表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

40/40

最終話

 とある屋敷の一室。

 その扉を叩き、声をかける。


 返答を待たずに扉を開け、ワゴンを押した。


 

 「ノア。そろそろ休憩にしませんか?」


 

 顔を上げた彼は、私の姿を見止めて、僅かに微笑んだ。


 

 「セラ」


 

 静かに名前を呼ばれる。

 その声はこの穏やかさに相応しく、心地いい。

 

 彼のいる散らかったテーブルを通り過ぎ、窓際に置かれた小さなテーブルに近づく。

 ワゴンからお菓子を移し、紅茶を注いで向き合うように置いた。


 

 「セラ」


 

 彼は私を呼ぶと同時に左手を取り、ゆっくりと口づける。

 そっと触れる唇がくすぐったい。

 クスクスと笑みを零しながら、声をかける。


 

 「さあ、頂きましょう?」


 

 向き合って座り、取り留めのない会話を交わす。


 

 「イニーグはどうですか?」


 「問題ない。前回の改良で、動力も神官たちで賄えるようになった」


 

 時折紅茶を口に含んで、お供にスパイスのきいたお菓子を挟む。


 

 「そういえば、先日ようやく勇者たちの慰撫行が終わったらしい」



 勇者一行は魔王討伐後も、各地を巡って復興の手助けをしていたと聞いている。


 

 「へえ。案外長かったですね。3年くらいですか?」

 

 「ああ、聖女と勇者は結婚するそうだ」


 

 彼はこともなげにそういうと、静かにクッキーをかじる。

 彼はスパイスのきいたものより、甘いものの方が好きだった。


 彼の言葉に、脳裏を過ぎるのはティラミアの姿。

 どうやら聖の力が無いことを明かした後も、上手くやったらしい。

 

 王子はオフェリアには勿体ないし、まあ、ティラミアならお似合いだろう。

 

 一口大に作られたリンツァートルテを手に取り、彼の口元に近づける。

 彼はパクリと一口で食べた。

 口元に食べかすを付けたまま、もぐもぐと咀嚼する。

 

 その様子に笑みを零すと、口元にヌガーグラッセが。

 それを掴む指先から腕を辿って視線を移すと、彼は催促するようにそれを近づける。


 促されるままに口を開き、優しく入れられたそれを食む。

 彼を見ると、満足げに息を吐き出していた。


 目を合わせて、笑い合う。

 

 

 「明日には研究にも区切りがつく。久しぶりにどこか出かけないか」

 

 「ノアがそう言うなんて、珍しいですね」


 

 おどけたように言うと、彼は少し目を逸らす。


 

 「もうじき英雄祭があるだろう」

 

 「そういえば、もうそんな時期ですね」


 

 彼はふと、動きを止めた。


 

 「ノア?」


 

 首を傾げて呼びかければ、彼はゆっくりとこちらを見た。

 

 どこかぎこちない動作で手を伸ばし、テーブルに置いていた私の左手に重ねる。

 彼の親指が動き、私の薬指を撫でた。


 

 「ここに、送りたいものがある」


 

 今度は私の動きが止まる。

 

 息づかいさえも見逃すまいと、じっと向けられる視線。

 じわじわと、視界が滲む。

 

 心の底から湧き上がる感情にまかせ、満面の笑みを零した。

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。

これにて完結となります。


次に投稿する作品は、アルファポリスを中心に活動していく予定です。

ファンタジーカップにも参加する予定ですので、

公開の際にはそちらも覗いていただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ