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「その予定表、燃やしといて」と勇者に追放された軍師ですが、俺の“予定表”は味方を限界突破させる神バフだった~才能は要りません。予定表どおり動けば世界最強です~  作者: 凪白 黎
第5章:Sランクの日常と、新たなノイズ

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第26話:崩壊の時刻と、買い物帰りの少女たち

「さあ、無能な人間どもを一匹残らず引き裂いてやれ! この王都は、天才である私が支配する!」


魔王軍幹部ザッカスの高笑いが響き渡る中、王都の時計塔が重厚な鐘の音を鳴らした。


ゴォォォォン……。


14時ジャスト。

俺は防壁の上から、眼下に広がる惨状を一瞥した。


地形の傾斜で足並みを乱し、風向きを無視した味方の魔法で勝手に自爆して崩れ落ちたエリート騎士団。

俺が3日前に赤ペンで書き込んだ『崩壊の予言』は、1秒の誤差もなく完璧に現実のものとなった。


戦場を覆い尽くす絶望の悲鳴も、自称天才軍師の勝ち誇った笑い声も、俺にとってはただの環境音(ノイズ)でしかない。

俺は手元の羊皮紙を開いた。


『14時00分:変数(囮のエリート騎士団)の自滅処理』


その項目の横に、ペンで短くチェックマークを書き込む。

これで盤面を荒らしていた無能なノイズは一掃された。勝手に前線へ飛び出し、敵の魔法とヘイトを全て引き受けてくれた極上の囮たちには、感謝しかない。


「さて、次のタスクだ」


俺は懐中時計の蓋をカチリと閉じた。

予定表の次の行へ視線を滑らせる。


『14時02分:卵のタイムセール確認』

『14時05分:残った変数(害虫)の駆除』


約500体の魔物と、幻惑魔法の使い手。あいつらの歩幅と処理速度から逆算すれば、10分もあれば終わる作業だ。これなら肉屋の特売にも十分間に合う。


俺がペンをしまったその時、防壁の階段を上ってくる、妙に軽快な足音が聞こえてきた。


「右に2歩、前へ3歩、左に半歩……よし! 1個も割れていません!」


防壁の階段を上りきり、戦場が見渡せる場所へと姿を現したエリナが、不自然なほど小刻みで奇妙なステップを踏みながら歩み寄ってきた。

彼女の腕の中には、特売の赤卵パックが大事そうに抱えられている。少しでも振動を与えないための、彼女なりの慎重な足運びなのだろう。

背後に続くギルド員たちも、同じように変なステップを踏みながら真剣な顔で卵を死守している。


「リクト様! 幻の赤卵、無事に確保いたしました!」


その時、眼下の戦場から情けない叫び声が響いた。


「お、おおっ……! き、貴様ら、我々を助けに戻ってきたか!」


泥と味方の血に塗れ、這いつくばっていた騎士団長レオナルドだ。彼は防壁の上に現れた俺たちを見つけ、縋るように、しかし相変わらずの上から目線で叫んだ。


「さすがは我々の同盟だ! 恐れをなして逃げたかと思ったが、遅れた分は目を瞑ってやる! さあ、早く降りてきてこの私を護衛しろ!」


必死の命乞い。しかし、エリナたちは眼下でわめくレオナルドに一瞥もくれず、キラキラとした瞳で俺だけを見つめていた。


「リクト様! 次の『害虫駆除』のタスクですが、このまま戦場へ降りてよろしいですか?」


エリート騎士団長の悲鳴など、彼女たちの耳には一切届いていない。特売の卵と今夜のオムレツの段取りに比べれば、国家の権威など1ミリの価値もないノイズなのだ。


「ああ。予定表の時刻通りだ」



俺は懐中時計を確認し、羊皮紙の次の行を指で叩いた。




『14時05分:残った変数(害虫)の駆除』




「先ほど指定した『卵を割らないステップ』のまま、前線へ向かえ。3分で片付けるぞ」

「「「はいっ!!」」」


俺の指示に元気よく頷き、少女たちは再び奇妙なステップを踏みながら、絶望の戦場へと躊躇いなく降りていく。


「な……なぜ私を無視する! 待て、待てぇっ!」


呆然と叫ぶレオナルドの顔を、絶望からさらなる屈辱が染め上げていった。

俺は事後処理を見届けるため、防壁の上から戦場へと向かう少女たちの背中を見下ろした。


◆ ◆ ◆


「…………え?」


戦場を支配していたはずの魔王軍幹部ザッカスが、ポカンと間抜けな口を開けて固まっていた。

目の前には、自滅して這いつくばるエリート騎士団と、武器を構えた500体の魔物たち。普通なら、誰もが絶望に震える光景だ。

だが、奇妙なステップで戦場に降りてきた少女たちからは、一切の恐怖が感じられない。


「リクト様! 見てください、卵、1個も割れていません!」


血と土煙が舞う戦場のド真ん中だというのに、エリナは満面の笑みで赤卵のパックを掲げてきた。

背後に続くギルド員たちも「これなら綺麗なオムレツが作れますね!」と、周囲を囲む魔物など完全に風景の一部として扱っている。


「当然だ。素人の歩幅から生じる重心のブレを計算し、卵への重力加速度を極限まで相殺するステップだからな。よくやった」

「ありがとうございますっ!」


俺が褒めると、エリナたちはパァッと花が咲いたように顔を輝かせた。


「……な、何だこれは……!」


ザッカスの声が微かに震える。

圧倒的な戦力と奇策で絶望を与えたはずなのに、目の前の人間たちは『卵』のことしか口にしていない。


「き、貴様ら……魔界一の天才であるこの私を見て、何も感じないのか! 私を無視するとはどういうつもりだ!」


顔を真っ赤にして杖を振り回すザッカス。

だが、俺の意識はすでに手元の懐中時計へ向いていた。


14時05分。予定通りだ。


俺は羊皮紙を開き、『残った変数(害虫)の駆除』の項目を指で叩いた。


「エリナ」

「はいっ!」

「あれが害虫ですか?」


エリナが小首を傾げて魔王軍を指差す。


「ああ。美味しいオムレツを作るには、火入れのタイミングが命だ。――1秒の遅れも許さん。さっさと掃除しろ」

「了解です! 卵最優先で、ゴミ掃除を終わらせます!」


俺たちのやり取りを聞き、ザッカスが怒りで顔を歪ませた。


「ふざけるなァッ! おい、伏兵ども! あの生意気な小娘どもを背後から八つ裂きにしろ!」


自称天才軍師が、姿を隠していた魔物たちへ奇襲の命令を下す。

だが、その程度の伏兵の配置など、俺の計算式の中ではとうの昔に処理済みだ。


「エリナ。そのままの『卵を割らないステップ』で進め。3分で片付けるぞ」

「はいっ!」


特売パックを大事そうに片手に抱え直し、エリナはニコッと笑って腰の剣を抜いた。

そして『右に2歩、前へ3歩、左に半歩』の奇妙なステップのまま、見えない伏兵たちの死角――いや、奴らの首を刎ね落とす『完璧な軌道』へと、迷いなく踏み込んでいった。

◆ ◆ ◆ あとがき ◆ ◆ ◆

読んでいただきありがとうございます!

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次回は明日夜の20:20に更新予定です。引き続きよろしくお願いいたします!

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