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「その予定表、燃やしといて」と勇者に追放された軍師ですが、俺の“予定表”は味方を限界突破させる神バフだった~才能は要りません。予定表どおり動けば世界最強です~  作者: 凪白 黎
第6章:凡夫の戦術と、極限の『算数』

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第29話:プライドの粉砕

「よし、卵は無事ですね! オムレツの火入れの時間まであと12分、急いでギルドに戻りましょう!」


地獄と化した戦場のド真ん中で、エリナの場違いに明るい声が響き渡った。

彼女たちは山のように積み上がった500体の魔物の死骸には一瞥もくれず、大事そうに特売の赤卵を抱えて背を向ける。


「ま、待て……」


血と泥に塗れて這いつくばっていたエリート騎士団長レオナルドが、震える声を絞り出した。


「お前たちは……あの大軍勢との戦いを、何だと思っている……?」


彼らは血統と魔力を誇り、命懸けで死地に飛び込んだ。

だが結果は、地形の傾斜で足並みを乱し、風向きを無視した味方の魔法で勝手に自爆しただけだった。


一方で、無能だと見下していた平民の少女はどうだ。

呼び止められたエリナは不思議そうに振り返り、胸のパックを撫でながら真顔で答えた。


「戦い? いえ、卵を揺らさないように歩く『ついで』のゴミ掃除ですが」

「…………っ」


レオナルドの胸を、目に見えない巨大な杭が貫いた。

自分たちが命を懸け、誇りを掲げて挑んだ魔王軍。それが彼女たちにとっては、買い物帰りの道の端に転がる小石以下の障害物(タスク)でしかなかったのだ。


積み上げてきたエリートとしての誇りすべてが、1パックの特売卵の価値にも及ばなかった。


足元の血溜まりすら完璧に避けた汚れ一つない姿で、再び『右に2歩、左に半歩』の奇妙なステップを刻みながら遠ざかっていく少女たち。


ガシャッ、と。

レオナルドは白銀の鎧を泥に沈め、両手で顔を覆った。


「あぁ……あああっ……!」


完膚なきまでにへし折られたエリートとしての誇り。

絶望と屈辱に染まった嗚咽を漏らしながら、泥をすする彼の脳裏には、さらなる底知れぬ恐怖が這い上がってきていた。


この化け物のような少女たちすらも、無能だと後方へ追放したあの平民の軍師にとっては、盤面を支配するための『算数』の一部に過ぎないという事実に。


『3日後の14時ジャスト。お前たちの陣形は完全に崩壊する』


泥に這いつくばるレオナルドの脳裏に、3日前の会議室での光景が鮮明にフラッシュバックしていた。

美しい作戦地図に容赦なく赤ペンを引きながら、あの平民の男が突きつけてきた冷徹な予言。


当時は「誇り高きエリートを愚弄する戯言だ」と激怒し、彼らを後方へ追放して勝ち誇っていた。

だが、現実はどうだ。


地面に潜む、約3度の傾斜による足場の沈下。

毎秒8メートルの風向きを無視したことによる、味方への魔法の誤爆。

時計塔が14時を告げた瞬間、男が赤ペンで『×』をつけた通りの手順で、自分たちの陣形は1秒の誤差もなく崩れ去った。


「ひっ……あ、あああっ……」


レオナルドはガタガタと全身を震わせ、泥だらけの腕で己の体を抱きしめた。

エリートとしての誇りも、圧倒的な魔力も、何の意味も持たなかった。この異世界において絶対的な力であるはずの常識が、あんなちっぽけな『算数』によって完全に支配されていたのだ。


自分たちも、500体の大軍勢も、自称天才の魔王軍幹部も。

あの男からすれば、予定表の中に書き込まれた『変数』の一つに過ぎない。


あの男は、我々を救おうとしたのではない。

戦場を荒らすノイズとして計算式に組み込み、少女たちの買い物ついでのタスクとして最も効率的に処理しただけだ。


「ば、化け物だ……。あんな男に、私たちは喧嘩を売って……っ」


自分たちが手玉に取られていたことすら気づかず、盤上で滑稽に踊らされていたピエロだったのだと理解し、エリート騎士団長の心は完全に壊れ去った。

血と泥に塗れた戦場のド真ん中で、彼はただ無様に、ガチガチと歯の根を鳴らして震え続ける。


だが、この戦場に取り残された哀れなピエロは、彼一人ではなかった。


◆ ◆ ◆


「どんな高度な魔力探知を使っている! 貴様ら、一体何者なんだぁぁっ!」


血と泥に塗れた戦場で、自称・魔界一の天才軍師ザッカスは虚空を睨みつけ、喉が裂けんばかりに絶叫した。

足元に広がるのは、彼が絶対の自信を持って投入した500体の魔王軍の無惨な残骸だ。


彼が数日をかけて練り上げた、幻惑魔法と伏兵を用いた完璧な奇策。

それが、ただ特売の赤卵を無傷で持ち帰るための『歩き方』によって、ことごとく踏み躙られたという現実。


「ば、馬鹿な……馬鹿な馬鹿な馬鹿なぁぁぁぁっ!」


ザッカスは権威の象徴であった禍々しい杖を泥の中へ投げ捨て、両手で己の髪を力任せに掻きむしった。


「私の完璧な陣形が……たかが1パックの特売卵に負けただと……? 認めん! そんなオカルトがあってたまるかぁっ!」


血走った目が、宙を彷徨う。

見えないはずの伏兵は、奇妙なステップの『ついで』に首を落とされた。

必殺の全軍突撃は味方の魔法の誤爆で自滅し、切り札の増援すらも、少女が放り投げた大剣の落下軌道によって一撃で粉砕された。


彼を打ち破ったのは、高度な魔法でも圧倒的な武力でもない。ただの『物理法則』と『算数』による事後処理だ。

だが、魔法至上主義の彼にそれが理解できるはずもない。


「違う……違うはずだ……! あれは高度な暗殺術だ! 古代魔帝の秘術に違いない! そうでなければ、天才である私が負けるはずがない!」


ザッカスは充血した目で周囲を見渡し、もうそこにはいない少女たちへ向かって吠え続ける。


「答えろぉぉっ! どんな魔法を使った! 私の完璧な策の、どこに穴があったというのだぁぁっ!」


だが、通信はすでに切られている。

彼がどれほど泣き叫ぼうと、誰一人として答える者はいない。


「誰か答えろ! 私を誰だと思っている! 私は魔界一の天才なんだぞぉぉっ!」


誰の返答もない、静寂の戦場。

自称天才軍師は、自らが築き上げた500体の死骸の山の中で、永遠に届かない答えを求めて地団駄を踏み、ただひたすらに滑稽な絶叫を張り上げていた。


――己の無能さに気づかず『算数(リクト)』を手放した愚か者たちへの苛烈な報いは、まだ終わらない

◆ ◆ ◆ あとがき ◆ ◆ ◆

読んでいただきありがとうございます!

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次回は明日夜の20:20に更新予定です。引き続きよろしくお願いいたします!

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