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9月

【9月】


 「先輩って、身長何cmですか?」

 「ん〜…170cm。」

 「いいなぁ〜〜〜っ!!」

 「君もすぐじゃない?」


 夏休み明けから、後輩くんは私と一緒に下校するようになった。並んで歩くと彼のつむじが見える。


 背が高いことは私のコンプレックスなのだけれど、これだけ素直に羨ましがられると、そんな悩みも薄らいでいく。無垢ってすごい。



 さて、私と後輩くんの家は反対方向だ。でも一緒に下校したがる彼。


 初めて誘われた日、ちょっとドキリとしたのは内緒だ。

 美羽が、

 「そろそろ後輩くんに告白されちゃったりするんじゃない?」

 なんてからかうから。



 しかし、早々に理由は判明した。


 帰り道の途中にある公園が、件の『カナヘビ王国』だったのだ。


 カナヘビを片手に、

 「こっちが王国。あっちが帝国です。」

 と、説明する後輩くん。帝国の方がカナヘビの数が多いとのこと。



 ちょっとでも意識してしまった時間を返してほしい。


 • • •


 それにしても一緒に歩いていて驚いた。この子の交友範囲はとてつもなく広い。


 道々すれ違う人に「やあ!」とか、「こんちは!」と声をかける後輩くん。老若男女幅広い。


 すると相手も、「おう」とか、「今日も元気だねぇ。」などと返してくる。

 みんな知り合いなのだ。


 今日などは、家庭菜園を営む年配の方に声をかけられ、スイカを貰っていた。後輩くん曰く、友達なのだとか。

 おじいちゃんが友達...。


 因みに、おじいさんは私にもスイカをくださった。

 「ついに彼女を連れてきたかぁ。」

 違います。



 帰宅後に家でそのことを母に話すと、母はコロコロ笑いながら、

 「凄い子だねぇ。」

 と言った。それは本当にそう思う。


 後輩くんは打算なく人の懐に入り込むのだ。突撃すると言ってもいい。

 そして無邪気に懐いてくるさまに、勢い周りも優しくなってしまう

 そして彼はまた人を好きになる。

 好きの拡大再生産だ。


 世の中の人がみな彼みたいだったら、争いは起きないだろうな。別の意味で大変なことになりそうだけれど。

 カナヘビ探しに夢中な彼を眺めながら、そんな有りもしない世界を空想する。


 でも現実は時に冷酷だ。この子を受け入れられない人だってきっと居る。

 この子を拒絶する世界。それは嫌だな。この子が幸せでいられる世界であってほしい。



 しばらく取り留めのない思考に嵌っているうちに、彼が大きなカナヘビを捕まえて戻ってきた。大きいな。



 …大きすぎないか?


 いや違う、アレはヘビだ。来るな。寄るんじゃない。

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