8月16日
今日、先輩を怒らせたらどうしよう。不安の中、待ち合わせの場所まで歩いていた。ファッションにも気を遣い、化粧も少ししていた。そして作った月のイヤリングを身につけて。気合十分である。ただおしゃべりをするだけなのに。我に返ると結構恥ずかしい。この日の天気は午前中、雨で午後は雨が止んだり降ったりだった。雨が降ったので気温はぐっと下がって少し涼しかったがセミの鳴き声がせわしいからか、すこし蒸し暑い。早くに家を出たので待ち合わせの時刻の10分前に着いてしまった。少し早すぎてしまったが。しかし、これが私のスタイルである。基本、5分から10分前には待ち合わせの場所に着くようにいつも心掛けている。その間、私は周りの植物を携帯のカメラに収めていた。大学生にならなきゃこんなことをしなかっただろう。サクラの葉、幹、生え方が分かるようにカメラに収めた。サクラの他にもアジサイや雑草も注意深く観察していた。
16時3分に先輩からLINEが届いた。『今向かってます…お待ちください…』やはり、先輩は私の期待を裏切らない。少し遅れてやってくるのが先輩である。
少し遅れて先輩が来た。先輩はアイドルのTシャツを着ていた。ツアーのオリジナルグッズだった。
店内に入り、傘の袋を先に先輩に手渡す。最初は少しびっくりした表情をしていたが、『ありがとう。』と言った。これは嬉しい。
手首の温度と手指の消毒をしてソーシャルディスタンスをとって席に座った。取り敢えず、ドリンクバーを頼み、私はグレープジュースにした。服に着いたら大変なので慎重に飲む。先輩はホットコーヒーだった。大人だ。
「では、聞きましょうか!先輩の愚痴などを!」LINEで先輩が言ってたように聞きたかったのである。先輩のことをまずは知りたい。そこからいろんなことを聞いた。聞いているだけで先輩がどれだけ大変な思いをしているのか改めて感じた。先輩が
『私、都合のいい友達のようになっているんだよね。二人仲いい子がいてさ、一人は私と同じ授業とってたからその子と私で話したりしてるんだけど、次の授業でもう一人の子が入ってくるから私は捨てられるというか私を除いてその二人だけで仲良くなっててさ、帰り私は教授に質問してから帰ろうとしたら、その二人は私を待たずに先帰っちゃう。だからさ…あの時間だけは私は都合のいい友達になってるんだよ。まぁ、後期の授業次第で変わると思うけどさ。』
先輩はどこか吹っ切れたような表情で私に話した。聞いていた私は、はらわたが煮えくり返りそうになった。ドタキャンの件でさえ、先輩は疲弊しきっているというのにさらに追い打ちをかけているようだった。どうして、先輩だけこんな大変な思いをしなくてはないないのか私には分からなかった。先輩が大変な思いをしているのにも気づかずいつもの生活を送っているその人たちが忌々しくて仕方がなかった。こうやって口に出せば多少、先輩は楽になってくれるだろうか。口に出せばある程度ストレスは減る。私は少しでも先輩を救いたいのだ。先輩の愚痴の次は私の愚痴のターンである。主にバイトに関わることだったが。私が塾講師をしていることにとても驚いてはいたが。先輩が忘れていた私の果たしたいことを先輩に改めて伝えた。半年ぶりに先輩に会えたこと。どれくらい語っただろう。四時間くらい先輩と語った。このご時世、二十時までしか営業していないのでとりあえず一旦、お開きにした。
帰り道、私は前日に見たことを先輩に話した。
先輩は『え~いや、そんなに気にしなくていいよ。私はそんな風に思わないよ。』
「う・・いや…許可なく行った夢の中の私が悪いんです…。」
『全然、大丈夫だよ。』なら今すぐにでもここで抱きしめたいがそんな勇気も出ず…。というより以前先輩が言っていたことが引っ掛かっていた。
「先輩、言っていたじゃないですか。ハグとか…怖いって。」
『あー、それはね、塾の先生に合格おめでとうといわれたときにされてなんか、ゾッとしたというか…。でも、友達同士で、する分には全然。』
「私は、それを行って先輩の中の恐怖を増幅させたくないので…。」先輩と恋人になれたらします。と心の中で言った。
「…あれから、考えてくれました?答えは出ました?」
『君を縛っていることに変わりはない…から…いつでも、見捨てて下さい…。』と言った。確かに、先輩からしたら縛っていると思われるのは分からなくもない。けど…どうして〝見捨てて〟なんて言うんですか?
『みんな、見捨てるんだよ。こんな私をいつかはさ。』
「私は、先輩を見捨てないし、裏切らない。」先輩を見て私は言った。これは私の本音だ。私は裏切られたときの痛みを知っている。愛してた人からの裏切りは一番の痛みであることを私は知っている。だからこそ、絶対に裏切らない。ある日から誓ったのだ。ある意味〝今日から俺が得るべき教訓〟となったわけだが。
『どうして、そんなこと言えるの…?普通なら言えないよ…そんな言葉…。』それは、あなたが好きだからです。本当に大好きなんです。好きな人にしか言えないですよ。こんな言葉。
『…まだ、変化はないんだよね。』ちょっと傷ついた。だが諦めない。絶対。
私は、スマートフォンのケースから赤いひもでくくられたものと小さな紙を取り出した。それは、以前、先輩から貰った御守りとI LOVE YOUと書かれた小さなメモである。
『そのメモ懐かしい。』着眼点がそこですかい。
「私は…待っています。予め言っておきますがこの通り、私は重い人間なので。重い人間です。」
『重いのかな?それ。』え?重いのでは?だって失恋したら髪をバッサリ切っちゃうぐらいですよ?
『その月、綺麗だね。いや、夜の街灯とかで綺麗だなって。』!?ここで初めイヤリングのことを言われた。嬉しい。
「あぁ、やっと気づいてくれましたか。」あえてそう言う。
『最初から気づいてたよ~!前はさ、中学生のときは眼鏡だったじゃん?けど今はコンタクト?だよね?』
「そうですよ。コンタクトです。」
『そこから、すごいショートになってて、髪も綺麗になっててさ…』これが褒め殺しってやつですか?これ以上やめてください…めちゃくちゃ嬉しくなっちゃうじゃないか。にやけてしまう。
『前に誕生日にくれたイヤリング、イベントとかの日につけてるよ。これでキメよう!って。』
「そうなんですか!?使ってくれて嬉しいです。」いや、本当に嬉しい。マジで。言葉に出てきちゃった。
『私、こういうのセンス無いからさ…お金は出すから作ってきてよ!』
「!?え!!?いいですよ。」これはもっと嬉しい。やめて欲しい。作ってきちゃうぞ。
『ちょっと次は…キメてくるね!取り敢えず、涼しくなったらサイクリング行こうよ。』
「そうですね!」
『また会おう!!暗いから夜道気を付けてね!!』
「はい!!では!!!」
ここで私と先輩は別れ、一人家に帰るのだった。




