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「その予定表、燃やしといて」と勇者に追放された軍師ですが、俺の“予定表”は味方を限界突破させる神バフだった~才能は要りません。予定表どおり動けば世界最強です~  作者: 凪白 黎
第6章:凡夫の戦術と、極限の『算数』

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第28話:遠隔からの盤面支配

「3、2、1……0。今だ、投げろ」


俺が通信具越しに短く告げた瞬間、最前線のエリナがスッと身を屈めた。

彼女は特売の赤卵を胸に大事に抱いたまま、空いた片手で大剣を真上へと勢いよく放り投げる。


「な、なにっ!? 武器を手放す気か! 避けろォォッ!」


眼下で泥に這いつくばるエリート騎士団長レオナルドが、500体の魔物に向かって無防備にしゃがみ込む少女たちの奇行に悲鳴を上げた。

だが、俺の計算に1ミリの狂いもない。


ゴォォォォッ!!


直後、敵の後衛部隊が放った無数の火炎魔法が、しゃがみ込んだエリナたちの頭上をギリギリで通過していった。


「ぎゃあああああっ!」

「あ、味方の魔法だ! 止まれぇっ!」


凄まじい爆発音と、魔物たちの断末魔が戦場に響き渡る。

目標であるエリナたちが突然しゃがんで射線を空けたことで、魔法はその後ろから突撃してきていた敵の前衛部隊へと見事に直撃したのだ。


ザッカスが激怒に任せて命じた『全軍突撃』。

前衛が猛スピードで突進している最中に後衛へ魔法を撃たせれば、標的が消えた瞬間に同士討ちが起きるのは、あまりにも基礎的な物理現象(算数)である。


「……予測誤差、0.02秒。問題ない」


俺は遥か後方の高台から、敵が勝手に自滅していく無様な大惨事を見下ろした。

感情で動く三流など、最も計算しやすい単なる変数だ。同士討ちによる混乱で、突撃してきていた魔王軍の足は完全に停止し、密集地帯が出来上がっている。


「さて。次は重力加速度の証明だ」


俺は手元の懐中時計を見つめ、はるか上空へと舞い上がった大剣の落下軌道を計算式に組み込む。

「風速、毎秒8メートル。高度、約50メートル」

現実の軌道と、頭の中の数式を照合していく。


重力に引かれて落下を始める大剣。だが、ただ真下へ落ちるわけではない。北西からの風圧を受け、刃はわずかに東へと流れていく。

俺が狙ったのは、その流れた先だ。


『ギャアアアアッ!?』


雲の隙間から、耳を劈くような悲鳴が轟いた。


「なっ……!? 上空の増援が、なぜバレて……っ!」


地上で事態を把握しきれないザッカスが、血走った目で天を仰ぐ。

彼が密かに上空へ待機させていた、奇襲用の巨大な飛行魔物。エリナが投げ上げた大剣は、風と重力加速度の完璧な計算軌道を描き、死角に潜んでいたその巨体を正確に貫いていた。


ズドガアァァァンッ!!


絶命した飛行魔物が、数トンの質量を持った隕石となって敵陣のど真ん中へと墜落する。


「ぎゃあっ!?」

「逃げろっ! 潰され――」


直前の同士討ちで密集し、完全に足が止まっていた500体の魔物たち。

そこへ巨大な質量が上空から容赦なく降り注げばどうなるかなど、小学生でも分かる算数だ。巨大な『質量兵器』と化した魔物の死骸が、地上の敵を将棋倒しにすり潰して粉砕していく。


敵が勝手に密集し、勝手に自爆し、勝手に上から潰される。

俺はただ、大剣の落下座標を計算し、指定しただけだ。


「質量×加速度=破壊力。完璧な物理法則の証明だな」


土煙と断末魔が入り混じる地獄の惨状を、俺は高台から無表情で見下ろした。


◆ ◆ ◆


「なぜだァァァッ! なぜ上空の増援まで分かった!?」


風に乗って、遠くの戦場からザッカスの悲鳴じみた絶叫が届いた。


「どんな高度な魔力探知を使っている! 私の伏兵配置を、まるで最初から知っていたように――貴様ら、一体何者なんだぁっ!」


通信具越しにも喚き散らすその声を、俺はただの環境音(ノイズ)として聞き流した。

魔力探知などという不確かなオカルトは使っていない。飛行魔物の羽音、雲の動き、風向き、飛行速度。それらの変数を数値(データ)に変換し、風速と重力加速度から落下座標を逆算しただけだ。


眼下では、盤面を荒らしていた500体の魔王軍が、同士討ちと巨大な質量落下によって完全に崩壊していた。

立っている魔物は数えるほどしかいない。統率を失い、算数一つで壊滅した集団に、もはや脅威と呼べる要素は皆無だ。


俺は手元の羊皮紙を開き、『14時08分:害虫駆除(増援含む)』の項目へペン先を置いた。


カリッ。


事務的なチェックマークを一つ書き込む。

これで本日の防衛タスクはすべて完了だ。


「……うるさいな」


俺は通信具の音量を切り、発狂するピエロの絶叫を物理的にシャットアウトした。


「エリナ。残りの掃討はしなくていい。卵を守ったまま帰還しろ」

『はいっ、リクト様! 卵は1個も割れていません!』


通信具越しに、弾んだ少女の声が返ってくる。


「よし。オムレツの火入れまで、残り12分だ」


俺は懐中時計の蓋を閉じ、今夜の夕食の段取りへと完全に意識を切り替えた。

己の無力さとプライドを完全にへし折られたエリートたちが、眼下でどのような絶望顔を浮かべているかなど、俺の予定表(タスク)には1ミリも関係のないことだ。

◆ ◆ ◆ あとがき ◆ ◆ ◆

読んでいただきありがとうございます!

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次回は明日夜の20:20に更新予定です。引き続きよろしくお願いいたします!

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