


有名な場所でもない。


「本当に何もないな」


林夏が言った。


「まだ分かりません」


二人で歩く。


小さなパン屋。


古い喫茶店。


文房具店。


そして、川沿いの遊歩道。


月白は立ち止まった。


「ここ、好きです」


「何が?」


「静かだから」


二人は川沿いを歩いた。


しばらくして、小さな店を見つける。


「入りますか?」


「うん」


店の中には、古い食器や雑貨が並んでいた。


月白は小さなガラスの瓶を見つけた。


青い色をしている。


「綺麗ですね」


「買う?」


「まだ決めていません」


林夏は笑った。


「いつものやつだ」


「選ぶ時間も大切です」


「分かった」


月白はしばらく瓶を見ていた。


結局、買わなかった。


店を出る。


林夏が聞く。


「買わなかったな」


「はい」


「欲しくなかった?」


「少し欲しかったです」


「じゃあ、どうして?」


「今じゃなくてもいいと思ったので」


林夏は頷いた。


「なるほど」


昼。


二人は小さな食堂に入った。


メニューを見る。


「何にしますか?」


「俺は焼き魚」


「私は親子丼」


「じゃあ、交換する?」


「少しだけなら」


二人で笑った。


食事をしながら、月白が言った。


「今日、商店街に行けなくてよかったかもしれません」


「どうして?」


「予定通りだったら、この駅には来ていなかったから」


林夏は箸を止めた。


「そうだな」


「予定が変わったから、ここに来ました」


「うん」


「でも、だからといって、予定を立てる意味がなくなるわけではないですね」


「そうだな」


「行けなかったら、また別の日にすればいい」


「その通り」


月白は笑った。


午後。


川沿いのベンチに座る。


少し風が吹いている。


月白が言った。


「林夏」


「ん?」


「未来って、こういうものかもしれませんね」


「急に難しい話になった」


「予定を立てても、その通りになるとは限らない」


「うん」


「でも、予定を立てること自体は楽しい」


「うん」


「変わったら、また選び直せる」


林夏は頷いた。


「だから、予定を立てるのを怖がらなくていい」


月白は小さく笑った。


「はい」


帰りの電車。


今度はちゃんと動いた。


月白は窓の外を見ていた。


「今日のこと、ノートに書きます」


「何て?」


「商店街には行けなかった」


「それから?」


「知らない駅に行った」


「それから?」


月白は少し考えた。


「林夏と一緒に、予定外の一日を過ごした」


林夏は笑った。


「それ、いいな」


夜。


万事修理店。


月白はノートを開いた。


――土曜日。


――予定は変更された。


――古い商店街には行かなかった。


――知らない駅へ行った。


少し考える。


――予定が変わっても、楽しかった。


そして。


――次の土曜日に、また商店街へ行けばいい。


月白はそこでペンを止めた。


最後に。


――今日を選んだことも、残しておきたい。


ノートを閉じる。


その瞬間。


端末が光った。


【予定変更:発生】


【変更理由:外部要因】


【本人による再選択:確認】


【当初予定:未実行】


【代替行動:成立】


そして、これまでになかった表示が一つ。


【予測モデル:再構成不要】


月白は画面を見つめた。


「……再構成不要?」


林夏も画面を見る。


「どういう意味だ?」


「分かりません」


月白は少し考えた。


「でも」


「うん」


「今日は、自分で選び直しました」


林夏は頷いた。


「じゃあ、それでいい」


月白は端末を閉じた。


外では夜の街が静かに続いている。


予定通りではなかった。


けれど。


失敗でもなかった。


二人はまた、明日のことを知らない。


それでも。


次に行きたい場所は、まだ残っている。


【当初予定:未実行】


【本人による再選択:成立】


【関係:継続】


【次回予定:再設定可能】


【未来:未確定】

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