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17 【宰相視点】国の重鎮たち

 執事に見送りを任せ、ファルネス神官長一行が去るのを見届ける。

 

 扉が閉まるのと同時に、エベルドリックとフォルクフリートが息を吐きながら脱力した。

 背もたれに身体を預ける彼らに、先ほどまでの威厳はない。


 学園時代から変わらないその様子に溜息を吐きながら、騎士たちへ向かって声をかける。



 「アルデン。オスカー。魔道具をこちらに」



 短い返答のあと、こちらに近づいてきた2人から魔道具を回収する。

 盗聴の魔道具“スホレル”と、遠見の魔道具“スフェルジ”。

 鏡にしか見えないその魔道具は、なかなか使い勝手の良い代物だ。

 

 受け取った魔道具をテーブルに置き、彼らを下がらせる。

 すると隣に続く扉から、王付執事が中型のスフェルジを持ってきた。

 横幅30センチほどの楕円状のそれは、下の足も相まって、置き鏡にしか見えない。



 「お待たせいたしました」



 そう言ってテーブル上に設置して去る執事は、相変わらずの有能ぶりだ。

 

 先ほど置いた小型版をいじる兄弟を見る。

 少しは執事を見習ってほしいものだ。

 


 「エベルドリック陛下、フォルクフリート公爵殿下、大司祭方をお呼びしますよ。シャンとしてください」


 「分かっているさ。それよりヴィル、その呼び方やめろって言ってるだろ? 親友だろうに」


 「公私混同はしない主義なので」



 いつもの戯れを適当に流すと、不満げなエベルドリックがこちらを見る。

 それを無視して視線を滑らせれば、その横で同じような表情をするフォルクフリートがいた。

 

 そんな2人を横目に、テーブルに置かれたスフェルジの裏側に回り込む。

 懐から大司祭の魔力が込められた鉱石を取り出し、中心部分に嵌め込んだ。

 

 すると、クリスタルを弾くような音と共に、表側の鏡部分が渦を巻き、2人の人間を映し出した。



 「先ほどぶりです。リヒトブルク大司祭、トロイベルク司祭。魔道具は問題なく機能しておりましたでしょうか」



 軽い礼と共に声をかける。


 

 「問題なかったよ、ヴィルマール・ツィトロギッター宰相。よく見えてたし、聞こえてた。陛下と公爵もお疲れさまだね」



 和やかにそう返したのは、アルター・リヒトブルク大司祭。

 掴み所のない笑みを浮かべる彼の言葉には、相変わらず重みがない。

 

 そんな大司祭の隣で仏頂面を晒すのは、ウルリッヒ・トロイベルク司祭。

 大司祭がやりづらい分、分かりやすい司祭の存在は大変助かる。



 「お気遣いどうも、アルター大司祭。……さて、では話し合いを再開しようか」



 私がエベルドリックの背後に戻ると、エベルドリックがそう告げる。

 それに続き、懐から取り出したメモを見ながら、進行を務めた。



 「ではまず、ティラミア・ノエルについて、ですね」



 私がそう言うと、大司祭が口を開く。



 「まあ、報告通り普通の子だよね。良くも悪くも。当然スパイなんか無理だろうし、扱いやすそうで良いんじゃない?」

 


 それに同意するように、司祭がうなずいた。

 

 先ほどの様子を見る限り、自分も概ね同じ意見だった。

 

 フォルクフリートの報告通り、セラ・ヴェイルンに対する迫害の名残は感じた。

 公になれば、それぞれを信仰する人間同士で派閥争いになる可能性もあるだろう。

 だがそれも、公にならなければ、なんの問題もない。

 

 彼女が学園を選んだのも想定通り。

 魔王討伐後のことを考えれば、聖女とはいえ、ある程度の教養は欲しい。



 「では次に、セラ・ヴェイルンはどうです?」



 次の話題を振れば、初めに口を開いたのはまたしても、大司祭だった。



 「少なくとも、スパイではないだろうね。それにしてもあの子、綺麗だったよねー! 僕、気に入ったよ!」



 途端に目を輝かせる大司祭に、白けた目を向ける。

 彼の悪癖が出た。

 ナルシストが行きすぎた結果、独自に生み出された美の基準。

 それに当てはまる者がいると、こうして目を付けるのだ。


 騒ぐ大司祭を視界から追いやり、エベルドリックに目を向ける。



 「陛下は何かお気づきでは?」



 私がそう問いかけると、エベルドリックはチラリとこちらを見やる。



 「分かるか?」


 「ええ、まあ。顎先を撫でた瞬間がありましたので」



 長い付き合いだ。

 何か感づいた時の癖くらい、分かるようにもなる。

 


 「これはあくまで俺の勘だが……セラ・ヴェイルン、あの子はなかなか手強いぞ」


 

 その言葉に、騒いでいた大司祭とそれを咎めていた司祭の視線がこちらに向く。

 私も思わず目を見張った。



 「手強い……? 僕には健気な良い子にしか見えなかったけどなぁ」



 フォルクフリートが呟く。



 「手強いというか、違和感だな。……最後に問いを投げたとき、あの子は俺の目を見て話した。内容は重要じゃない。目を見続けたってことだ」



 思い返してみれば、彼女はエベルドリックの目を見て「学園に行きたい」と言っていた気がする。

 彼女の境遇を思えば確かに、違和感はある。

 

 10年近く迫害を受けていた子供だ。

 そんな子供が、武人のようなエベルドリックに怯えず、私の冷たい視線にも怯えず、普通に座っていたのもおかしいといえるかもしれない。

 

 だが……。



 「さすがに、考えすぎでは?」


 違和感とも言えるが、その他の場面では何も感じなかった。

 それまで隠していて、ボロが出たという可能性もあるが……まだ子供だ。

 考えにくい。


 私の言葉に続き、司祭が唸りながら言葉を零す。


 

 「よほどの豪胆か、はたまた行きすぎた聖人か」


 「んー。どっちにしろ、それって何か問題ある? 仮に当たってたとしても、陛下が見抜ける程度の賢さってことでしょ? 使いやすくていいんじゃない? それにあの子、綺麗だし」


 

 大司祭の言葉に、思わず気が抜ける。

 心なしか緊張感が漂っていた空気も緩んだ気がする。

 


 「だから俺は喜んでるんだ。あの子は何かやってくれる気がする」



 エベルドリックは、そう言って笑みを浮かべたまま爪先でテーブルを叩く。

 エベルドリックは勘が良い。

 何を期待しているのかは分からないが、まあ、上手くやるだろう。

 エベルドリックが目を付けた人間が、掌で転がされる様は、今までもよく見てきた。


 だが……一応、監視を付けるか。

 


 「陛下の勘は当たるからね。……どうする? 魔王が誕生しなくする魔道具とか作っちゃったら」



 おどけて言った大司祭に、エベルドリックも笑って返す。



 「ハハハッ! それは困るな、アルター大司祭。スパイスがなくなってしまう」



 2人揃って笑い出した様子に呆れていると、司祭が大きく咳払いし、注意を引いた。

 


 「人格面の問題や間者の疑いがないのは分かった。慣例を崩すのは不本意だが、民衆の為だ。致し方あるまい。……で、セラ・ヴェイルンは我々と共に巡るのか」


 

 司祭の問いに、笑いを収めたエベルドリックが答える。

 


 「いや。彼女は君たちとは反対に巡らせる。君らは勇者一行を追うような形で、リーゼマッツから時計回りに都市を巡るだろう? 折角の聖女を君らと同じように使っては、もったいないじゃないか」


 

 それに不満を漏らした大司祭はもう無視だ。

 しかし、それを止めるでもなく噛みついた司祭のおかげで口論が始まり、室内が再び騒がしくなった。

 

 隠すことなく大きな溜息を吐き、数回手を鳴らしてまとめに入る。

 気づいた2人が口論をやめたのを確認し、口を開いた。

 


 「ティラミア・ノエル、セラ・ヴェイルン共に、スパイや間者の疑いなし。人格面も問題なし。当初の予定通り、ティラミア・ノエルは慣例に従い魔王討伐へ。セラ・ヴェイルンは大司祭方とは反対回りで防衛拠点を巡る。以上でよろしいですか」



 反論は聞こえない。

 ひとまず、今この場で確認すべきことは終わった。

 エベルドリックに視線を送ると、軽いうなずきが返された。



 「それでは、アルター・リヒトブルク大司祭、ウルリッヒ・トロイベルク司祭。聖女たちが役目を果たすまでの約6年間。引き続き各地を巡っての戦士たちの治療、よろしく頼む」



 エベルドリックが労いをかけ、彼らはそれに礼を返す。

 先ほどまでとは比べものにならない重鎮らしい振る舞いを見届け、スフェルジに嵌め込んだ鉱石を抜いた。

 接続が切れたことを確認し、執事にスフェルジを片付けさせる。

 

 やっと一息つけると、対面のソファに腰掛けた。

 その衝撃で、髪が一房肩から滑り落ちる。


 ふと、それを摘まみ上げ、光に当てる。

 その色に浮かぶ少女を思い、少しの哀れみを抱いた。

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