第123章 分からないまま、もう一度
夕方。
第七街区的风比白天冷了一些。
紅葉は駅前のベンチに座っていた。
手には、七番から送られてきた短いメッセージ。
――今日は、少し歩かないか。
それだけだった。
紅葉は画面を見つめたまま、しばらく動かなかった。
三年前なら、こんな誘いを断る理由などなかった。
けれど、今は違う。
三年という時間は、二人の間にあったものをそのまま残してはくれなかった。
記憶は残っている。
声も覚えている。
昔、一緒にいた場所も覚えている。
でも、それだけで今も同じ気持ちだとは言えない。
紅葉はスマートフォンを閉じた。
「……行くか」
自分で決めた。
駅の改札を出ると、七番がいた。
「早かったな」
「あなたが遅いだけ」
「そうか」
七番は笑った。
昔と同じ笑い方だった。
紅葉は少しだけ目を細めた。
「その笑い方、変わらないね」
「変わったと思ってた」
「変わってない」
「じゃあ、よかった」
二人は歩き始めた。
最初は何を話せばいいのか分からなかった。
仕事の話。
街の話。
最近食べたもの。
そんな当たり障りのない話ばかりだった。
しばらくして、紅葉が口を開いた。
「ねえ」
「ん?」
「三年前の私は、あなたのことが好きだったと思う」
七番の足が少し止まった。
紅葉も止まる。
「……思う?」
「今の私には、断言できない」
「そうだよな」
七番は怒らなかった。
少しだけ寂しそうに笑った。
「俺も同じだ」
「え?」
「三年前の俺なら、まだ好きだって言えた」
「今は?」
「分からない」
紅葉は少し驚いた。
「もっと簡単に言うと思ってた」
「俺もそう思ってた」
七番は空を見上げた。
「三年って、長いからな」
紅葉は黙っていた。
「でも」
七番が続ける。
「分からないから、会わないっていうのも違う気がする」
「……うん」
「今日、一緒に歩いてるのは嫌じゃない」
「私も」
二人はまた歩き始めた。
駅から少し離れたところに、小さな公園がある。
昔、二人がよく座っていた場所だった。
紅葉はベンチを見る。
「ここ、まだあるんだ」
「残ってるな」
「変なの」
「何が?」
「三年経っても、場所だけは何も知らない顔をしてる」
七番が笑う。
「場所は人間みたいに悩まないからな」
「そうね」
紅葉はベンチに座った。
七番も隣に座る。
少し距離を空けて。
昔なら、もっと近かった。
そのことに、二人とも気づいていた。
「七番」
「ん?」
「もし私が、あなたを好きじゃなかったら?」
七番は少し考えた。
「悲しい」
「それだけ?」
「悲しいけど、仕方ない」
「追いかけないの?」
「一回くらいは聞くかもしれない」
「どうして?」
「俺がまだ好きなら、その気持ちは伝えたいから」
七番は紅葉を見る。
「でも、答えを変えさせるためには言わない」
紅葉は何も言わなかった。
その言葉が、思っていたより胸に残った。
昔の七番なら、もっと強く自分を引き止めようとしたかもしれない。
今は違う。
「変わったね」
「そうかな」
「少しだけ」
七番は笑った。
「紅葉もな」
「私?」
「昔より、自分で決めるようになった」
紅葉はしばらく考えてから答えた。
「あなたに言われると、少し変な感じ」
「なんで?」
「昔は、あなたに決めてほしいと思ってたから」
七番は黙った。
「でも、今は違う」
紅葉は立ち上がった。
「私が決める」
「うん」
「だから……」
紅葉は少し迷ってから言った。
「また会いたい」
七番が顔を上げる。
「それは……」
「今の私が決めたこと」
七番は少しだけ笑った。
「分かった」
二人は公園を出た。
帰り道、紅葉は自分でも不思議に思っていた。
七番を好きなのか。
まだ分からない。
三年前の気持ちが残っているのか。
それも分からない。
それでも、今日もう一度会ったことは嫌ではなかった。
むしろ。
もう一度会いたいと思った。
それだけは、自分の中ではっきりしていた。
その夜。
万事修理店では、林夏が夕飯を作っていた。
「今日は何?」
月白が台所を覗き込む。
「焼きそば」
「昨日も麺でした」
「昨日はラーメン」
「それも麺です」
「麺は偉大だから」
月白は呆れたように笑った。
「明日は違うものにしてください」
「じゃあ、何がいい?」
「……考えておきます」
「自分で決める?」
「はい」
林夏は笑った。
「じゃあ、期待してる」
月白は席についた。
しばらくして、スマートフォンが震える。
紅葉からだった。
――また七番と会った。
月白は少し考えてから返信した。
――どうでしたか?
少し時間が経って、返事が来る。
――まだ分からない。
月白はその文章を見て、少し笑った。
――それでも、また会いたいですか?
しばらく既読がつかなかった。
やがて。
――うん。
月白は画面を閉じた。
林夏が焼きそばを皿に盛る。
「どうした?」
「紅葉からです」
「七番?」
「はい」
「うまくいった?」
月白は首を横に振った。
「まだ分からないそうです」
「そっか」
林夏はそれ以上聞かなかった。
月白は少し考える。
そして、静かに言った。
「でも、また会うそうです」
林夏は笑った。
「じゃあ、それでいいんじゃない?」
月白も頷いた。
名前がなくても。
答えが決まっていなくても。
人は、もう一度会うことを選べる。
そして、その次に何を選ぶかは。
その時になってから決めればいい。
【過去:継続】
【現在の関係:未定義】
【本人による再接触:確認】
【次の選択:未定義】




