【第弐拾参話】まぁ少年、ドワーフの国へ。
旧サパニヤ王国の解体を宣言したフォグは、キャラメルの助言を受け「軍事国家エリアF」の設立を表明。指揮系統を確立すべく、適性を持つ志願者を士官として任命していく。音響兵器・通信要員としてテイ少佐(音属性)、近接制圧と調理を担うシノギ中佐、そして海軍カレーの冷却・保冷要員として7歳のパンケーキ・アイス特務少尉(氷属性)を強引に抜擢。理不尽と狂気に満ちた新生軍事国家が、ここに産声を上げるのだった。
海軍カレーの強烈なスパイスとフォグの演説によって、「軍事国家エリアF」としての新たな体制が敷かれた中央広場。狂乱にも似た歓喜の余韻が落ち着き始めた頃、キャラメルは白衣のポケットに両手を突っ込み、だるそうに大きな欠伸を噛み殺した。
「ねぇ少年。指揮系統を確立して民衆を労働力として再定義したのはいいけどさぁ、この国、インフラがボロボロだよぉ。いくらモチベーションが高くても、それを効率的に回す『ハードウェア』がないと、社会システムのエントロピーは増大する一方だねぇ」
フォグは重厚なコートの襟元を引き上げ、冷徹な三白眼で崩れかけた王都の建造物を見回した。
「……チッ。確かに、あの狂った僭主が放った質量兵器のせいで、防衛拠点も生産施設も物理的に粉砕されているからな。兵站を維持するための堅牢な要塞化と、兵器生産のオートメーション化が急務だ。だが、この烏合の衆に高度な工学技術を叩き込むには時間が足りん」
二人が現状の戦術的欠陥を分析していると、ふさふさの尻尾をパタパタと揺らしながらスクワールが身を乗り出してきた。
「それなら、『トーキルン』って国に行ってみたらどうかなっ! そこにはドワーフさんたちが住んでて、すっごい建築とか物作りの技術を持ってるんだよ!」
「ほう、ドワーフか」
キャラメルが眠そうな目をわずかに開いて興味を示した。
「ファンタジー定番の種族だねぇ。彼らの冶金技術や材料工学と、ボクたちの化学を組み合わせれば、かなり面白い合金や触媒が作れそうだ。彼らの技術基盤をハッキングして、効率的な生産ラインを組みたいねぇ」
フォグの瞳の奥に、爛々(らんらん)とした狂気的な熱量が宿る。
「フハハハハ! 素晴らしい! 前近代的とはいえ、高度な工学技術を持つ集団ならば、我が軍の戦術兵器を量産する巨大な『軍事工廠』として最適化できる! ドワーフどもが牧歌的にハンマーを振るう鍛冶場を、24時間稼働の冷徹な軍需工場へと書き換えてやる! 鉄の匂いと硝煙が立ち込める、美しき大量生産の地獄を見せてやろう!」
フォグは幼い顔を悪魔のように歪ませて高笑いすると、即座に振り返り、任命したばかりの士官たちへ向けて鋭い号令を飛ばした。
「これより、我が軍はドワーフの国家『トーキルン』へ向け、技術的買収を目的とした遠征を行う! マーシャル! 貴様はエリアFに残留し、物理的な近接制圧能力をもって防衛線および治安維持を担当しろ!」
背中の大剣を担ぎ直したマーシャルが、獰猛な笑みを浮かべて頷いた。
「おう、任せとけ。お前らが帰ってくるまで、この街に近づく敵は俺の大剣の錆にしてやるぜ」
「そしてパンケーキ・アイス特務少尉!!」
「ひぃぃっ! は、はいぃぃっ!」
フォグの怒号に、7歳の少女がビクッと肩を震わせて直立不動になる。
「貴様は我が軍の極低温リソースとして、シノギ中佐の野戦炊事場と連携し、海軍カレーの鮮度を絶対的に保守しろ! 万が一カレーの品質が劣化し、民衆のドーパミン分泌量が低下するようなことがあれば、軍法会議にかけるまでもなく貴様の 存在意義は消滅すると思え!!」
「あ、あうぅ……っ! れ、冷蔵庫係、いのちがけでがんばりますぅぅっ……!」
パンケーキ・アイスは涙目で敬礼し、小さな両手から必死に冷気を放ち始めた。
「少年、留守番の女の子を脅さないの。コルチゾールが過剰分泌されて成長に悪影響が出るよぉ」
キャラメルが呆れたようにフォグの頭をぽすっと叩き、ふにゃりと笑う。
「さぁ少年、次なる戦術的拠点の開拓と、技術革命の時間だ。ドワーフの技術とボクたちの科学で、どんな素敵な化学反応が起きるか楽しみだねぇ」
「ああ。未発達な異世界の工学など、私の軍事ロジックで跡形もなく蹂躙し、完璧な歯車へと最適化してやる」
最凶の少年参謀とダウナーな化学者一行は、新たな軍事インフラ構築の野望を胸に、ドワーフの国「トーキルン」へと向けて歩き出すのであった。




