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38 【ティラミア視点】ティラミア・ノエル:告白と絆

 王城の広間。

 そこは、着飾った貴族たちで埋め尽くされていた。


 絶え間なくかけられる称賛の声。

 近くにいるカイゼルたちも、同じような言葉をかけられていた。


 つい先日、私たちは魔王を倒した。

 それにより、約1年に及ぶ旅は終わりを迎えた。


 魔王との戦闘は、今思えば案外あっけなかった。

 

 虫のような外見と、その見た目通りの頑丈さ。

 吐き出される毒液に苦戦しながらも、レオンの剣技やゼオリスの魔法。

 私の加護や結界などで作り出した隙に、カイゼルが攻撃を仕掛け、止めを刺した。


 歓喜に沸く3人を前に抱いたのは、達成感と喪失感。


 魔王を倒せたのはうれしかった。

 ずっと、そのために聖女として頑張ってきたから。

 

 それでも、3人との旅が終わってしまうのだと思ったら、どうしようもなく寂しくなった。

 突然先の生活が見えて、でも私には上手く思い描けなくて、怖くなった。

 

 

 旅の途中、3人はそれぞれ自身の過去を打ち明けてくれた。

 私に励まされたと言って、その気持ちを伝えてくれた。

 

 

 カイゼルは、第3王子としての自分は、劣等感にまみれていたと言った。

 

 王にもなれず、兄を支える役目すら自分には回ってこない。

 残されたのは勇者になる道だけだと、そう思い込んでいたのだと。

 セドリックに止められても、がむしゃらに稽古に励んでいたらしい。

 

 そんな、前が見えなくなっていた自分を照らしてくれたのが、私だと。

 彼はそう言って、照れたように微笑んだ。


 

 レオンは、かつて教会で見た少女がきっかけで、再起したと話した。

 

 彼は幼い頃から聖女の話に憧れ、勇者として聖女を守ることが夢だったらしい。

 しかし、学園の入学試験で勇者の剣に拒絶された。

 

 失意の中、知り合いの神官の勧めで教会へ手伝いに行き、そこである見習いの少女と出会ったのだと。

 

 「彼女こそが聖女だ」


 そう思ったのだと、彼は私の目を見て言った。


 

 ゼオリスは、ただ魔道塔の人間を見返したかったと語った。

 

 魔道塔所属の魔道具師夫婦の間に生まれた彼はしかし、魔道具師としての才能がなかった。

 それでも諦めきれず、ひたすらに研究を重ねていたと。

 

 だがこの旅で、はじめてちゃんと魔道具を使う側の人々を見て、向き合った。

 必要とされるものを作る。

 その意味を、ようやく理解したのだと。

 

 そのきっかけが、私だったと。

 そう言われて、少しだけ戸惑ったのを覚えている。


 

 3人からそんな話を打ち明けてもらえて、嬉しかった。

 ……でも同時に、罪悪感もあった。

 

 私は何1つ、話していない。


 

 意識を戻し、視線を貴族と談笑する3人に向ける。

 私に向けられた真剣な瞳を思い出し、強くペンダントを握った。



 ***



 「ティア? 話ってなんだい?」

 


 カイゼルが問う。

 私は3人を、広間から少し離れた庭園に連れ出した。

 みんな首を傾げては居たものの、素直についてきてくれた。

 

 辺りを見回す。

 シンと静まり返った庭園に、人気はない。


 振り返り、3人の目を見つめる。


 

 「あのね。みんなに、秘密にしてたことがあるの……聞いてくれる?」


 

 彼らはすぐさま、もちろんだとうなずいてくれた。

 それに思わず緩んだ口元を引き締めながら、ペンダントを握りしめ、口を開く。


 

 「私……私ね」


 

 自然と視線が落ちる。


 

 「本当はね」


 

 口が渇いていた。

 喉元に詰まる言葉を、無理やり押し出す。


 

 「聖女なんかじゃ、ないの。……聖の力なんて、持ってないの」


 

 言った。

 言ってしまった。


 沈黙がやけに長く感じる。

 通り抜けた風が冷たい。


 

 「ティア、落ち着いて。どういうことだい?」


 

 そんな私にカイゼルが近づき、冷えた指先を握ってくれる。

 視線を上げると、心配そうに眉を下げたカイゼルがいた。

 

 

 「あのね――」


 

 私はすべてを話した。

 

 村で拾った不思議な布のこと。

 それに聖の力が宿っていること。

 それのお陰で、聖女になれたこと。


 話し終わる頃には、カイゼルの手を解いて、また俯いていた。

 後ずさりして距離を取る。

 

 再び沈黙が流れた。


 彼らの過去を聞いたから、言わなければならない気がした。

 私だけ秘密にしているのは、ずるい気がして。

 

 でも、言わなければ良かったかもしれない。

 

 そうすれば少なくとも、こんな不安に襲われることはなかった。

 嫌われてしまうかもしれない。

 嘘つきだって、罵られるかも。


 

 「ティア」


 

 そんな思考を切ったのは、またしてもカイゼルだった。


 

 「ティア。話してくれて、ありがとう」


 

 優しい声に、弾かれるように顔を上げる。

 3人は、穏やかな顔でこちらを見ていた。

 カイゼルが一歩、私に近づく。


 

 「たとえ力が偽物でも、ティアの行動は本物だ。多くの魔物を倒し、四天王を倒し、魔王を倒した。多くの民を救った」


 

 私の目の前で止まったカイゼルは、そっと手を差し出した。


 

 「それは僕らが一番知ってる」


 

 カイゼルの目を見て、レオンとゼオリスを見る。

 その目が温かくて、私は思わず、カイゼルの胸に飛び込んだ。


 カイゼルはそれをしっかりと支えてくれて、ゼオリスが危ないと咎める。

 レオンはそれを見守っていて。


 胸が温かくなった。

 打ち明けて良かったと、そう思えた。


 ふと目線を上げると、レオンが一点を見つめている。

 カイゼルの身体から少し離れ、レオンに声をかけると、彼はゆっくりと振り向いた。


 

 「どうした。何かあったか?」


 

 ゼオリスが問いかける。

 レオンは一瞬だけそこに目を向け、首を振った。


 

 「いや、月が綺麗だったから」


 

 その言葉に、首を傾げる。

 レオンの視線は庭園の奥に向いていたと思ったけど……気のせいか。


 

 「確かに、綺麗だね」


 

 カイゼルの言葉に釣られて見上げた空には、半月が美しく輝いていた。

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