憧憬
タイトルから察するにこれから私の初恋を語ろうと思う。ただ綴っていく。
「あの日、あのとき、こんなことがあったなぁ」と思いながら。
最初は〝憧れ〟という感情なのかと思っていた。
そう……思っていた――。
出会いは私が小学生の頃に遡る。あの頃の私は思い出したくもない。その出来事がトラウマとなって、私の心の中はもはや壊れていたと思う。それでもその中で一割は憧憬という感情が残っていた。
ある日の中休み、いつも通り私は図工室に向かった。元々あまり外で遊ぶような子どもではなかった。図工室は校舎一階の端に位置している。ふわりとニスが香る空間で画集を読むのが私のいつものルーティンとなっていた。大きめの作業机でめいっぱい画集を広げて読むのがとても楽しかった。時折、図工の先生が絵の作品の解説をして下さって知識も深まった。その時間が私のとって唯一の救いだった。
「今日は、前回の続きから読もう」
扉を開けるとそこには先客がいた。クラブ活動でよく見かける一つ上の先輩とその友達が何かを作っていた。クラブ活動の時間以外では何度か教室移動で見かけたことがあった。一目見たとき私が思ったことは〝可愛い〟だった。可愛いという表現をここで初めて使った。今でも感覚が分からない。肌が白くて笑顔がとても美しかったのを鮮明に覚えている。
私はその先輩を見ているだけで一度も話しかけたことがなかった。話しかける勇気すらなかったのだ。それくらい消極的な性格になってしまっていた。
「先生、あの二人って何をなさっているんですか?」私は図工の先生に尋ねた。
「野外活動クラブで使う火起こしを作っているんだよ。あれ? 五十嵐さん、同じクラブだよね?」
「そうです。野外活動クラブです」
まさかと思った。〝火起こしを作っている〟その言葉を聞いたとき私は、はっとした。
クラブ活動では、自分たちで火を起こすという案に決まっていた。しかし、次の活動日にそれを実行する者が一人もおらず、私を含む全員が先生に叱られてしまったのである。
そんな中、その案を実行すべく、先輩は動いていたのだ。
「……すごい」気づけばそう口にしていた。
主体的に行動する先輩を見て、私は気づけば憧れという感情を抱いていた。ただ、それ以来、先輩が卒業するまで私は話しかけることはなかった。




