↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「その予定表、燃やしといて」と勇者に追放された軍師ですが、俺の“予定表”は味方を限界突破させる神バフだった~才能は要りません。予定表どおり動けば世界最強です~  作者: 凪白 黎
第3章:盗まれた作戦書と破滅へのカウントダウン

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
9/38

第9話:盗品の使い道

「その手帳を盗め。金はいくらでも出す」


薄暗い地下酒場。

腐った酒とカビの臭いが充満する空間で、アレンは乱暴に革袋をテーブルへ叩きつけた。


ジャラリ、と重い音が鳴る。

中からこぼれた数枚の金貨を見て、向かいに座る男が片眉を上げた。


「勇者様が、裏社会に盗みの依頼とはな。……ターゲットは誰だ?」

「リクトだ」


その名前を口にした瞬間、アレンの顔が屈辱に歪んだ。

フードを深く被った盗賊を睨みつける目は、異様なほど血走っている。聖剣を持つ勇者としての誇りなど、もうどこにもなかった。


「奴が持っている黒いノート……『魔導書』を盗み出せ」

「本か?」


盗賊は鼻で笑い、金貨を一枚つまみ上げて光にかざした。


「そんなもん奪ってどうする」

「決まってる。あの力を手に入れるためだ!」


アレンは指先が白くなるほど強く拳を握りしめた。

脳裏に焼き付いているのは、昨日の光景だ。

弱小ギルドがワイバーンを無傷で討伐したこと。Eランクの小娘が、指一本で自分の聖剣を弾き飛ばしたこと。


――全部、あのノート(魔導書)の力だ。


そうでなければ説明がつかない。あんな無能な荷物持ちに、自分が実力で負けるはずがないのだから。


「なるほどな」


盗賊は皮肉っぽく口の端を歪めた。


「失った女でも、名誉でもなく……本に嫉妬したわけだ」

「黙れッ!」


図星を突かれたアレンが机を叩く。

周囲の客たちが一斉に視線を向けたが、狂気に囚われた彼には気づかない。


「絶対に盗み出せ! これで全部だ!」


アレンはさらにもう一つの革袋を投げ出した。

護衛の報酬は消え、聖剣以外の装備をすべて売り払って作った、なけなしの全財産。それを躊躇いもなく裏社会の男に差し出す。


盗賊は二つの革袋を持ち上げ、重さを確かめるように軽く揺らした。


「……交渉成立だ。明日の夜までに、ブツを持ってきてやるよ」

「どんな鍵だろうが、どんな警備だろうが関係ない。必ず俺の元へ持ってこい……!」

「プロを舐めるな。お前の魔導書、確実に届けてやる」


黒い外套を翻し、盗賊が酒場から消える。

一人残されたアレンの顔に、久しぶりの笑みが浮かんだ。


歪みきった、歓喜の笑みだった。

泥にまみれた顔に、ドス黒い強欲だけが張り付いている。


(見ていろ、リクト……! お前のインチキを奪い取って、俺が最強の勇者に戻ってやる!)


◆ ◆ ◆


ドンッ。


王都の大通りを歩いていた俺の肩に、誰かがわざとらしくぶつかってきた。


「チッ、どこ見て歩いてんだ!」


目深にフードを被った男が吐き捨て、そのまま足早に雑踏へと消えていく。

その一瞬の接触で、上着の右ポケットから手帳の質量が消えた。わずかな布の摩擦音と重心の変化。プロの『スリ』だ。


俺は歩みを一切止めることなく、懐中時計を取り出してカチリと蓋を開ける。


13時51分10秒。


逃走した男の歩幅、重心移動、路地の構造から導き出した確保までの所要時間は3分15秒。手帳を取り返し、街の衛兵に状況を説明する手続きを含めれば、最低でも45分20秒のタイムロスが発生する計算だ。


対して、失った手帳の価値。

あの中に書かれているのは、今日の買い出し予定だけだ。


『14:00 右ルート(タイムセール特売肉)』

『14:05 障害物(おばちゃん軍団)回避』

『14:12 卵の特売トラップ(個数制限)突破』


王都市場のタイムセールを最短距離で回り、予算内で食料を確保するための、ただの節約メモ(買い出しリスト)である。

どこかの馬鹿が裏社会の人間を使って盗ませたのだろうが、他人の買い物の予定を知ったところで、俺のスケジュールには何の影響も及ぼさない。


15秒、16秒。


俺は歩調を一切崩すことなく、頭の中で瞬時に数式を展開し、ひとつの結論を弾き出した。


追跡にかける価値。――ゼロだ。

『0秒で放置』。


俺は男の後ろ姿に一瞥もくれず、上着の左ポケットから全く同じ黒い表紙の『予備の手帳』を取り出した。歩きながらページを開き、カリカリとペンを走らせる。


13時51分25秒。

作業時間は15秒。追跡より圧倒的に早い。


「リクトさん! 荷車の手配、完了しました!」


前方から、エリナが小走りで向かってくる。

その肩は僅かに上下して息をついているが、それは走った疲労からではない。『予定表に0.01秒でも遅れるかもしれない』という強迫観念に近い恐怖と、それに打ち勝って間に合わせた興奮によるものだ。


「予定より0.01秒早いな。優秀だ」

「ありがとうございます!」


俺は手帳を閉じた。


「行くぞ。14時ちょうどの特売肉、1秒の遅れも許されない」

「はいっ!」


俺は時計の秒針を見つめながら、予定通りに歩を進めた。

盗まれた手帳のことなど、俺の脳内からはすでに完全に消去されていた。


◆ ◆ ◆


「手に入れたぞォォォッ!!」


深夜。薄暗い安宿の一室に、アレンの絶叫が響いた。

向かいで盗賊が残りの金貨を数えて立ち去るのも気に留めず、アレンは奪った黒い手帳を高々と掲げる。その目は、狂気じみた興奮で血走っていた。


「見たか! これが奴の強さの秘密、無敵の魔導書だ!」


震える手でページを開く。

そこには、リクトの几帳面な文字で何かの『予定』が書き込まれていた。


『14:00 右ルート(特売肉)』

『14:05 障害物(おばちゃん軍団)回避』

『14:12 卵の特売トラップ突破』


仲間たちが息を呑んで手帳を覗き込む。


「肉……? おばちゃん軍団? 一体なんの暗号ですか?」

「分からないのか、馬鹿者!」


アレンは机を叩き、下劣で歪んだ歓喜の笑みを広げた。


「これは王都近郊の最高難度ダンジョン、『死の迷宮』の無傷突破ルートだ! 『右ルート』へ進めば安全という指示! そして『特売肉』とは、ボスのミノタウロスのことだな!」

「な、なるほど……!」

「さらに『おばちゃん軍団』の回避! これは凶悪なバンシーの群れが出現する罠部屋のことだ。この時間通りに進めば、奴らと遭遇せずにやり過ごせるというわけだ!」


仲間たちが一斉に感嘆の声を漏らす。

誰も本当の意味など理解していない。だが、弱小ギルドがワイバーンを無傷で倒した『異常な光景』を目の当たりにしている彼らは、これが究極の攻略本なのだと完全に狂信してしまっていた。


「はは……ハハハハハッ!」


アレンの笑い声が、やがて狂喜の高笑いへと変わる。


「今度こそ俺たちが英雄だ! この完璧な作戦書通りに進めば無傷で突破できる! あの無能の小細工を暴き、俺たちこそが最強だと世界に証明してやるぞ!」

「勇者様万歳!」


歓声を上げながら、勇者パーティーは深夜の街を飛び出した。

防具すらまともにない軽装で。意気揚々と、自信満々に。


自らが握りしめているものが『ただの買い出しリスト』であり、今から自分たちの足で『死の淵』へと踏み込もうとしていることなど、知る由もないまま――。


『勇者パーティー、最高難度ダンジョン侵入まで――残り3時間。』

◆ ◆ ◆ あとがき ◆ ◆ ◆

読んでいただきありがとうございます!

毎日の更新を『予定表』どおり完璧にこなすためにも、皆様からの応援が一番の原動力です!


少しでも「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、

ページ下部の【ブックマークに追加】と、

その下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして評価していただけると、作者の執筆モチベーションが限界突破するほどの「神バフ」になります!


明日はお昼の12:10に更新予定です。引き続きよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。