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君と、終わりの向こう側へ  作者: 亀


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第131章 それぞれの一日

翌朝。


月白は目を覚ました。


時計を見る。


昨日と同じ時間だった。


「……早いですね」


昨日と同じように、外へ出ようとする。


けれど、玄関で足を止めた。


今日は、昨日とは違う。


昨日と同じ時間に起きたからといって、昨日と同じ一日になるわけではない。


月白は少し考えてから、ゆっくり靴を履いた。


その頃。


万事修理店では、林夏が一人で朝食を作っていた。


味噌汁。


焼いた魚。


白いご飯。


そして卵焼き。


「今日は完璧だな」


林夏は自分で頷いた。


その瞬間、電話が鳴った。


修理の依頼だった。


少し遠い場所にある店の時計が壊れたらしい。


「今から?」


林夏は時計を見る。


月白が来る時間だった。


少し迷った。


けれど、仕事を断る理由もない。


「分かりました。昼までには戻ります」


電話を切る。


林夏は朝食を一人分だけ残した。


店を閉めて出ようとしたところで、月白が来た。


「おはようございます」


「おはよう」


「今日は……」


月白が店を見る。


誰もいない。


「林夏は?」


「仕事」


「そうですか」


「昼には戻る」


月白は少しだけ黙った。


「分かりました」


そして、店の前のベンチに座った。


しばらくして、店の大家が通りかかった。


「月白ちゃん?」


「はい」


「林夏ならさっき出ていったよ」


「知っています」


「一人で待つの?」


「はい」


大家は少し笑った。


「好きだねえ」


月白は少し困った顔をした。


「そういう意味では……」


大家は何も言わずに去っていった。


月白は一人で笑った。


「……まだ分かりません」


けれど。


待ちたいと思った。


それは分かっていた。


昼前。


林夏は修理先から戻ってきた。


店の前に月白がいる。


「ただいま」


「おかえりなさい」


「ずっといた?」


「途中で本を読んでいました」


「昼飯は?」


「まだです」


「じゃあ食べよう」


二人は店の中へ入った。


テーブルには朝の卵焼きが残っていた。


「これ、月白の分」


「ありがとうございます」


月白は一口食べた。


「美味しいです」


「だろ?」


「少し焦げていますけど」


「それは言わなくていい」


月白が笑う。


林夏も笑った。


午後。


紅葉から連絡が来た。


今日は七番と会う予定だった。


けれど、七番から急な仕事が入ったという連絡が来たらしい。


「今日は会えなくなった」


紅葉は店で言った。


「残念ですね」


月白が言う。


「うん」


紅葉は椅子に座った。


「でも、仕方ない」


「怒らないんですか?」


「少しだけ」


「少しだけ?」


「かなり」


林夏が笑う。


「じゃあ怒ってるじゃん」


「怒ってるわよ」


紅葉はスマートフォンを見た。


「でも、仕事なら仕方ない」


「じゃあ、どうする?」


「帰る」


「それだけ?」


「一人で買い物でもする」


紅葉は立ち上がった。


「会えないなら、自分の時間を使えばいい」


月白は頷いた。


「そうですね」


紅葉は店を出る。


けれど、数歩歩いたところで振り返った。


「そうだ」


「何?」


「明日は私からまた誘う」


「もう決めたの?」


「うん」


紅葉は笑った。


「今日会えなかったからって、会いたい気持ちまで消えるわけじゃないから」


そして、そのまま歩いていった。


店の中が静かになる。


月白はその背中を見送った。


「紅葉さん、変わりましたね」


「そう?」


「以前なら、会えないこと自体を関係の問題だと思っていたかもしれません」


林夏は頷いた。


「今は?」


「会えない日は、会えない日」


月白は窓の外を見た。


「でも、次に会うことは自分で決められる」


林夏は少し笑った。


「それでいいんじゃない?」


夕方。


澪からも連絡があった。


真琴と会う予定だったが、今日は澪自身の用事ができたらしい。


【今日は会えません】


その後に、少し時間を置いて。


【でも、また会いたいです】


真琴から返事が来る。


【分かりました】


【次は、会える日に会いましょう】


澪は画面を見て、笑った。


以前なら、予定が変わっただけで不安になっていた。


今は違う。


会えないことと、会いたくないことは同じではない。


その違いが少し分かってきた。


夜。


万事修理店。


月白はノートを開いた。


今日のページに書く。


――今日は、予定が変わった。


少し考える。


その下に続けた。


――それでも、会いたいと思う気持ちは残った。


さらに。


――会えない日があることも、関係の一部なのかもしれない。


林夏が横から見る。


「今日は真面目だな」


「昨日は写真でしたから」


「今日は?」


「予定です」


「なるほど」


林夏は笑った。


「じゃあ俺も書こうかな」


「何を?」


林夏は少し考えた。


「今日は、月白と朝飯を食べた」


「それだけですか?」


「それが一番大事だったから」


月白は黙った。


そして、少しだけ笑った。


「では、書いてください」


林夏はノートを受け取った。


一行だけ書く。


――今日も、一緒に飯を食べた。


月白はその文字を見た。


「本当にそれだけですね」


「十分だろ」


「はい」


夜が深くなる。


月白は帰る時間になった。


店の前で立ち止まる。


「明日も来てもいいですか?」


「もちろん」


「でも、明日も何か予定が変わるかもしれませんね」


「そうだな」


「それでも?」


林夏は少し考えてから答えた。


「それでも、会いたいなら来ればいい」


月白は頷いた。


「分かりました」


少し歩いてから、振り返る。


「林夏」


「ん?」


「明日、会えなくなっても……」


月白は言葉を探した。


「また次の日に会えばいいですよね」


林夏は笑った。


「もちろん」


月白も笑った。


「では、おやすみなさい」


「おやすみ」


月白が夜道を歩いていく。


店の前で、林夏はしばらくその背中を見ていた。


その時。


机の上の端末が光った。


【予定変更:発生】


【変更理由:日常生活】


【関係への影響:確認不能】


そして、新しい一行。


【予測精度:低下】


林夏は画面を見た。


「……またか」


けれど、端末を閉じた。


予測できないことが増えている。


それでも。


今日、月白と朝飯を食べたことは変わらない。


明日、会えるかどうかもまだ分からない。


だからこそ。


明日は明日になってから決めればいい。


【予定:変更可能】


【関係:継続】


【本人による選択:維持】


【未来:未確定】

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