表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/43

【第弐拾弐話】まぁ少年、外交上の主権保持には国家という枠組みが不可欠だ。

トルスタンからサパニヤ王国を解放し、空腹を迎えた一行。キャラメルとスクワールが振る舞おうとしたのは、CBRN兵器さながらの強烈な『暗黒物質』であった。あまりの恐ろしさに民衆が震え上がる中、フォグは『野戦炊事車』を出現させ、軍事兵站の最高傑作である『海軍カレー』を調理。至高の味で民衆と仲間の胃袋を完璧に掌握し、さらなる『兵站支配』への悦びに浸るのだった。

「サパニヤ王国は今日この瞬間をもって解体する! 貴様らが新たに帰属する組織の名は『エリアF』だ!」


広場の中心で、フォグは拡声器越しに冷徹な声で宣言した。海軍カレーのスパイスによる報酬系の強制刺激で完全に思考をハッキングされた民衆たちは、その無機質な名前にすら「エリアF万歳!」「カレー万歳!」と狂信的な歓声を上げる。


「フハハハハ! ここはもはや生温(なまぬる)い国ではない! 我が軍事機構を支えるための巨大な前線兵站基地だ! 貴様らは今日から国民ではなく、我が軍の労働リソース――」


「ちょっと待った、少年」


フォグが狂気的な演説を続けようとした矢先、キャラメルが白衣のポケットに手を突っ込んだまま、だるそうに割り込んだ。


「社会システムのエントロピーを下げるために一元統制するのはいいけどさぁ、あくまで『国家』っていう 枠組み(フレームワーク)は維持した方がいいよぉ。他国との地政学的な相互作用(ケミストリー)を考えたら、主権国家としての体裁がないと色々と面倒だし、何より彼らの 帰属意識が崩壊しちゃう」

「……チッ。非効率極まりないが、 治外法権や外交上の主権を主張するには、国家という前時代的なパッケージが必要か」


フォグはギリッと奥歯を噛み締め、不満げに拡声器を握り直す。


「……訂正する! 我々は今日より『軍事国家エリアF』として生まれ変わる! そして、烏合の衆を機能させるには明確な 指揮系統が不可欠だ。これより、我が国の核となる士官を国民の中から任命する! 貧弱でもかまわん!魔力適性を持つ者、および戦闘技術を持つ者は前に出ろ!」


その号令に応じ、三人の国民が進み出た。


最初に一歩踏み出したのは、血気盛んな若者だった。


「おう! 俺はテイ・レンシー! 音属性の魔法なら誰にも負けねぇ! あんたらの爆音に痺れたぜ、俺も最前線で暴れさせてくれ!」


漲る闘志を隠そうともしないパワフルな若者に対し、フォグは冷酷な計算式を回す。


「音属性……素晴らしい。指向性を持たせて敵の三半規管を破壊する音響兵器としてだけでなく、広域の 通信網を構築するためのインフラ要員として極めて有用だ。テイ・レンシー、貴様を『少佐』に任ずる。最前線で我が戦術のノイズとならぬよう、敵の鼓膜を蹂躙しろ」


「少佐! っしゃあ、任せな!」


続いて進み出たのは、白髪の目立つ一人の老人だった。手には使い込まれた巨大な庖丁が握られている。その佇まいは静かで、無駄がない。冒険者のマーシャルと同種の、研ぎ澄まされた気配だった。


「シノギだ。俺は魔法はからきしだが、料理と……命を(さば)くことには自信がある」


フォグの口角が、凶悪な弧を描く。


「ほう。魔法適性が欠落している代償として、生体力学的なリミッターが外れているタイプか。巨大な刃物による 近接制圧(CQC) と、兵站における 炊事の両立。無駄がなく極めて合理的だ。シノギ、貴様を『中佐』とする」


「……承知した。エリアFの糧食と後方は、俺の庖丁が守ろう」


シノギはクールに一礼し、所定の位置へと下がった。


そして最後。屈強な男たちの後ろから、小さな女の子がおどおどと進み出てきた。


「あ、あの……パンケーキ・アイス、7歳です……。こ、氷が少しだけ出せますぅ……」


震える手で小さな氷の結晶を作り出す7歳の少女。しかし、その幼い少女を見た瞬間、フォグの瞳に地獄の悪魔のような爛々とした狂気が宿った。


「フハハハハハ!! 素晴らしい!! 氷属性だと!? これは弾薬の熱ダレ防止、野戦病院でのアイシング、そして何より『海軍カレーの保存』に必要不可欠な 戦術的冷却装置ではないか!!」


フォグは狂ったように笑い声を上げ、パンケーキ・アイスを指さした。


「さらに7歳という骨格の小ささ! 敵からの 被弾面積(ヒットボックス)が極小であり、生存率が跳ね上がる圧倒的な戦術的優位性だ! パンケーキ・アイス、貴様を『特務少尉』とする! 我が軍の極低温リソースとして、その命の最後の一滴まで冷却効率に変換してやる!!」


「ひぃっ……! あ、あうぅ……が、がんばりますぅ……っ!」


あまりの狂気とプレッシャーに、パンケーキ・アイスは涙目で敬礼した。


「ちょっと少年。7歳の幼女まで最前線で使い潰す気かい?」


キャラメルが背後からフォグの頭をぽすっと叩き、呆れたように溜息をついた。


「発育途中の細胞分裂に過度な恐怖を与えたら、テロメアが短縮して成長障害を起こしちゃうよぉ。彼女の吸熱反応(クーリング)は、とりあえずカレーの冷蔵庫係くらいにしてあげなよ」


「甘ったれるなキャラメル! 息をしている有機生命体である以上、年齢など関係ない! 非情なる軍事の 歯車として、最も効率的に機能させることこそが『軍事国家エリアF』の絶対の教義(ドクトリン)だ!!」


絶対的な軍事力と美味しいご飯。


未発達な異世界に誕生した異端の軍事国家『エリアF』は、こうして狂気と理不尽に満ちた新たな第一歩を踏み出すのであった。

・テロメア

染色体の末端にある構造で、細胞の寿命を示すカウンターや遺伝子を守るキャップ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ