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「その予定表、燃やしといて」と勇者に追放された軍師ですが、俺の“予定表”は味方を限界突破させる神バフだった~才能は要りません。予定表どおり動けば世界最強です~  作者: 凪白 黎
第3章:盗まれた作戦書と破滅へのカウントダウン

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第10話:それはただの買い出しリスト

「ハッハッハ! 見ろ、やはりこの魔導書の通りだ!」


王都近郊に位置する最高難度ダンジョン『死の迷宮』。

薄暗く湿った地下通路に、勇者アレンの下劣な高笑いが響き渡った。


彼らの格好は、およそ迷宮探索に来たとは思えないほど無防備だった。

裏社会の盗賊を雇う資金を作るため、重鎧や盾などの防具一式をすべて売り払ってしまったのだ。全員が薄手のシャツとズボンという素人同然の軽装であり、唯一残されたのはアレンが腰に帯びた聖剣だけである。


「アレン……本当に大丈夫なの? 防具もなしでこんな深い階層に……」

「黙ってろ! お前たちは俺の指示通りに動けばいいんだ!」


震える魔法使いの言葉を、アレンは傲慢な態度で一蹴した。

その手には、全財産と引き換えに手に入れた『最強の攻略本(ただの買い出しリスト)』が握られている。


「フッ……なるほど。『14:05 障害物(おばちゃん軍団)回避』か」


アレンはページを見つめながら、ひけらかすように足を止めた。


「つまり、ここには群れを成す凶悪な罠魔物(バンシー)が仕掛けられているということだ! あの無能め、こんな完璧な攻略ルートを隠して――」


アレンがドヤ顔で振り返り、自慢話の解説を始めた――その直後だった。


ゴアァァァァッ!!


突如として目の前の壁から極太の火柱が噴き出し、凄まじい熱波が通路を焼き尽くした。


「「「ひっ……!?」」」


本来なら、歩行ペース的にパーティー全員が直撃し、丸焦げになっていたはずの致死トラップだ。

だが、アレンが「自慢話をするために足を止めた」という無駄なタイムロスのせいで、火柱は彼らの数メートル先を空しく炙る結果となった。


静まり返る通路。

仲間たちがへたり込む中、アレンは目を血走らせて狂喜の声を上げた。


「……見たか! 俺が『立ち止まれ』と指示したおかげで、致死のトラップを完全にやり過ごしたぞ!」


完全にただの偶然(奇跡)である。

だが、誰もその事実には気づかない。


「す、すごい……本当に、書いてある通りに……!」

「さすが勇者様です! この魔導書があれば、俺たちは無敵だ!」


仲間たちの顔から恐怖が消え、盲目的な狂信へと染まっていく。

自らがただの奇跡に生かされただけだと知る由もなく、アレンは鼻息荒く手帳を天に掲げた。


「ハハハハハッ! この力は最強の勇者である俺のものだ! 次の指示へ進むぞ!」


防具すら持たない愚かな勇者の高笑いが、死の気配が漂う迷宮に響き渡った。


「ギャアアアッ!」


薄暗い迷宮の通路に、仲間の戦士が痛ましい悲鳴を上げた。

肩から血を噴き出し、冷たい石畳に膝をつく。


防具をすべて売り払った素人同然の薄着では、最弱クラスのゴブリンが振り回す錆びたナイフですら、かすっただけで致命的な深手となってしまう。


「あ、アレン……! ポーションがないわ……手帳を盗ませる資金作りのために、一緒に全部売っちゃったから……!」


魔法使いの少女が青ざめた顔で訴えかける。

だが、勇者アレンは仲間の流す血に一切の関心を示さなかった。その血走った両目は、手元の『買い出しリスト』だけに狂ったように釘付けになっている。


「騒ぐな! ここは手帳にある『14:12 卵の特売トラップ(個数制限)突破』の地点だ!」


アレンは血を流す仲間を一瞥もせず、滑稽な脳内変換をドヤ顔で披露した。


「つまり、群がってくるゴブリンどもは『個数制限』! 一定数を倒せば道が開けるという暗号だ! お前たちの傷など、俺の完璧な攻略ルートにおける想定内の誤差に過ぎない!」

「そ、そんな……痛い……血が止まらない……!」

「泣き言を言うな! 立て! 次の指示へ向かうぞ!」


回復手段がない絶望的な状況も、彼の狂った脳内からは完全に抜け落ちていた。

アレンは仲間の呻き声をBGMに、鼻息荒く次のページをめくる。


「おおっ……! 次は『14:20 詰め放題の袋詰め競争』だと!?」


その文字列を見た瞬間、アレンの顔にドス黒い強欲の笑みが張り付いた。


「フハハハッ! 分かる、分かるぞ! 『詰め放題』……これは大量の財宝が眠る隠し部屋の暗号だ! 莫大な金銀財宝が詰め込まれているに違いない!」

「ざ、財宝……っ」


痛みに呻いていた仲間たちの顔が、その言葉に一瞬だけピクッと動いた。

この地獄のような苦痛が報われる。このまま進めば、大金持ちになれる。

限界を超えた疲労と恐怖の中で、彼らもまたアレンの『都合の良い解釈』に縋り付くしかなかった。


「行くぞ! ここを右だ! 財宝の部屋はもうすぐそこだぞ!」


最強の勇者気取りの高笑いと共に、アレンは意気揚々と薄暗い通路の奥へ駆け出していく。

『詰め込まれている』のが、金銀財宝などではなく、凶悪な魔物の群れだということには――誰一人として気づかぬまま。


血を流し、息も絶え絶えについてくる仲間たちを引き連れ、彼は自信満々に迷宮の最深部へと足を踏み入れていく。


その先には、不気味な装飾が施された巨大な両開きの扉がそびえ立っていた。


「フハハハッ! 間違いない、この奥が『詰め放題』の隠し部屋だ!」


アレンは一切の警戒もせず、ドヤ顔のまま力任せに扉を蹴り開けた。

ギゴゴゴッ、と重い音を立てて扉が開かれた瞬間――生暖かい異臭と濃密な死の気配が通路に溢れ出した。


「さあ、見せてみろ! 無能が隠していた莫大な財――」


歓喜の声を張り上げていたアレンの言葉が、途中でブツリと途切れた。


部屋の中に、金銀財宝など一つもない。

そこにあったのは、広大な空間に文字通り『隙間なく詰め込まれた』、おびただしい数の凶悪な魔物たちだった。


見上げるほど巨大なミノタウロス。壁に張り付く狂戦士(バーサーカー)。足元で牙を剥く魔犬の群れ。

高レベルの魔物が限界まで密集する最悪の罠部屋(モンスターハウス)。それこそが、手帳に記された『詰め放題』の正体だった。


「あ……え……? ちょっ、待っ――」


カラン、と。

アレンの震える手から、『最強の攻略本(買い出しリスト)』が滑り落ちた。


「グガアァァァッ!!」


一斉に、何十対もの血走った赤い眼が侵入者たちを捉え、鼓膜を破るような咆哮が響き渡る。


「ヒィッ……いやだっ!」

「た、助けて……!」


背後で仲間たちが腰を抜かし、絶望の悲鳴を上げた。

防具は、ない。

回復薬も、ない。

逃げ場すら、もうどこにもなかった。


「う、嘘だ……こんなの、書いてなかった……!」


最強の勇者を気取っていた傲慢なドヤ顔は、一瞬にして圧倒的な恐怖に無様に凍りつく。

一切の慈悲もなく、地鳴りのような足音と共に、先頭のミノタウロスが無防備な肉体を両断すべく、巨大な斧を振り上げた――。

◆ ◆ ◆ あとがき ◆ ◆ ◆

読んでいただきありがとうございます!

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次回は本日夜の20:20に更新予定です。引き続きよろしくお願いいたします!

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