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「その予定表、燃やしといて」と勇者に追放された軍師ですが、俺の“予定表”は味方を限界突破させる神バフだった~才能は要りません。予定表どおり動けば世界最強です~  作者: 凪白 黎
第7章:究極の『算数』vs 極大魔法

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第37話(幕間):届かない天上の星

「早く手を動かせ! 1日のノルマの残り3列が終わるまで、水も飯も抜きだからなッ!」


薄暗い鉱山の底に、見張り役の容赦ない怒声が反響する。


「ひっ……! あ、あぁぁっ……」

泥と汗にまみれた元勇者アレンは、悲痛な呻き声を上げながら重いツルハシを振り下ろした。


かつて王都で持て囃された栄光の面影は、もはや微塵も残っていない。リクトという『補助輪』を失った彼らには、落石の危険を予測することも、効率よく鉱脈を見つけることもできなかった。

指示がないまま無様に硬い岩盤を叩き、怪我を増やしては泥水をすする。それが、彼らに与えられた永遠に続く惨めな労働の日常だった。


そこへ、松明を手にした見張りの兵士たちが通りかかる。彼らの雑談が、アレンの耳に飛び込んできた。


「おい、聞いたか? 王都に攻めてきた魔王軍の幹部が討伐されたらしいぞ」

「ああ。しかも同盟国のエリート騎士団じゃなくて、たった一つのギルド……あの『落ち葉の剣』の少女たちによってだろ?」


その信じがたい単語に、アレンの泥だらけのツルハシがぴたりと止まった。


「しかも全員ほぼ無傷だって話だ。魔法も使わずに『ただの算数』だけで、魔王軍を丸ごと消し飛ばしたってよ」

「化け物だな。あそこのギルドには、いったいどんな知将がいるんだ」

「それだけじゃない。あのプライドの高いエリート魔法騎士団長様が、リクトって男に泥下座して『私をあなたの駒にしてください』って泣き叫んで懇願したらしいぞ。でも当の本人からは『予定表の邪魔になるノイズ』だって、完全に一蹴されたそうだ」


笑い合いながら遠ざかっていく兵士たちの足音。

アレンはひび割れた唇を震わせ、手からツルハシを滑り落とした。


ガランッ、と冷たい鉄の音が薄暗い穴底に虚しく響く。


「嘘だ……あいつが、あの無能だったリクトが、国家の最高戦力すらゴミ扱いしているっていうのかよ……ッ!」


鉱山の底で泥水をすする彼らにとって、エリート魔法騎士団とは、見上げることも許されない雲の上の権威だった。いつかあの騎士団がリクトのメッキを剥がし、没落させてくれるはずだという思いだけが、暗闇の中で縋り付いていた最後の一縷の希望だったのだ。


だが、突きつけられた現実はあまりにも残酷だった。

その絶対的な権威すらも、リクトの前では無様に泥下座をして命乞いをするだけの存在に成り下がり、あまつさえ完全に切り捨てられたという。


「違う、違うんだッ! 俺たちはただ、あいつに少しだけ実力を見せてほしかっただけで……俺たちは……いったい、なんて恐ろしいバケモノを追放してしまったんだ……!」


アレンは泥水の中に四つん這いになり、狂ったように首を振り続けた。

泥と涙でぐしゃぐしゃになった顔を地面に擦り付け、折れた爪から血を流しながら、硬い岩盤をガリガリと掻きむしる。彼らが求めていたのは、わかりやすい魔法や剣の力だった。だが、リクトが操っていたのは、この世界の常識すらも書き換える極限の『計算』。

自分たちは、盤面を支配する神の如き知能を「無能」と嘲笑し、自らの手で捨て去ってしまったのだ。


すぐ横では、かつてリクトを小馬鹿にしていたパーティーの魔術師が、泥だらけの壁に頭を何度も打ち付けている。


「私が馬鹿だった……! 1秒でいい、たった1行の計算式でいいから、もう一度私に魔法の撃ち方を教えてよぉぉっ……!」


額から血を流しながら泣き叫ぶその姿は、すでに正気を失っていた。

かつては王都の歓声に包まれていた彼らだが、今や自力で一歩を踏み出すことすらできない。リクトは自分たちの補助輪だったのではない。自分たちこそが、リクトの計算がなければ何一つできない存在だったのだ。


「……もう、届かない」


アレンがゆっくりと顔を上げる。

鉱山の暗い天井には、空どころか星の一つすら見えない。それでも、その遥か彼方の高みにリクトがいるような気がして、アレンは泥だらけの右手を力なく伸ばした。


エリート騎士団長すらもゴミのように切り捨てられたのだ。地の底で泥水をすする自分たちなど、あの男の視界の端に1ミリも入ることはない。


「リクト……!」


届くはずのない手が、冷たい泥水へと崩れ落ちる。

かつて隣にいた男は、今や絶対に手の届かない『天上の星』となってしまった。


「誰か……お願いだ、俺たちをここから出してくれ……俺に……生きるための指示(算数)をくれぇぇぇぇっ……!」


一生この暗い鉱山から出られない絶望と、二度と取り返しのつかない後悔。

絶対に手の届かない天上へと登り詰めていくリクトとの絶望的な格差を前に、惨めな元勇者たちの慟哭だけが、いつまでも冷たい穴底に響き続けていた。


光の届かない漆黒の闇の中、アレンの泥だらけの手が、存在しない星を求めて虚しく宙を掻いていた。

◆ ◆ ◆ あとがき ◆ ◆ ◆

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次回は明日夜の20:20に更新予定です。引き続きよろしくお願いいたします!

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