変化
春休みのある日、私は翔音さんが出てきた夢を見た。今はどんな夢を見ていたのか思い出せない。だが、そこから私が翔音さんに対する気持ちに変化が起きたのは事実だろう。
私が中学二年生、翔音さんが三年生になった。
「もう少しで翔音さんは部活引退か……」ズキっと妙に心が痛くなるのを感じた。
翔音さんが修学旅行から帰ってきた後の部活終わりにお土産をくれた。家に帰ってからら頂き、とても美味しかった。手紙では、物にしようと思っていたらしい。それでも翔音さんから何かをもらえるということ自体、嬉しかった。この時の手紙の主な内容はアニメや好きなアイドルの話をしていた。翔音さんが推してくれていたアニメも勿論好きだが主に声優さんが好きということだった。声優さんにはものすごく詳しかった。翔音さんのことをいろいろ知れて話せて楽しかった。それと同じくらい心の痛みも比例していた。ただ寂しくなるのを恐れていたのかもしれない。
そこから私と翔音さんは授業の休み時間、教室移動で会ったり、昼休みに会って話したりした。手紙だけでなく直接、翔音さんと話したかった。一分一秒でも大切にしたかった。あと私が翔音さんにできること…そう家で考えていたことがあった。
「翔音さん今年…受験だよな……せめてなにか…そうだ!」
私は自転車を走らせた。向かった先は谷保天満宮。勉学の神様を祀っているというのもあったので、私は合格祈願のお守りと鉛筆を購入した。
六月の部活日、この日で翔音さんを含む三年生の引退日だった。翔音さんは大会には出場しなかったので、これで最後だった。部活終わりに私は翔音さんのところへお守りと鉛筆を持って言った。
「翔音さん……! あのこれ! 受験頑張ってください!」
『え!? うそ!? 嬉しい! ありがとう! 受験頑張るね!』本当に喜んでいた翔音さんを見て私は嬉しかった。手紙でも
【『お守り嬉しかった。なんか分かんないけど、すごく嬉しかったです!』】
喜んで頂けて何よりです!と心の中で思った。手紙の最後に毎回絵を描き評価やアドバイスするのが恒例なのだが、ある日手紙で翔音さんが
【『絵しりとりしませんか?』】と書かれていた。模写ではなく想像で。というルールだった。絵を描くのが趣味だった私には絵のスキルを高めるにはいい機会であった。そこから絵しりとりが始まったのである。
翔音さんが推してくれていたアニメの映画があった。その映画を「一緒に見たいな。」と思う自分がいた。だが、「翔音さんは受験生…。とりあえず、手紙に書いてみよう…。」そうして翔音さんに手紙で書いてみた。すると、返事には【『私も見に行きたいんだよね~!』】
と書いてあり少しずつお互いの日程調整や計画を立てていった。
八月上旬あたりのこと。私は翔音さんと遂に映画を一緒に見に行くことができた。私はそこまで原作やアニメが追いついていなかったので、さっとネットで予習していた。たどり着く最後あたりにダッシュして何とか間に合った。翔音さんと一緒に出かけたのはこれが最初でそれ以降は今に至ってはないので、今では大切な思い出だ。本当はプリクラ撮りたかったのが唯一の後悔だ。それを手紙には書かずに【「翔音さんが卒業した三月あたりにプリクラ撮りたいです!」】と書いた。翔音さんはそれを約束してくれた。
あるとき【『アニメのキャラクターの名前で呼び合おう。』】と翔音さんは手紙で言ってきた。そのアニメキャラクターは今の私と翔音さんと同じように年も1つ下の関係であり、コンビ名もあった。私はそのキャラにそぐわない!という意味で最初は拒否したがあくまで【『関係として』】と翔音さんは言った。なのでそのアニメのキャラクターであて名を書くことにした。コスプレというわけではないが、それに近いものをしてプリクラを撮ると約束を交わした。この時期は定期考査だった。お互いの進路先やテストの点数などそんな話をした。時間割が変わったときは
【『この時間は教室移動があるから会えるよ。』】そう書いてあって舞い上がっていた。手紙には世間話という欄を作った。と言うのも、我が家にタブレットが登場し、メールでも翔音さんとより多く話せて毎日が幸せだった。
【『土日も六時に起きてたら、起こしてほしいぐらいだぜ…。』『まぁ、起こしてくれたら嬉しいな~って思ってね…。』】
ある日そう手紙には書いてあった。私は少しでも翔音さんを支えたいと思っていた。そこで私は土日に翔音さんにモーニングコールをした。前日にモーニングコールしますと宣言をあらかじめ翔音さんに直接または手紙で言い、許可が下りたら行う。それは暫く続いた。翔音さんの両親が起きるまで約二時間近く話せた。話せるだけで嬉しさが溢れていた。
私はつい手紙で翔音さんに対する思いを綴っていた。終わった。と思った。アニメのセリフを代用したので、
【『ありがとう。改めて言ってくれてね!いつかその返すセリフを言うから待っててね。』】という返事だった。
「まぁ…そういう返事になりますよね…。…ん?いやいやいや、私は決して、翔音さんに好意など抱いているはずが…同性だぞ!?いくらなんでも、…言ったら言ったで嫌われてしまう…。」いつから私はこんなに悪い者になってしまったのだろう?
翔音さんの受験が山場となる中、私は文通をストップさせた。翔音さんには高校に受かってほしいという願いでもあったからだ。その代わり、昼休みに会って話したり、メールでやり取りした。卒業前に翔音さんから最後の手紙とイラストを渡された。呼び合っていたをアニメのキャラクターを描いていて嬉しくて内容でも泣きそうになってしまった。卒業式の日、在校生は最後まで残ることができなかったので手紙を翔音さんの家のポストに入れた。だが、嬉しかったことがある。体育館へ続く廊下を歩いていくと、絵が飾られていた。そこには先輩方の中学校三年間に対する気持ちなどを色紙に描いていた。その色紙を見たとき私は泣きそうになってしまった。そこには私と翔音さんが呼び合っていた戦場ヶ原ひたぎと神原駿河の後ろ姿で分かれ道に立っている絵だった。そこの言葉には私と翔音さんが共に推しているアイドルのラップパートの歌詞が書かれていた。
私は翔音さんがとても好きになっていたと気づいた。どうしようもなく愛おしいと。また逢う日まで。そう心の中で言った。
1ヶ月か2ヶ月後、いつも通り自宅のポストを除いて何が入っているかを見るのだが、そこには手紙が入っていた。手に取ってみると見覚えのある便箋であて名は私だった。翔音さんの字だった。私はその場で開けた。中にはお守りが入っていた。
【『今年、君は…アレなのでね!お守りです!』】そう書かれていた。私は思わず便箋に顔をうずめた。
「やばい…本当に嬉しい」自分の部屋に戻って早速お守りを机の真ん中に飾った。これを見ているだけで勉強のやる気がものすごく湧いてきたので、早速机に向かった。
私が卒業するまで翔音さんとは漫画を貸す際に会いに行っていた。私が高校一年生のとき、あの日は梅雨明けというのもあってじめじめとした暑さだった。翔音さんは高校で演劇部をやっていたので文化祭に来て欲しいと言われた。その高校に行ってみると、校舎が広く迷いそうだった。演劇部がある教室に向かい席に座った。辺りが暗くなり、劇が始まる。翔音さんは主役で相変わらず可愛かった。演技のときの翔音さんは見たことない表情をしていたので衝撃を受けた。
ある日、漫画を翔音さんに貸したときに翔音さんに言った。
「あの日、どういう意味であんなこと言ったんですか?」そう。翔音さんにずっと聞きたかったこと。お願いだから翔音さん。教えてください。あの日のことを―――。




