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君と、終わりの向こう側へ  作者: 亀


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第132章 来ない日も、待つ日も

翌朝。


林夏はいつもより少し早く起きた。


朝食を作る。


味噌汁。


ご飯。


卵焼き。


昨日とほとんど同じだった。


「今日は焦がさない」


林夏は卵焼きを見ながら言った。


昨日より少しだけきれいに焼けている。


「完璧」


そう言って、二人分の皿を並べた。


時計を見る。


まだ早い。


林夏は店の掃除を始めた。


窓を拭く。


棚を整理する。


工具を並べ直す。


それでも時間が余った。


もう一度、時計を見る。


「……まだか」


別に約束した時間があるわけではない。


月白は、明日も来ると言っただけだ。


それなのに。


林夏は入口のほうを何度も見た。


昼近くになった。


月白は来ない。


林夏は少し考えた。


何かあったのか。


体調が悪いのか。


昨日の端末のことか。


いくつも考えが浮かぶ。


けれど、どれも確かではない。


「……まあ、いいか」


林夏は一人で昼飯を食べた。


二人分作った卵焼きは、一つ余った。


午後。


店の扉が開いた。


紅葉だった。


「こんにちは」


「おう」


「月白は?」


「今日は来てない」


「そう」


紅葉は少しだけ林夏を見る。


「気にしてる?」


「少し」


「連絡すれば?」


林夏はスマートフォンを見る。


「……そうだな」


メッセージを一つ送った。


【今日はどうした?】


しばらく待つ。


返事は来なかった。


紅葉は何も言わなかった。


代わりに、店の棚に置かれた二つの皿を見た。


「二人分?」


「そう」


「待ってたのね」


「まあ」


紅葉は少し笑った。


「林夏も普通に待つんだ」


「俺だって待つよ」


「意外」


「失礼だな」


その時。


スマートフォンが鳴った。


月白からだった。


【ごめんなさい】


その一行の後に続く。


【今日は来られません】


林夏は画面を見た。


【何かあった?】


少し待つ。


【大丈夫です】


【少し用事ができました】


林夏は返事を打った。


【分かった】


そこで止まる。


何を書けばいいか分からなかった。


「また明日」と書こうとして、やめた。


明日来るかどうかは、月白が決めることだから。


代わりに。


【気をつけて】


それだけ送った。


紅葉が横から聞く。


「大丈夫?」


「うん」


「寂しい?」


林夏は少し考えた。


「寂しい」


紅葉は少し驚いた顔をした。


「素直ね」


「寂しいものは寂しい」


「じゃあ、追いかけないの?」


「追いかけない」


「どうして?」


林夏はスマートフォンをしまった。


「来ない理由を聞くことと、来るようにすることは違うから」


紅葉はしばらく黙っていた。


「それ、月白が聞いたら喜ぶと思う」


「そうかな」


「たぶん」


紅葉は窓の外を見る。


「私も昔は、相手が来ないと、自分が何か悪いことをしたのかと思ってた」


「今は?」


「今は、来ない理由は本人にしか分からないって思える」


紅葉は笑った。


「だから、聞けばいい」


「聞いて、それでも答えたくないなら?」


「その時は待つ」


林夏は頷いた。


夕方。


月白は一人で街の反対側にある小さな建物の前にいた。


古い病院だった。


彼女は受付を済ませ、待合室の椅子に座った。


今日は、自分の体の検査の日だった。


誰にも言っていなかった。


林夏にも。


特別な理由があるわけではない。


ただ。


自分のことを自分で確認したかった。


以前なら、誰かに付き添ってもらっていたかもしれない。


けれど今日は一人で来た。


名前を呼ばれる。


月白は立ち上がった。


診察室へ入る。


医師からいくつか質問を受ける。


検査をする。


そして、結果を聞く。


「今のところ、大きな変化はありません」


月白は頷いた。


「そうですか」


「ただ、以前の記録がありますから、定期的に確認してください」


「分かりました」


病院を出る。


外は夕方になっていた。


月白は空を見上げた。


今日は林夏のところへ行かなかった。


そのことが、少しだけ気になった。


けれど。


行かなかった理由も、自分で決めた。


スマートフォンを見る。


林夏からのメッセージがある。


【気をつけて】


月白はそれを何度か読み返した。


それから返信する。


【ありがとうございます】


少し迷って。


もう一行。


【明日は行きます】


送信した。


けれど、その後すぐに削除した。


まだ明日のことは分からない。


代わりに。


【また会いたいです】


送った。


しばらくして、返事が来た。


【俺も】


月白は小さく笑った。


それだけで十分だった。


夜。


月白が店に来ることはなかった。


林夏は一人で店を閉める。


二人分の皿を片付ける。


余った卵焼きを食べる。


「……ちょっと冷たいな」


そう言って笑った。


その夜。


端末が光った。


【予定変更:発生】


【理由:本人による選択】


【関係への影響:なし】


林夏は画面を見た。


「関係への影響、なし……か」


少し考える。


今日、月白とは会わなかった。


それでも。


関係がなくなったわけではない。


会わない日がある。


自分の予定を優先する日がある。


一人で過ごす日もある。


それでも、また会いたいと思う。


林夏は端末を伏せた。


「まあ、それでいいか」


翌朝。


月白はノートを開いた。


昨日のページに書く。


――昨日は、林夏に会わなかった。


少し考える。


その下に。


――自分のために時間を使った。


そして最後に。


――それでも、また会いたいと思った。


月白はペンを置いた。


窓の外を見る。


今日は何をするか。


まだ決まっていない。


けれど。


決まっていないことを、以前ほど怖いとは思わなかった。


【予定:本人による変更】


【接触:一時停止】


【関係:継続】


【再接触:未定】


【未来:未確定】

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