↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君と、終わりの向こう側へ  作者: 亀


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

108/350

第108章 変えるということ

朝。


万事修理店の前。


月白はいつもの場所に立っていた。


林夏が扉を開ける。


「おはよう」


「おはよう」


「今日は早いね」


「昨日より少しだけ早い」


「競争してる?」


「してない」


「じゃあ、勝った」


「何に?」


「分からない」


月白は笑った。


「朝ご飯は?」


「作る」


「何を?」


「昨日と同じ」


「卵?」


「卵」


「飽きない?」


「月白が食べるなら大丈夫」


月白は一瞬黙った。


「……そういうこと、普通に言うよね」


「何が?」


「なんでもない」


「また?」


「うん」


*


昼。


紅葉が店に来た。


今日は七番も一緒だった。


「林夏」


「ん?」


「少し見てほしい」


七番が古い紙を机の上に置く。


林夏は紙を見る。


「何これ?」


「命軌修正機構の古い記録」


月白も近づいた。


そこには。


【関係固定】


【予測精度:上昇】


その下に。


【本人による関係変更を確認】


【予測精度:低下】


林夏が首を傾げる。


「関係を変えた?」


「そう」


紅葉が答える。


「固定されたあとでも、自分で変えた人がいた」


月白が紙を見る。


「その人はどうなったの?」


「そこから先がない」


七番が答える。


「記録が切られている」


「消された?」


「分からない」


林夏は紙を机に戻した。


「でも」


「うん?」


「変えられたんだよね」


七番が頷く。


「たぶん」


「じゃあ、それでいいんじゃない?」


紅葉が林夏を見る。


「何が?」


「固定されたとしても」


林夏は言った。


「本人が変えたいなら、変えればいい」


七番は少し黙る。


「でも、それで誰かが傷つくかもしれない」


「うん」


「関係が壊れるかもしれない」


「うん」


「後悔するかもしれない」


「たぶんね」


林夏はあっさり答えた。


「でも」


少しだけ笑う。


「それも本人の人生じゃない?」


紅葉は黙った。


月白も。


何も言わなかった。


*


午後。


七番と紅葉が帰ったあと。


月白は店の窓を拭いていた。


林夏が言う。


「紅葉、少し考えてたね」


「うん」


「七番も」


「うん」


月白は布を止めた。


「ねえ」


「ん?」


「もし」


「うん」


「私がいつか、林夏と離れたいって言ったら」


林夏の手が止まった。


月白は続ける。


「どうする?」


林夏はしばらく考えた。


「寂しいと思う」


月白は少し驚く。


「それだけ?」


「嫌だとも思う」


「うん」


「でも」


林夏は月白を見る。


「月白がそうしたいなら、そうする」


月白は黙った。


「止めないの?」


「止めるかもしれない」


「え?」


「一回くらいは」


林夏は笑った。


「だって、嫌だから」


月白も少し笑った。


「じゃあ、何回も?」


「一回だけ」


「どうして?」


「何回も言ったら、僕が月白の選択を決めることになるから」


月白は目を伏せた。


「……それ、少し寂しい」


「うん」


「でも」


月白は顔を上げた。


「嬉しい」


「どっち?」


「両方」


林夏は笑った。


「じゃあ、僕も両方」


*


夕方。


紅葉と七番は、古い施設の外にいた。


「ここだった」


七番が言う。


「何が?」


「記録が切られた場所」


紅葉は古い扉を見る。


「入れる?」


「たぶん」


二人で中に入る。


埃の積もった部屋。


壁には古い端末が残っている。


七番が電源を入れる。


画面が一度だけ点滅した。


【旧記録:再接続】


紅葉が近づく。


次の表示。


【対象:不明】


【関係:固定済】


【変更要求:本人から】


【承認:拒否】


紅葉の表情が変わる。


「拒否?」


七番が画面を操作する。


その下に。


一行だけ残っていた。


【本人の選択を無効化することは、観測ではない】


二人は黙った。


紅葉が呟く。


「……これを書いた人」


「うん」


「機構の人間だったのかな」


「分からない」


「でも」


紅葉は画面を見る。


「少なくとも、途中で気づいた人はいた」


七番は頷いた。


「そうだね」


紅葉は端末の電源を切った。


「今日はここまで」


「いいの?」


「うん」


「もっと調べなくていい?」


紅葉は七番を見る。


「急いで答えを出したくない」


七番は少し笑った。


「分かった」


二人は施設を出る。


外はもう暗くなっていた。


「紅葉」


「何?」


「また来る?」


紅葉は少し考える。


「……うん」


「いつ?」


「分からない」


「そうだよね」


二人は歩き始める。


*


夜。


林夏と月白は帰り道にいた。


月白が突然立ち止まる。


「林夏」


「ん?」


「今日」


「うん」


「少しだけ、手をつないでもいい?」


林夏は驚いた。


けれど。


「いいよ」


月白が手を伸ばす。


指先が触れる。


少し迷ってから。


二人の手が重なった。


月白は前を向いたまま歩く。


林夏も何も言わない。


しばらくして。


月白が小さく笑った。


「……やっぱり」


「何?」


「嫌じゃない」


「僕も」


二人はそのまま歩いた。


誰かが決めたわけではない。


誰かに命令されたわけでもない。


ただ。


今日。


二人がそうしたかった。


それだけだった。


そして。


それだけのことが。


二人にとっては。


少し大切なことになっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。