【第拾捌話】さぁ少年、無知な刺客に爆轟(サーモバリック)の祝砲を。
強化ゲバ棒の「ファランクス(密集陣形)」を組んだ民衆とともにゼネストを決行したフォグたち。対するトルスタン王は特級刺客のサードハンドとワンフィンを投じる。刺客たちの化学・魔法攻撃に対し、フォグたちは「過熱水蒸気」や「風媒花」で応戦するも、サードハンドの「エアロゲル(極低密度煙霧)」による断熱ドームに閉じ込められ、可燃性ガスを充満させられる危機に陥ってしまうのだった。
サパニヤ王国の王都、中央広場。 サードハンドの展開した極低密度の煙霧装甲が形成した絶対的閉鎖空間の中で、ワンフィンが放った超高濃度の可燃性ガス『息吹酒』が充満していく。
「終わりだ、ガキ共。王の邪魔をするからこうなる」
サードハンドの気だるげな声が響き、ワンフィンが妖艶に微笑みながら指先に着火の魔力を灯した。
だが、閉鎖空間の外では反撃の狼煙が上がっていた。
「諦めるなァッ! 叩き割れ!!」
マーシャルの咆哮に応え、密集陣形を組んだ民衆たちが一斉にキャラメルの化学で強化された『強化ゲバ棒』を突き出す。
「おおおおおッ!!」
テコの原理と遠心力を極限まで乗せた何百もの打撃が、同じ座標に寸分違わず叩き込まれる。そして、その後方からスクワールが両手を強く突き出した。
「みんな、いっくよー! 〈 胡桃殻 ( くるみがら ) ・ 螺旋破城槌〉っ!!」
植物魔法により急速に成長した巨大な胡桃の殻が、ドリルのように回転しながらゲバ棒の打撃点へと激突した。
ピキッ……。
絶対の強度を誇るはずの煙霧装甲に、一筋の亀裂が走る。
「なっ……馬鹿な、俺の煙の盾が……!?」
驚愕するサードハンドに対し、キャラメルは白衣の中でくすりと笑った。
「馬鹿だねぇ。等方性材料は、一度でも応力集中点に罅が入れば、破壊の伝播は一瞬で広がるんだよぉ」
「チッ、なら外の奴らごと焼き尽くしてやる! 燃えちまえ!」
ワンフィンが、充満したアルコールガスに火を放った。
――その瞬間。 フォグの三白眼が、冷酷なまでに研ぎ澄まされた。
「無知な猿どもめ。閉鎖空間での可燃性ガスの充満が、何を意味するか教えてやる」
キャラメルも、だるそうに肩を竦める。
「さっきボクが撒いた極低温の『液体酸素』と、君が充満させた『超高濃度の気化アルコール』。それがこの環境下で混ざり合っているんだ。そこに火をつけたら……単なる燃焼で終わるわけないだろう?」
「燃料気化爆弾。発生するのは――超音速の『爆轟』だ」
ボゴォォォォォォォォォォォンッ!!!
ワンフィンの放った炎は、ドーム内で酸素とアルコールの完璧な化学反応を引き起こし、絶大な衝撃波を伴う超音速の爆轟へと相転移した。
内側から発生した凄まじい爆圧が、ヒビの入ったエアロゲルのドームを粉々に吹き飛ばす。
「ぎゃああああっ!?」
自らの放った爆発と衝撃波に巻き込まれ、サードハンドとワンフィンが血を吐きながら宙を舞う。
(……だが、このままでは我々も爆轟の巻き添えになる)
フォグは残された僅かな魔力を前頭葉に集中させた。
「『軍事』属性、位相展開――〈爆発反応装甲〉!!」
フォグとキャラメルの周囲に投影された鋼鉄の装甲が、接近する爆風に対して外側へ向けて小規模な爆発を起こし、相殺する。
爆炎が晴れた広場。
そこには、全身を焦がし、地面に這いつくばる特級刺客二人の無様な姿があった。
「あ、が……嘘、だろ……」
「私の苦艾酒が……!」
その頭上から、冷酷無比な足音が近づく。
「抵抗など無意味だ。我々がもたらすのは戦争ではない。純然たる『駆除』だ」
軍服を翻し、幼い顔に地獄の悪魔のような笑みを張り付けたフォグが見下ろしていた。
「諸君、地獄を作るのは神ではない。人間だ。その身をもって、戦術の差という絶望を味わうがいい」
フォグが手をかざすと、虚空から無骨な鉄の塊が投影された。
「〈 対物狙撃銃・バレットM82A1〉。装填するのは 12.7mm NATO弾。人間の肉体など、薄紙も同然だ」
「じゃあ、ボクは弾頭にちょっとしたトッピングをね」
キャラメルが指を鳴らし、巨大な弾頭に黄色い液体をコーティングする。
「〈強酸性・ 王水〉のカプセルだよぉ。金すら溶かす最凶の液体さ」
「……消えろ」
ズドォォォォンッ!!! 大気を裂く轟音。
王水コーティングされた銃弾は、音速を超えてサードハンドの咥えていた煙草と、ワンフィンのスキットルごと、二人の胴体を無慈悲に粉砕し、溶解させた。
「「アアアアアァァァァッ!!」」
断末魔とともに、王国の誇る刺客たちは文字通り跡形もなく消し飛んだ。
「……作戦、完了」
反動と魔力枯渇により、フォグの小さな身体がグラリと傾く。だが、地面に倒れ込む前に、身体が彼をすっぽりと包み込んだ。
「お疲れ様、ボクの可愛い少年」
キャラメルが背後からフォグを抱きとめ、そのまま石畳の上に座り込んで、彼を自らの太ももの上にコロンと寝かせた。
完璧な『膝枕』である。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん! やったーっ!」
駆け寄ってきたスクワールとマーシャル、そして歓喜の声を上げる民衆たちを背景に、絶対的独裁国家の崩壊はもう目前に迫っていた
・サーモバリック
周囲の空気を燃料の気化と爆発に利用し、超高熱、強烈な爆風、および周囲の酸素を急速に消費する真空状態を同時に発生させる特殊な兵器。
・爆発反応装甲
戦車などの装甲戦闘車両の表面に装着され、敵の攻撃を受けた際に内部の火薬が爆発してその衝撃で攻撃の威力を相殺・無力化する補助装甲の一種。
・バレットM82A1
アメリカのバレット・ファイアーアームズ社が開発した、12.7mm×99弾を使用する大型のセミオート式対物ライフル。
・NATO弾
北大西洋条約機構・NATOの加盟国間で武器や弾薬を共通して使えるように決めた規格の弾薬。
・王水
濃塩酸と濃硝酸を「3:1」の体積比で混ぜ合わせて作られる、橙赤色の非常に強力な酸性の液体。金や白金といった、通常の酸では溶けない貴金属をも溶かすことができる特性がある。




