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「その予定表、燃やしといて」と勇者に追放された軍師ですが、俺の“予定表”は味方を限界突破させる神バフだった~才能は要りません。予定表どおり動けば世界最強です~  作者: 凪白 黎
第3章:盗まれた作戦書と破滅へのカウントダウン

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第11話:最速のダンジョン攻略

「15分で終わる」


俺は懐中時計を取り出し、冷徹に言い放った。


王都近郊に位置するAランクダンジョン『黒曜の迷宮』。

数多くの冒険者が挑み、命を落としてきた危険区域だ。一般のパーティーであれば、一週間の入念な準備と命がけの覚悟をもって挑む死地である。


だが、俺の手にある予定表には、無駄な文字など一片たりとも存在しない。


『09:00 入場』

『09:03 第一階層突破』

『09:08 中間地点通過』

『09:15 最深部到達』


それだけだ。


「リクト様……本当に、この通りで?」


背後で、エリナが震える声で確認する。

不安ではない。期待に満ちた狂信的な熱で、彼女の瞳は潤んでいた。


最近の彼女は、予定表の秒数を見るたびに異様なまでの興奮状態に陥るようになっていた。


「当然だ。魔物の配置、地形、移動距離、お前たちの歩幅のブレ。すべて計算済みだ」


俺がそう答えると、エリナは狂喜に満ちた笑みを浮かべて頷いた。


「はいっ! 0.01秒のズレも出しません!」


後ろに並ぶギルド員たちも、一糸乱れぬ動きで装備を点検する。

恐怖や緊張などという無駄な感情は、俺の数式には不要なノイズでしかない。


「では開始する」


俺は懐中時計の蓋をカチリと閉じた。


針が9時ちょうどを指す。


「入るぞ」


重い扉を開いた瞬間、奥からAランク特有の猛烈な殺気が溢れ出した。

だが、俺たちは迷うことなく足を踏み入れる。


「第一手順、開始します!」


エリナが弾かれたように飛び出した。

秒針が、冷酷な正確さで未来を刻み始める――。


「右へ3歩、歩幅は45センチ。0.2秒後に頭上を鉄球が通過する」


俺が懐中時計の秒針を見つめたまま指示を出すと、エリナをはじめとするギルド員たちが一糸乱れぬ動きで歩幅を調整した。


ゴォォォッ!


直後、俺たちの頭のすぐ上を巨大な鉄球の罠が通過していく。

さらにその鉄球は、背後から俺たちに飛びかかろうとしていたAランク魔物『キラーマンティス』の群れを次々と粉砕していった。


「見事です、リクト様! 振り子の軌道と魔物の突進速度まで、すべてが計算通り……!」


エリナが頬を紅潮させ、恍惚とした表情で声を震わせる。

俺は足を止めることなく、次の数式を口にした。


「前方から火炎放射のトラップ。エリナ、斜め左へ半歩踏み込み、剣の腹で壁のスイッチを叩け。タイミングは今から3.42秒後」

「承知いたしましたっ!」


エリナが神速のステップで飛び出し、寸分の狂いもなく壁のスイッチを叩く。

その瞬間、噴き出しかけた火炎の向きが強制的に変更され、通路の奥で待ち伏せていた上位魔物のオークたちを一瞬にして灰に変えた。


放たれた罠を避けたのではない。

魔物の反撃を防いだのでもない。


『最初から、そこに立っていなかった』だけだ。


罠の起動時間、魔物の配置、それらが干渉し合うドミノ倒しのような連鎖。

そのすべてが、俺の脳内では一本の数式として完結している。

俺たちは剣を一度も振るうことなく、ただ指定された歩幅とタイミングで、この薄暗い通路を散歩しているだけだった。


「現在、9時4分58秒!」

「中間地点到達まで残り3分2秒!」

「予定表との誤差、0.00秒(ゼロ)ですっ……!」


背後で、ギルド員たちが異様な熱気を帯びた声でタイムを復唱する。

もはや彼らの中に、Aランクダンジョンの魔物を恐れる感情はない。ただ『リクトの予定表から0.01秒でも遅れること』だけを極度に恐れ、完璧なスケジュール進行という快感に完全に酔いしれていた。


Aランクダンジョンの攻略というより、工場のラインで決められた作業工程(タスク)を淡々と消化している感覚に近い。


「予定通りだ。次のページへ進むぞ」


俺が予定表を一枚めくると、エリナの顔がゾクゾクとした歓喜に染まる。


『09:08 中間地点通過』


俺の懐中時計の秒針は、一切の狂いなく、その時刻へ向かって正確に時を刻み続けていた。


◆ ◆ ◆


「9時15分00秒。最深部、到達だ」


俺が懐中時計の蓋をカチリと閉じると同時に、巨大な黒曜石の扉が目の前に現れた。

ダンジョン入場から一切の誤差なく、15分ジャストである。


「ああ……素晴らしいです! 15分ピッタリ……! 狂いなき完璧なスケジュール!」

「リクト様、万歳! 予定表、万歳ッ!」


背後ではエリナたちが興奮のあまり荒い息を吐き、狂信的な歓声を上げていた。

もはや彼女たちの目には、これから命がけのボス戦が控えているという事実など映っていない。


俺はその無駄なノイズを完全に無視し、淡々と目の前の重厚な扉を押し開けた。


ゴゴゴゴゴォォォォッ――!


開かれた広大な空間から、空気が軋むほどの猛烈な殺気が溢れ出した。

部屋の最奥。暗闇の中で、二つの巨大な赤い瞳がギラリと開く。


全長十メートルを超える漆黒の巨体。鋼のような鱗に、岩を容易く砕く爪。

かつて、勇者アレンたちが剣を振るうことすらできず、泣き叫びながら逃げ帰ったAランクダンジョンの災厄級ボス『黒曜竜グラディウス』であった。


ガアアアアアアアアアアアアッ!!


迷宮全体を揺るがす絶望の咆哮と、肌を突き刺す強烈な衝撃波が吹き荒れる。

並の冒険者であれば、その威圧感だけで腰を抜かし、死を覚悟するだろう。


かつてアレンはこの咆哮に腰を抜かし、無様に剣を落として逃げ惑っていたな。非効率極まりない。


「……ふむ」


大気を震わせる咆哮をBGMに、俺は退屈そうに欠伸を一つ落とし、手元の予定表を開いた。


「事前の予測データより、首の筋肉量が約3パーセントほど多いな。咆哮後の硬直時間が0.2秒ズレる」

「では、討伐時間に遅れが……!?」


エリナが(竜の威圧感ではなく)スケジュールが遅れることへの恐怖で顔を青ざめさせる。


「問題ない。生じた0.2秒のズレは、俺の歩幅を3ミリ広げて相殺する。討伐完了時間は『9時18分00秒』。予定通りだ。きっちり3分で終わらせる」


俺が手帳にサラサラと新たな数式を書き加えると、エリナは安堵と恍惚の入り混じった表情で腰の剣を抜いた。

後ろのギルド員たちも、誰一人として目の前の黒曜竜に怯むことなく、ただ俺の指定した立ち位置へと無機質に歩を進める。


巨大な竜が凶悪な顎(あぎと)を開き、極大の炎を吐き出そうと息を吸い込んだ。

その絶望的な光景を前にしても、俺の心に波風一つ立つことはない。


ズンッ、ズンッ、と大地を揺らす竜の足音。

それに抗うかのように、俺の手元でチクタクと響く懐中時計の小さな秒針の音。


俺は静かに時計の盤面を見つめ、新しいページに書かれた最初の一行を読み上げた。


「戦闘(さぎょう)開始。――3.18秒後、全員右へ半歩」

◆ ◆ ◆ あとがき ◆ ◆ ◆

読んでいただきありがとうございます!

毎日の更新を『予定表』どおり完璧にこなすためにも、皆様からの応援が一番の原動力です!


少しでも「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、

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明日はお昼の12:10に更新予定です。引き続きよろしくお願いいたします!

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