24 大会
2回目の進級テストを終え、気づけばもう最終学年。
この1年が終われば、私は聖女として動かなければならない。
学園生活がそこそこ充実していた分、今から憂鬱で仕方ない。
準備を整え自室を出る。
扉の横で待っていたエレナと共に、学園への道を歩く。
校舎に足を踏み入れれば、どこか落ち着かない空気が漂っていた。
進級したてだからだろうか。
去年の今頃の記憶を探ろうとして、隣から声が掛かる。
「そういえば、もうすぐ勇者を決める大会があるんだってね」
エレナがいつもの落ち着いた声色で言葉を落とす。
「確か、早めに決めて、残りの時間で勇者一行の結束力を強めるとか……って、セラの方が知ってるよね」
知らなかった。
何も思い当たるものがない。
表面上は保ちつつ、記憶を探る。
そうしてやっと思い出した。
どうせ王子かセドリックだろうと、適当に聞き流す自分の姿を。
これにはさすがに、自分に呆れる。
どれだけ王子たちに興味がないのか。
エレナと話を続けながら、ふと、思い当たる。
そういえば、ヘルデンス科に後輩が入ってくることはなかった。
勇者になる資格を持つのは、魔王誕生時に18~25歳まで。
私は今年で17歳。
そして魔王が誕生するのは来年だ。
……1年だけじゃ意味なんてない、か。
耳に入るざわめきに意識を戻す。
すれ違う生徒たちは、こぞって大会の話で盛り上がっていた。
それを聞けば、どうやら大会は2つあるらしい。
1つが、勇者を決める『ヘルデンス大会』。
もう1つが、同行する剣士を決める『リヒルヴァハト大会』。
ヘルデンス大会の数日前に開かれるというリヒルヴァハト大会は、教会主催の大会らしい。
教会が信仰する初代聖女の名前が使われた大会。
……2年ほど教会に住んでいた私が知らないのはなぜなのか。
一瞬、何者かの思惑かとも思ったが、大会を秘密にしてなんになる。
興味を持たなかった私が悪い。
随分と、騒がしくなりそうだ。
***
そうして、進級から1ヶ月も経たないうちに、ヘルデンス大会が開催された。
王都中央に位置する円形闘技場で開かれたそれは、庶民から王族に至るまで、あらゆる立場の人々が観戦に訪れていた。
観客席の最前列。
その中央に設置された王族席では、国王と女王が大会の行く末を見守っている。
その周りは大司祭や宰相などの高官が固め、その一段上には騎士団員がズラリと並ぶ。
中央ステージから最も離れた最上階は、立錐の余地もないほどの庶民たちで埋められている。
そんななか、私とティラミアは、宰相らと同じ高官席に着いていた。
背後から突き刺さる数多の視線。
……元々は、地下にある救護室の手伝いを申し出るつもりだった。
大会の勝者には興味がないし、なぜかそれが、王子だろうという確信もあったから。
しかし紐の力に限りがある以上、こんなところで使うのは勿体ない。
肘の上に巻いた紐を指先でなぞる。
“限りがある”、“倉庫のようなもの”。
私は以前、この紐をそう称した。
だが最近はどうも納得がいかない。
力を使った後の倦怠感は変わらない。
しかしそれ以外に、指先の感覚が鈍くなる、というか。
数日で治るものの、何かおかしいのは確かだ。
本当に、それだけなのだろうか。
こんな状態で、この先聖女として動くことになるのか……。
思わず溜息が漏れる。
そのとき、ドッと会場が沸いた。
それに釣られて視線を上げると、ステージに立つ2人の候補生の姿。
距離を空け、剣を構えて睨み合っている。
試合が始まった。
***
見知った顔が戦い、勝利し、そして敗れていく。
大会はトーナメント式で行われ、いよいよ決勝戦。
対峙するのは、セドリックと王子だった。
チラリと隣に目をやれば、ティラミアは前のめりで成り行きを見つめている。
開始の合図が鳴った。
先ほどまでの歓声の波が、スッと静まる。
先に動いたのは、王子だった。
セドリックとの距離を詰め、剣を振り上げ斬りかかる。
しかしセドリックはそれを見切り、剣面でいなして反撃に転じる。
王子は身を捻ってその攻撃をかわし、返すように上段へと振り払った。
セドリックはすぐに体勢を低くし、生まれた下段の隙へ踏み込む。
王子の腹部の布が、僅かに裂けた。
しかし王子は気にせず、上段から力強く剣を振り下ろす。
今度はセドリックの腕部の布が散った。
一進一退の攻防戦。
魔法の使用を認められたこの戦いで、彼らはそれを使おうとはしない。
吹き抜けの会場に、真剣のぶつかる音だけが響く。
数時間とも思えた攻防は、2人の動きが止んだところで、終わりを告げた。
肩で息をした2人は、距離を開けて剣を構える。
ヒリつく空気。
2人の口角が、同時に上がったのが見えた。
この一撃で、決める気だ。
2人が同時に走り出す。
重なる剣の音。
せめぎ合う鉄が音を立てた――次の瞬間。
ザクリと、地面に刺さる剣。
セドリックの手に、剣はない。
どっと歓声が沸く。
2人は歩み寄り、握手を交わした。
セドリックは剣を拾い上げ、王子の肩を叩いて去っていく。
ほっと肩の力が抜けて、自分が息を止めていたことに気がついた。
握られていた拳を解く。
誤魔化すように、指を絡めて手を組んだ。
***
「今ここに、新たな勇者が誕生した!」
王が高らかに声を響かせる。
「これは、初代勇者から受け継がれし剣である。その名に違わぬ輝きを見せよ!」
王子は王の前に跪き、恭しい仕草で勇者の剣を受け取った。
鞘に入った剣を、ゆっくりと引き抜く。
あらわになったその刀身は、鋭く光を反射している。
繊細に施された青と金の装飾が美しい。
王子は徐に立ち上がり、その剣を天に向かって掲げた。
――音も無く、その刀身が光に包まれる。
それは魔を討ち滅ぼすに相応しい、金糸の輝きを纏っていた。
会場の誰もが、息を呑む。
それは、私も同じだった。
しかし同時に、“予定調和”と言う言葉が、頭の片隅に浮かんでいた。
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