↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君と、終わりの向こう側へ  作者: 亀


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

138/350

第138章 土曜日の行き先

土曜日の朝。


雨は降っていなかった。


けれど、空は薄い雲に覆われていた。


月白は駅の改札前に立っていた。


時計を見る。


約束の時間まで、まだ十分ある。


少し早く来すぎた。


けれど。


今日は待つことも悪くなかった。


しばらくして、人混みの向こうから林夏が歩いてくる。


「おはよう」


「おはようございます」


林夏は月白を見るなり言った。


「今日、寒くない?」


「少しだけ」


「じゃあ、これ」


林夏は自分の鞄から小さなカイロを取り出した。


「ありがとうございます」


月白は受け取った。


「準備してきたんですね」


「一応」


「昨日から?」


「昨日の夜」


月白は少し笑った。


「楽しみにしていたんですね」


林夏は少し黙った。


「まあ」


「私もです」


二人は駅を出た。


最初の目的地は、本屋だった。


月白はゆっくり棚を見ていく。


恋愛小説。


エッセイ。


旅行の本。


料理の本。


林夏は隣で眺めている。


「何か買う?」


「まだ分かりません」


「いつも分からないな」


「選ぶ時間も楽しいので」


「なるほど」


月白は一冊の本を手に取った。


植物の写真集だった。


ページをめくる。


「これ、来年の参考になりそうです」


「何の?」


「植物園」


林夏は笑った。


「来年も行く気なんだ」


「はい」


「まだ今年も終わってないのに」


「だからです」


月白は本を棚に戻した。


「来年のことを考えるのが、少し楽しくなりました」


林夏は何も言わなかった。


ただ、少し嬉しそうだった。


本屋を出る。


二人は昼食の店を探しながら歩いた。


「何食べる?」


「林夏は?」


「ラーメン」


「やっぱり」


「月白は?」


「私も」


「決まるの早いな」


二人は笑った。


小さなラーメン店に入る。


店員が二人を見て言った。


「お二人、同じものにしますか?」


月白が林夏を見る。


林夏も月白を見る。


「どうする?」


「同じでいいです」


二人とも同じラーメンを注文した。


しばらくして、料理が運ばれてくる。


「いただきます」


「いただきます」


食べ始める。


月白が少し笑った。


「こういうの、好きです」


「ラーメン?」


「それもです」


「それ以外は?」


月白は少し考えた。


「一緒に決めること」


林夏は箸を止めた。


「なるほど」


「前は、誰かが決めたものに従うことが多かったので」


「今は?」


「今は、自分で決めたいです」


月白は麺を一口食べた。


「でも、一人で全部決めたいわけではありません」


「うん」


「誰かと相談して、一緒に決めるのも好きです」


林夏は笑った。


「それなら、次の店も一緒に決めよう」


「はい」


昼食を終える。


外へ出ると、少し雨が降り始めていた。


「本当に降った」


林夏が空を見る。


「傘、ありますか?」


「ない」


「私もです」


二人は店の軒下に入った。


雨は少しずつ強くなっていく。


月白が笑った。


「予定変更ですね」


「そうだな」


「どうします?」


林夏は周囲を見る。


「傘を買う?」


「はい」


二人で近くの店へ向かった。


傘を一本買う。


店を出る。


林夏が傘を開いた。


「入る?」


「はい」


二人で一本の傘に入る。


歩幅が自然と近くなる。


月白の肩が林夏の腕に触れる。


「近いですね」


「傘が小さいから」


「そうですね」


しばらく歩く。


月白は少しだけ林夏の腕に近づいた。


林夏は何も言わなかった。


雨の音だけが続く。


やがて、月白が言った。


「林夏」


「ん?」


「今日、楽しいです」


「俺も」


「予定が変わっても?」


「うん」


「行きたかった本屋に行けて、ラーメンを食べて、雨が降って」


「最後だけ予定外だけどな」


「でも、嫌じゃないです」


林夏は笑った。


「俺も」


駅へ戻る途中、小さな公園を見つけた。


雨は弱くなっていた。


ベンチは濡れている。


二人は立ったまま、雨が止むのを待った。


月白が言った。


「今日のこと、ノートに書いてもいいですか?」


「もちろん」


「何て書こう」


林夏は考えた。


「雨が降った」


「それだけ?」


「ラーメンが美味しかった」


「それも」


月白は笑った。


「じゃあ」


少し考えて。


「――林夏と出かけた」


それだけ言った。


林夏は少し照れたように笑った。


「それでいいんじゃない?」


「はい」


雨が止む。


二人はまた歩き始めた。


帰りの電車。


月白は窓の外を見ていた。


林夏は隣で眠そうにしている。


月白は少しだけ肩を動かす。


林夏の頭が、月白の肩に触れた。


「……」


起こそうかと思った。


でも、やめた。


そのままにする。


しばらくして林夏が目を覚ました。


「ごめん」


「大丈夫です」


「重かった?」


「少しだけ」


「ごめん」


「でも、嫌ではありませんでした」


林夏は少し笑った。


「そっか」


駅に着く。


二人は電車を降りた。


今日一日の予定は終わった。


けれど、月白は少しだけ名残惜しかった。


「林夏」


「ん?」


「また、こういう日を作ってもいいですか?」


「もちろん」


「今度は、私が行き先を決めます」


「今日も月白が誘っただろ」


「次は、行き先も決めます」


「じゃあ、楽しみにしてる」


月白は笑った。


「はい」


夜。


月白はノートを開いた。


――土曜日。


――林夏と出かけた。


――本屋。


――ラーメン。


――雨。


少し考えて。


最後に。


――予定が変わっても、楽しかった。


ペンを置く。


その時、端末が光った。


【予定変更:発生】


【変更理由:外部要因】


【本人による継続:確認】


さらに。


【関係:継続】


【感情:肯定的】


【固定:なし】


月白は画面を見て、少し笑った。


予定が変わっても。


一緒にいることを選び直せる。


それだけで十分だった。


一方、林夏も店で今日買った傘を見ていた。


「一本でよかったな」


そう呟く。


机の上には、今日買った小さな本が一冊置かれている。


月白が選んだ植物の写真集だった。


林夏はページをめくる。


そして、ふと笑った。


「来年か」


まだ先の話だった。


けれど。


その言葉を、以前ほど遠いものには感じなかった。


【今日の選択:相互】


【予定変更:受容】


【関係:継続】


【次の約束:未定】


【未来:未確定】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。