ピンチはチャンスというもの
夜遅くに頑張りました。
真っ暗闇だ。
声が聞こえる。
「あの子は特別だから。」
「キヨちゃん、ちょっと変。」
「キヨちゃんと遊びたくない。」
…わたしだって遊びたくない。
「白河さんイジメた子が怪我したって。」
「また?無視した子も事故にあったらしい。」
…偶然じゃないの?
クサクサした気分で実家の裏山を登ったら、行方不明扱いになった。数時間と思ったら、数日経っていた。
「キヨ、お前はマヨイガに迷い込んだんだね。主に会ったとは…真名を教えてないだろうね。」
首を振る。なぜ自分は本当の名前を名乗っちゃいけないんだろう。妹は許されてるのに。
「蛇姫様のおかげで帰れたんだ。お礼を言いなさい。」
そんなの居ない。だって見えない。
そう言うと頬に熱。ぶたれた。
「見ようとしないから、見えないんだよ!お前は特別なのに!」
特別じゃない。全然特別じゃない。
「うわぁあん。」
そう、この頃は泣けていた。
「相性が悪いんじゃないか。この子の母親みたいに。結子が見えるんだからいいだろう。」
「あなた!でもこの子は特別で「おいでキヨ。行こう。」…。」
「おじぃちゃぁん。」
「ああ、おばあちゃんも悪気はないんだ。すまないな。」
「白河さんて、ミステリアスで素敵。」
「流石、学年首席。」
ある程度成長すると評価が変わった。気持ちが悪い。でも他人を嫌いになれなかった。不思議と興味は尽きなかった。
「結子くんは姉思いだね。」
妹が入学すると余計に名前で呼ばれない。
闇が深くなった。
「白河さん」
「白河くん」
「キヨちゃん」
親でさえ、行方不明事件の後から本名を呼ばなくなった。
何も見えない。特別な力なんて無いのに…。
闇にどんどん沈んでいく…。
けれど
「清子くん!」
一筋の光。
「君が自分を嫌いなのを含めて、僕は君が好きだよ。」
ああ、なんで君は…。
光から伸ばされた手を取ると、背中に衝撃。
ズザザー。
砂を滑る。痛みにカハッと咳をすると、汗の臭いをさせない白銀の鎧に血しぶきが舞う。
顔を見なくても分かる。これはセイだ。
邪神の目にくらんだわたしを攻撃から庇ったんだ。
対面になっているということは、左胸をセイは貫かれてるということだ。
邪神の目から出ている細いトゲを王子が斬る。おさが力付くで抜く。全快をかける。
うめいているセイの下からそっと抜け出す。
王子様が大声を出した。
「義姉上様、セイルースを動かさないで!心臓やられてるからショック死するかも!」
「ミコ様、大丈夫ですから。」
立ち上がろうとするセイにステイする。
『セイ、動くな!』
セイがしょんもりした顔をした。
そしてみるみる蒼白な顔になる。そこまでショックか?
そう思ったが、自分の違和感に気付く。
しゃがんでいたのに、ぺたりと座ってしまった。
おかしい。よく見ると神の衣にシミが出来ている。赤い。
穴は修復できているのに、シミは消えては現れ、消えては現れを繰り返している。
もしかして…これは異世界でたまにある回復得意だけど自分には効かないバージョンでは?
クッソ神様、何もこんなのを履修しなくとも。
そう思っているうちに身体はどんどん前に倒れていく。
「間に合ったぁ。」
それを止めたのがボクっ子の手だった。
「ミコ様、ボクだって大神官に癒しの術を密かに特訓を受けてたんだからネ!」
そう言って胸の前で手を光らせる。
「アレ、おかしい。血が止まらない!猊下!」
ボクっ子が涙声で大神官をイヤホンのマイク越しに大神官を呼ぶ。
すでに近くに大神官のワープの気配を感じた。だがワープは大神官がデカいからか、時間がかかるのだ。
「やだやだ。ミコ様、死なないでよぉ。」
『勝手に殺すな。心配いらぬ。』
ライとユキが小さくなって、寄り添って来る。
マズイ。目が霞んできた。
血が足りねぇ。
「おい、聖人やべぇんじゃねーのか。」
「「ミコ様!」」
いろんな悲痛な声が聞こえる。うるさいな。眠らせてくれ。
「ダメだ、ダメだ、ダメだ。誰か!ミコ様を助けて!!」
ボクっ子の悲痛な祈りが通じたのか、時計がカチリと止まる音がした。
※ ※ ※
首を回すと皆止まっている。辛うじて、血も止まっているようだ。
(助けて!兄者!オレのミコが死ぬ!)
誰がお前のじゃい。いやお前のミコか。
神様の悲痛な叫びにそんな事を思う。
「助けを求められるのは2回目だな。」
わたしの前に手を差し伸べたのは、人外が人型をしたらこうだろうという神秘的な美形だった。
そう、神殿にあった噴水のイケメンである。
「伝説の英雄…。」
だが、神様ではない。この方の中にある人型の発光体の輝きが違うのだ。
神様も兄者と言っていた。兄神様だ!
「流石だ。良きミコよ。良く頑張ったな。」
そして正体については黙っているようにと、シーッとポーズを取ったがそれもくぅあっこいい!
カチリ。再び時計が動く音がする。神様の力だろう。
※ ※ ※
いつの間にかわたしの傷は治っていて、神力は膨れ上がり、ミコビームが無限に撃てそうである。
立ち上がったわたしに気付いたボクっ子が鼻水を垂らしながらポカンとした。
「伝説の英雄…。」
そして膝を着いて祈ろうとするから、慌ててポケットを探る。
『お前の顔で鼻水は無いだろう。キチンとしろ。』
子どもじゃないんだからと、一瞬不服そうな顔したが、ボクっ子は素直にジーン!と受け取ったティッシュで鼻をかみ、ポケットにゴミを入れてから祈りのポーズを取った。
周りを見回すとワープを終えた大神官も跪いて祈りのポーズを取っていた。
騎士達も膝をついて頭を下げている。
セイはステイを素直に聞いて、けれど頭を下げてるつもりなんだろう突っ伏している。
「良きミコよ。邪神を我らで屠ろうぞ。」
そう言うと兄神様はセイが手放してしまって、遠くに飛んだ秘剣のそばにわたしを導いた。
「剣を取れ、ミコ。」
秘剣と兄神様を見比べ、大丈夫かと心配していると
「大丈夫だ。我がいる。」
フォローも細かい兄神様流石である。
意を決して秘剣を取ろうとすると、少しピリリと静電気のような反発があったが、柄を握る事は出来た。
「わぁ!」
刀だった秘剣はみるみるその姿を変え、洋剣へと変化した。装飾が豪華な、勇者が最後のボスを倒す際に持っていそうな立派な聖剣である。
「我に身を委ねよ、ミコ。」
『はい』
力を軽く抜くと、背後にまわった兄神様が柄を一緒に握ってくれる。ふわりと身体が浮いた。
空を飛んでいる。パンツが心配だったが、神の衣の効果で角度など上手く調整してくれるであろう。
【わらし…宇宙へ一緒に行こう】
邪神の声が若い男の声になっていた。弱々しいその声に何か記憶が過ぎりそうになったが、兄神様の技名にそれは吹き飛んだ。
「神のクセに何やってんだ斬り!」
七色の斬撃が格子のように邪神を斬り刻む。
【わらし…約束したではないか】
「必殺!執着キモすぎて滅!!」
トドメの一撃で、邪神は粉々になり核が現れて割れた。
(イテッ)
ピシッ!とムチのしなる音と共に神様の痛がる声がした。
音の方を見ると空間が切り開かれ、そこから豪華な
着物を歌舞伎に着こなした妖艶な美女が現れた。
あれが蛇姫様だろう。
蛇姫様は兄神様に会釈をすると、粉々になった核に手を飾す。すると核は赤ん坊になった。
「これは妾の眷属。放置していたのが仇になったの。これからは厳しくいくから心配いらぬ。世話になったな。」
そう言って赤ん坊を抱いて、またピシリと空間を裂き、帰ろうとして止まった。
「清子、妾のミコにならなかった事、後悔させてやるわ。」
そう捨て台詞を吐いて、帰って行った。
「良きミコよ。我の星は珍しいと言われていてな。たまに地球に行くと宇宙人と呼ばれている。」
兄神様は耳元でこっそり話すといたずらっ子な顔をした。そんな顔も美しい…。てか、宇宙人ですと!?
「今度招待しよう。楽しみに待っておれよ。」
そして、ゆっくり着地すると邪神の方にふうっと息を吐いた。邪神の塊が薄紅色の薔薇の花びらへと変化していく。
「これで汚染された土地も浄化されるだろう。」
「感謝します。神様。」
キリッとした兄神様に大神官が礼を言う。
「良きミコ。声をかけてやれ。」
セイの前に立った兄神様がそう言ったので、立ち上がるように言うが、違うらしい。セイは動かない。
「良きミコ。違うだろう。」
兄神様にたしなめられて、仕方ないなとわたしも思う。
『セイルース・フォン・ミルド・ラルソーン』
『我が騎士よ。良くやったな。』
「ミコ様!」
何に驚いたらいいのか分からない顔で、セイがガバリと立ち上がって、膝をつく。その瞳に涙を溜めて。
そして周囲にわっと人が集まる。
「ミコ様、ボクの名前も覚えてよ!」
「「我々も!」」
「まさかオレの名前覚えてないとか無いよな!」
そんな騒ぎを美しい顔でワハハと笑って
「では、またな。良きミコよ…。」
兄神様はすうっと消えていった。
そして入れ替わるように
「ねぇさぁあああああああん。」
ドスン!
また空から妹が降ってきた。婚約者殿も一緒だ。
『空から降るしか出来んのか』
わたしがそう言うと、妹が頬を膨らます。妹はわたしの前では子供っぽい仕草をする。
「蛇姫様は空間を渡るのは苦手なのよ。毎回井戸に突き落とされるのだから!」
そりゃ大変だ。しかし王子様は普通に来たような…。
首をかしげるわたしを無視して妹は周囲を見回した。
「蛇姫様から聞いたわ。上手くいって良かったね。」
妹は苦戦していると聞いた時はヒヤッとしたけど、と言った。
「こっちもハッピーエンドは無理ながら、なんとか終わったから、最悪助力も考えてたから良かったわ。」
「オレも頑張ったんだよ、ユイ〜。」
王子様の甘えた声を無視して、妹はポケットからスマホを取り出した。
「蛇姫様が今回の褒美に大神様に許可貰ってくれたの。空間を通すスマホだよ。写真送ってね!わたしも結婚式の写真送るから!」
「略奪の動画送りますよ、義姉上様。」
王子様が余計な事を言って、婚約者殿にゲンコツを食らっていた。
「姉さんの事だから、当分帰らないでしょう。」
妹の言葉にウンと頷くと、周りがわぁっと喜んだ。
わたしはなんだか嬉しく感じた。
『邪神のせいで昔を思い出したよ、結子。悪い事ばかりじゃなかった。特に彼には救われた。』
「そう…。」
悲しまないわたしに妹も笑顔で応えた。妹の方が表情筋は少し動く。
「彼とは誰ですか。」
背後からセイの声がする。
「ところで姉さん、その背後霊は何?」
妹が戦闘態勢に入る。
セイには追々な、と声をかけ、妹には犬係から出世した旨を伝える。
『我が騎士だ。』
「へぇ〜。そう…。騎士ね。なら安心ね。」
「どういう意味だ。」
「そのままの意味よ。騎士さん。」
ふふん、と謎マウントを取った妹はスマホを活用するように念押しした。
そして秘剣については、いらないと言う。
「これ蛇姫様の趣味じゃないもの。神殿にでも飾ったら。」
『なら、そうするか。』
「「ありがとうございます。妹様!」」
神官と騎士達がお礼を言う。そんなに欲しかったのか、秘剣改め聖剣。
「なんか疲れたな。いいとこは聖人が持ってくし。」
「またミコ様の活躍譚が増えましたな。」
「ミコ様、今度は公国にも来てよ〜。」
蛇王や神官達、公子が好き勝手に話し出す。
「じゃあね、姉さん。また今度。」
異形のライとユキをそれぞれ撫でて、妹は空間を切り裂いて婚約者殿と王子様を連れて帰って行った。
『そうだな。またいつか…。』
「ミコ様、一旦帰りましょう。神殿へ。」
大神官の言葉に頷く。
蛇王がそんな大神官の肩を抱く。
「祝勝会が先だろうよ!そう簡単に帰すかよ!」
帝国民を安心させてやってくれや。と言う民思いの蛇王の為に暫くは帰れそうにないな、と思った。
『帰ろう。祝勝会が終わったらな。』
まだまだ世界を救わなくてはいけないからな。
ミコの仕事は終わらないのだ。
長さが中途半端になりまして、割るかどうするか迷ったんですが、一気に終わらせることにしました。
お付き合いありがとうございました。




