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「その予定表、燃やしといて」と勇者に追放された軍師ですが、俺の“予定表”は味方を限界突破させる神バフだった~才能は要りません。予定表どおり動けば世界最強です~  作者: 凪白 黎
第6章:凡夫の戦術と、極限の『算数』

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第27話:踏み躙られる『奇策』

「死ねぇっ! ふざけた小娘ども!」


ザッカスの号令とともに、瓦礫や泥濘に身を潜めていた魔王軍の伏兵たちが一斉に跳躍した。

完全に視覚を騙した死角からの奇襲。鋭い爪や槍が、無防備に卵を抱えるエリナたちの背中へ迫る。

普通なら避けようのない一撃。だが――。


「右に2歩、前に3歩、左に半歩」


エリナは特売の赤卵を胸に抱えたまま、ブツブツと呟き、奇妙なステップを踏んだ。


ヒュンッ!


振り下ろされた魔物の爪がエリナの残像だけを切り裂き、空しく虚空を叩く。

彼女の踏んだ『卵を割らないステップ』は、奇襲を仕掛けた伏兵たちの攻撃軌道を、1ミリの誤差もなく完全に躱し切る完璧な回避行動だった。


「すみません、ちょっと通りますね。特売パックに血が跳ねると困るので」


エリナは鼻歌交じりにステップを刻みながら、空いた片手で腰の剣を抜く。

そして体勢を崩した伏兵とすれ違いざまに、銀閃を一度だけ煌めかせた。


ゴトンッ。


軽い音とともに魔物の首が宙を舞い、地面に転がり落ちる。

しかしエリナは倒れる魔物に一瞥もくれず、胸の卵を大事そうに撫でた。


「ふふっ、振動ゼロです! リクト様の予定表通りに歩けば、ゴミ掃除をしながらでも卵は絶対安全ですね!」

「次、斜め前に1歩!」

「左に2歩!」


背後では、ギルド員たちも同じように奇妙なステップを踏んでいた。

右へ2歩。左へ半歩。

そのたびに、見えないはずの伏兵の攻撃を紙一重で躱し、ついでのように首を落としていく。


それは戦闘ですらなかった。

エリナたちにとって伏兵は、買い物帰りの道に転がっている小石程度の障害物でしかない。卵を揺らさないよう慎重に歩く『ついで』に、ただ首を刎ねているだけだ。


「な、なんだ……これは……っ」


ザッカスの顔から、自負と余裕が完全に消え失せていた。

数日かけて練り上げた完璧な奇策が、特売帰りの少女たちによって文字通り踏み躙られていく。


「ば、馬鹿な……。なぜ私が見えない伏兵の配置とタイミングを完全に把握している!?」


圧倒的な格の違いを見せつけられ、自称天才軍師は蒼白な顔でわななき始めた。


◆ ◆ ◆


「ば、馬鹿な……っ! まさか貴様らが踏んでいるその異常な足運びは、失われた伝説の絶技……『古代魔帝の暗殺歩法』か!?」


ザッカスは血走った目でエリナたちのステップを凝視し、わなわなと唇を震わせた。

伏兵の死角を完璧に把握し、最小限の動きで攻撃を躱しながら首を刎ねる。その神業のような戦闘軌道を前に、自称天才軍師の脳は勝手に高度な戦術だと解釈して戦慄していた。


「恐ろしい連中だ! 気配を完全に殺し、私の完璧な陣形を読み切った上で、あえて無防備を装って伏兵を誘い込んだというのか……っ!」


額から滝のように冷や汗を流し、ザッカスは恐怖に顔を引きつらせる。

一方、高度な戦術だと絶賛されたエリナは、きょとんとして不思議そうに小首を傾げた。


「え? 暗殺……?」


その時、死角から別の伏兵が槍を突き出してきた。


「次、左に半歩!」


エリナが奇妙なステップを踏む。空振りした槍の横を抜け、一度だけ閃いた銀の剣が伏兵の首をあっさりと刎ね飛ばした。


「――いえ、ただ卵が揺れないように歩いているだけですが」

「…………は?」


ザッカスの口から、間の抜けた声が漏れた。


「普通に走ると、振動で卵同士がぶつかって割れちゃうじゃないですか。剣を振る風圧すら影響しないように、リクト様が計算してくれた『卵への衝撃を完全にゼロにするステップ』を踏んでいるんです」


エリナは真顔で答え、胸に抱えた特売の赤卵パックを誇らしげに見せつけた。

彼女の意識は「いかに魔物を倒すか」ではなく、「いかに特売品を無事に持ち帰るか」にしか向いていない。


「た、卵だと……? ふざけるな! 魔界一の天才である私の奇策を粉砕した動きが、ただの買い物帰りの歩き方だと言うのか!」


魔界で数日かけて考え抜いた奇策が、幻惑魔法が、完璧な死角からの奇襲が。

そのすべてが、たった1パックの特売卵を守るための歩幅によって、文字通り踏み潰されていく。


「はい! あと、ついでにそこのゴミ掃除も終わらせるように言われているので!」


エリナは朗らかに笑いながら、再び右に2歩、前へ3歩のステップを軽やかに刻む。

背後から迫っていた新たな魔物の首が、またしても『ついで』のように地面へ転がり落ちた。


「ひぃっ……! ば、化け物め……っ!」


自分が練り上げた必殺の戦術が、少女たちの買い物ついでの作業(タスク)として処理されていく究極の温度差。

理解の範疇を超えた圧倒的な格の違いを突きつけられ、ザッカスは屈辱と恐怖で顔を歪ませた。


「ふざけるなァァァッ!!」


◆ ◆ ◆


「全軍、一斉攻撃だ! 伏兵も幻影もいらん! あのふざけた小娘どもを、特売の卵ごとミンチにしてしまえェェェッ!」


屈辱と恐怖で完全に狂乱したザッカスの絶叫に応え、後方に待機していた500体の魔物たちが一斉に咆哮を上げた。

重い地鳴りが響き、濁流のような大群がエリナたちへ向かって殺到する。


「あ、ああ……終わりだ……っ」


泥に這いつくばるエリート騎士団長のレオナルドが、圧倒的な数の暴力を前に絶望の呻き声を漏らす。

いくら奇妙なステップで少数の伏兵を凌いだところで、正面から押し潰してくる500体の突撃には無意味だ。エリート騎士団の誰もがそう確信した。


だが、エリナたちの顔に焦りの色は微塵もなかった。

彼女は迫り来る魔物の大群に一瞥もくれず、胸の特売パックを落とさないようにしっかりと抱え直す。


そして、耳元に装着した小さな魔法通信具へ、トントンと指先を当てた。


「リクト様。害虫が500匹ほど一束になって向かってきます。このままだと、特売の赤卵に土埃がかかってしまいます」


風のざわめきに混じり、通信具の向こうから、遥か後方にいるはずの天才軍師の冷徹な声が響く。


『問題ない。感情で動く三流など、最も計算しやすい単なる変数だ。行動予測の誤差は0.02秒もない』


眼前の大軍勢をただの数字(データ)として処理する、絶対者の声。


『次の数式(タスク)を送る。――そこをしゃがめ。そして3秒後、大剣を真上へ力いっぱい放り投げろ』

「了解ですっ!」


エリナは元気よく返事をし、押し寄せる魔物の群れの眼前で、一切の躊躇なく無防備にしゃがみ込んだ。


「なっ……何を血迷っている!? 避けろォォッ!」


レオナルドの悲鳴が戦場に響き渡る。

正面から500体の魔物が突撃してきているのに、なぜしゃがむのか。なぜ大剣を『前』ではなく『真上』へ放り投げるのか。


エリートの常識では到底理解できない盤面の中で、少女たちは特売の卵を大事に抱えたまま、笑顔で告げた。


「「「3、2、1……っ!」」」


絶望と混乱が渦巻く戦場のど真ん中で、ひどく場違いで楽しげなカウントダウンが響き渡る。

◆ ◆ ◆ あとがき ◆ ◆ ◆

読んでいただきありがとうございます!

毎日の更新を『予定表』どおり完璧にこなすためにも、皆様からの応援が一番の原動力です!


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次回は明日夜の20:20に更新予定です。引き続きよろしくお願いいたします!

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