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君と、終わりの向こう側へ  作者: 亀


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第133章 戻ってきた理由

翌日の昼。


万事修理店の扉が開いた。


「こんにちは」


林夏は修理台から顔を上げた。


「お」


月白だった。


「来たな」


「はい」


月白は店の中へ入った。


林夏は時計を見る。


「今日は昼か」


「昨日は来られなかったので」


「うん」


「今日は来ました」


「うん」


それだけだった。


けれど、二人とも少し笑った。


月白はいつもの椅子に座る。


「何をしていたんですか?」


「時計」


「昨日も時計でしたね」


「時計は壊れるからな」


「人間も壊れますよ」


月白が何気なく言った。


林夏の手が止まった。


「……そうだな」


月白は少し迷った。


それから言った。


「昨日、病院に行っていました」


「病院?」


「はい」


林夏は驚いた。


「大丈夫なのか?」


「今のところは」


「今のところ?」


「定期的な検査です」


林夏は工具を置いた。


「そうか」


「心配しますか?」


「するよ」


「どうして?」


「月白だから」


月白は少し黙った。


「……そうですか」


林夏はそれ以上聞かなかった。


何の病気なのか。


どんな結果だったのか。


どれくらい危険なのか。


聞こうと思えば聞ける。


けれど、月白が話していないことまで、自分から踏み込む必要はないと思った。


しばらくして、月白が口を開く。


「大きな変化はありませんでした」


「うん」


「でも、定期的に確認する必要があります」


「分かった」


「怖くないんですか?」


「怖いよ」


「……そうですよね」


「でも、怖いからって全部聞けばいいわけじゃないだろ」


月白は林夏を見る。


「どういう意味ですか?」


「月白が話したい時に聞けばいい」


「……」


「話したくないなら、聞かない」


月白は少し笑った。


「林夏らしいですね」


「そう?」


「はい」


月白は鞄から小さなノートを取り出した。


昨日書いたページを開く。


――昨日は、林夏に会わなかった。


その下に。


――自分のために時間を使った。


林夏が覗く。


「それ、俺にも見せるの?」


「見せてもいいと思ったので」


「なるほど」


月白はもう一行書き加えた。


――今日は、自分から会いに来た。


「これでいいですか?」


「いいんじゃない?」


「昨日は会えなかったけど」


「うん」


「今日、会いたいと思いました」


「うん」


「だから来ました」


林夏は笑った。


「それで十分だろ」


昼。


林夏が二人分の食事を作る。


月白は味噌汁を飲んだ。


「今日は焦げてません」


「昨日もそんなに焦げてなかった」


「焦げていました」


「細かいな」


二人で笑った。


午後。


紅葉が来た。


「こんにちは」


「今日は一人?」


月白が聞く。


「うん」


紅葉は椅子に座った。


「昨日、七番に会えなかった」


「今日も?」


「今日は会う」


「よかったですね」


「うん」


紅葉はスマートフォンを見る。


「昨日、会えなかったからって、何かが壊れたわけじゃないって分かった」


月白が頷く。


「私もです」


「あなたも?」


「昨日、林夏に会いませんでした」


「病院だったんでしょ?」


「はい」


紅葉は少し驚いた。


「聞いたの?」


「私から話しました」


「そう」


紅葉は笑った。


「じゃあ、少しずつ変わってるね」


「何が?」


「自分のことを、自分で話すこと」


月白は少し考えた。


「そうかもしれません」


紅葉は立ち上がった。


「じゃあ、私も七番に会ってくる」


「いってらっしゃい」


紅葉が店を出る。


月白は窓の外を見た。


「紅葉さんも、自分で選んでいますね」


「そうだな」


「七番さんも?」


「たぶん」


「たぶん?」


「本人に聞いてないから分からない」


月白は笑った。


「それも大事ですね」


「何が?」


「分からないことを、分からないままにしておくこと」


林夏は頷いた。


夕方。


月白は店の本棚を整理していた。


一冊の古い本が落ちる。


床に落ちた本を拾う。


その瞬間。


端末が光った。


【関連情報:検出】


月白が画面を見る。


そこには、以前と同じような記録があった。


【対象:月白】


【過去記録:存在】


【未来記録:欠損】


そして、その下に新しい一行。


【本人による未来選択:確認待ち】


月白は画面を見つめた。


「確認待ち……」


林夏が近づく。


「何?」


「未来の記録です」


「また出たのか」


「はい」


「どうする?」


月白はしばらく考えた。


以前なら、すぐに調べようとしたかもしれない。


何が待っているのか。


いつ何が起きるのか。


自分がどうなるのか。


全部知りたかった。


けれど。


今は違った。


「今日は、調べません」


「いいの?」


「はい」


「どうして?」


月白は端末を閉じた。


「昨日、自分のことを確認しました」


「うん」


「今日は、林夏とご飯を食べました」


「うん」


「それだけで十分です」


林夏は笑った。


「じゃあ、明日調べる?」


「明日も調べないかもしれません」


「そっか」


「でも、いつか調べるかもしれません」


「それでいい」


月白は頷いた。


夜。


店を閉める時間になった。


月白は玄関で靴を履く。


「今日は、来てよかったです」


「俺も」


「昨日会えなかったので」


「うん」


月白は少し考える。


「でも、昨日会えなかったことも、悪くなかったと思います」


「どうして?」


「昨日があったから、今日ここに来たいと思ったので」


林夏は笑った。


「じゃあ、昨日も必要だったな」


「そうですね」


月白は扉を開ける。


外の空気は少し冷たかった。


「林夏」


「ん?」


「明日、会えるかどうかは分かりません」


「うん」


「でも」


月白は振り返った。


「会いたくなったら、また来ます」


「待ってる」


月白は少し笑った。


「ありがとうございます」


扉が閉まる。


林夏は店の中へ戻った。


机の上の端末が光る。


【接触:再開】


【関係:継続】


【未来選択:確認待ち】


【予測精度:低下】


林夏は画面を見て、電源を切った。


予測できない。


それでいい。


今日、月白がここへ来た。


それだけは、誰かが決めた未来ではない。


月白自身が決めたことだった。


【本人による接触:成立】


【本人による未来選択:未確定】


【固定:なし】


【未来:未確定】

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