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君と、終わりの向こう側へ  作者: 亀


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第102章 言っておくこと

翌朝。


万事修理店の前に、月白が立っていた。


まだ開店前だった。


林夏が鍵を開ける。


「早いね」


「うん」


「どうしたの?」


「昨日のこと」


林夏は扉を開けながら振り返る。


「嫉妬の?」


「……そう」


月白は少しだけ視線を逸らした。


「昨日、考えた」


「うん」


「私、あの人に怒ってたわけじゃない」


「そうだね」


「林夏にも怒ってない」


「うん」


「ただ」


少し間を置く。


「林夏にとって、私はどんな人なんだろうって思った」


林夏は黙った。


月白は続ける。


「聞いていい?」


「いいよ」


「私は、特別?」


林夏はすぐには答えなかった。


「……特別だと思う」


月白が顔を上げる。


「どうして?」


「一緒にいる時間が多いから」


「それだけ?」


「それだけじゃない」


林夏は少し考える。


「月白がいないと、店が静かに感じる」


月白は笑った。


「それ、昨日も言ってたね」


「うん」


「じゃあ」


月白は小さく息を吐いた。


「それでいい」


*


昼。


昨日の女性客が戻ってきた。


「こんにちは」


林夏が顔を上げる。


「あ、昨日の」


女性は少し困った顔をしている。


「また壊れました?」


「違います」


彼女は笑った。


「昨日、ありがとうございました」


「どういたしまして」


そのとき。


月白が奥から出てきた。


女性は月白を見る。


「あ」


少しだけ驚く。


「もしかして……」


「月白」


林夏が紹介する。


「一緒に店やってる人」


「そうなんですね」


女性は笑った。


「昨日、彼女さんかと思ってました」


月白の足が止まる。


林夏も少し驚いた。


「彼女?」


「違うよ」


林夏が答える。


月白も同時に。


「まだ違います」


二人の声が重なった。


沈黙。


女性が目を丸くする。


「……すみません」


「いや、いいよ」


林夏が笑った。


月白は顔を少し赤くした。


女性は慌てて頭を下げる。


「失礼しました」


そう言って店を出ていった。


扉が閉まる。


林夏と月白だけになる。


「……まだ」


林夏が呟く。


「何?」


「いや」


「何?」


「月白が言ったから」


「忘れて」


「無理」


「忘れて」


「努力する」


月白は林夏を睨む。


でも。


口元は少し笑っていた。


*


午後。


林夏は修理作業を続けていた。


月白は本を読んでいる。


しばらくして。


月白が本を閉じた。


「林夏」


「ん?」


「さっきのこと」


「うん」


「私、勝手に言った」


「何を?」


「まだ違うって」


林夏は工具を置いた。


「別にいいよ」


「でも」


「月白がそう思ってるなら、それでいい」


「林夏は?」


「僕?」


「どう思ってる?」


林夏は天井を見る。


「分からない」


月白は少し笑う。


「林夏らしい」


「でも」


林夏は月白を見る。


「一緒にいたいとは思う」


月白の表情が変わる。


「それは」


「うん」


「大事なこと?」


「たぶん」


月白は静かに頷いた。


「じゃあ、私も」


「うん」


「一緒にいたい」


二人はそれ以上言わなかった。


*


夕方。


紅葉が店に来た。


「何、この空気」


「普通だよ」


林夏が答える。


「普通じゃない」


「どうして?」


「月白が妙に機嫌がいい」


月白は本を読むふりをする。


「そう?」


「そう」


紅葉は林夏を見る。


「何かあった?」


「何も」


「怪しい」


「何もないって」


紅葉はため息をついた。


「まあいい」


そして。


「七番から連絡が来た」


月白が顔を上げる。


「また?」


「うん」


「何て?」


「今度、昔の場所を見に行かないかって」


「行くの?」


「まだ決めてない」


林夏が言った。


「行きたいなら行けばいいじゃん」


紅葉は少し考える。


「……そうね」


「行きたくないなら行かなくていい」


「分かってる」


紅葉は笑った。


「最近、そればっかりね」


「便利だから」


「便利な言葉ね」


*


夜。


月白と林夏は店を閉めた。


二人で歩く。


月白が言った。


「今日」


「うん」


「少しだけ、嬉しかった」


「何が?」


「彼女に間違われたこと」


林夏は少し驚いた。


「そうなの?」


「うん」


「僕も」


月白が立ち止まる。


「本当に?」


「うん」


二人の距離が少し近くなる。


けれど。


どちらも手を伸ばさなかった。


まだ。


その先を急ぐ必要はない。


月白が笑った。


「じゃあ、今日はこれで十分」


「うん」


「明日は?」


林夏は空を見上げる。


「明日のことは、明日考えればいい」


「そうだったね」


二人はまた歩き始める。


【関係:継続】


【感情:相互確認】


【名称:未確定】


【次の選択:未定】


それでも。


二人とも。


明日も会うつもりだった。


それだけは。


もう、誰にも決められていなかった。

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