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君と、終わりの向こう側へ  作者: 亀


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第135章 別々の時間

翌朝。


林夏は目を覚ますと、時計を見た。


いつもより少し遅い。


「寝すぎた」


急いで顔を洗う。


朝食を作る時間がない。


冷蔵庫を開ける。


卵が二つ。


パンが一枚。


「これでいいか」


簡単に朝食を済ませる。


店へ向かう途中、スマートフォンを見る。


月白から連絡はない。


林夏はそのまま歩いた。


今日は来るかもしれない。


来ないかもしれない。


昨日までなら、少し気になっていた。


今は、それほどではない。


月白にも自分の一日がある。


そう思えるようになっていた。


店を開ける。


午前中に客が二人来た。


一人は壊れた時計。


もう一人は古いラジオ。


林夏は黙々と修理をする。


昼になっても、月白は来なかった。


「今日は来ないか」


そう思っただけだった。


その頃。


月白は駅の近くにある小さな図書館にいた。


昨日、本屋へ行った澪から薦められた本を探していた。


棚の前で一冊の本を手に取る。


恋愛小説だった。


表紙を眺める。


「……これ、林夏が好きそうですね」


少し考えて、借りることにした。


図書館を出る。


そのまま店へ向かおうとした。


けれど、途中で足を止める。


今日は行かなくてもいい。


昨日もそうだった。


自分で決めていい。


月白は駅前のベンチに座った。


借りた本を開く。


数ページ読む。


それから、スマートフォンを見る。


林夏に連絡しようとして、やめた。


今日は、自分の時間にする。


それも一つの選択だった。


午後。


紅葉が店に来た。


「今日は月白いないの?」


「まだ来てない」


「ふうん」


紅葉は椅子に座った。


「七番とは会った?」


「昨日会った」


「どうだった?」


「普通」


「普通?」


「普通に歩いて、普通に飯を食った」


林夏は笑った。


「それが一番難しいんじゃない?」


紅葉は少し考えた。


「そうかもしれない」


「何か変わった?」


「分からない」


「じゃあ、変わってない?」


「それも分からない」


紅葉は窓の外を見る。


「でも、前より楽」


「何が?」


「関係に名前をつけなくても、会えること」


林夏は頷いた。


「それは分かる」


紅葉が笑う。


「月白もそう?」


「たぶん」


「たぶんばっかりね」


「本人じゃないからな」


紅葉は立ち上がった。


「じゃあ、私は行く」


「七番?」


「違う。買い物」


「そっちか」


「自分の予定よ」


紅葉は笑って店を出た。


夕方。


月白は図書館を出た。


一日が終わりかけている。


結局、万事修理店には行かなかった。


少しだけ気になった。


けれど。


後悔はしていなかった。


店の前を通る道ではなく、別の道を歩いた。


途中で小さな菓子店を見つける。


ショーケースの中に、昨日林夏が好きだと言っていた菓子がある。


月白は少し迷った。


「……明日でいいですね」


今日は買わなかった。


そのまま家へ帰る。


夜。


林夏は店を閉めた。


一人で夕食を作る。


今日は簡単な炒飯だった。


食べ終わってから、スマートフォンを見る。


月白から連絡はない。


林夏は少し笑った。


「今日は自分の時間か」


そう言って、片付けを始める。


しばらくして。


スマートフォンが鳴った。


月白だった。


【今日は行きませんでした】


林夏は返信する。


【そうだと思ってた】


しばらくして。


【どうしてですか?】


【なんとなく】


【変です】


【そう?】


【はい】


林夏は笑った。


【今日は何してた?】


少し待つ。


【図書館にいました】


【本?】


【はい】


【面白かった?】


【まだ分かりません】


【じゃあ、今度見せて】


月白は画面を見つめた。


少しだけ笑う。


【はい】


その夜。


月白はノートを開いた。


――今日は林夏に会わなかった。


その下に。


――図書館へ行った。


さらに。


――会わなかったけれど、話した。


少し考えてから。


――会わない時間があっても、関係は消えない。


ペンを置く。


そして、最後に小さく書いた。


――明日は、会いたい。


翌朝。


林夏は店を開けた。


昨日より少し早い。


朝食を二人分作る。


昨日と違って、卵焼きは少し焦げた。


「まあ、いいか」


その時。


扉の向こうから声がした。


「おはようございます」


林夏が振り返る。


月白だった。


「おはよう」


「昨日は来ませんでした」


「うん」


「今日は来ました」


「うん」


月白は手に持っていた本を見せた。


「これ、借りました」


「恋愛小説?」


「はい」


「俺が好きそうって?」


「昨日、そう思いました」


「じゃあ、読んでみよう」


月白は笑った。


「一緒に?」


「うん」


二人は店の奥へ座った。


本を開く。


特別なことは何もない。


昨日は別々に過ごした。


今日はまた一緒にいる。


それだけだった。


けれど。


月白は思った。


離れても戻ってこられる。


戻ってきても、昨日と同じでなくていい。


それなら。


明日のことを、怖がりすぎなくてもいいのかもしれない。


机の上で端末が一度だけ光る。


【接触:再開】


【前回接触からの間隔:一日】


【関係:継続】


【本人による選択:確認】


その下に、新しい表示。


【別行動:問題なし】


月白はその文字を見て、静かに笑った。


「これ、いいですね」


「何が?」


「別々に過ごしても問題ないって」


林夏は頷いた。


「当たり前だろ」


「そうですね」


月白は本に視線を戻した。


「当たり前になったことが、少し嬉しいです」


林夏は何も言わなかった。


ただ、隣に座った。


二人の時間は、また始まっていた。


昨日とは違う今日として。


【別行動:確認】


【再接触:本人による選択】


【関係:継続】


【固定:なし】


【未来:未確定】

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