第141話 先輩の、体重計
「おっ、おっ、おおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーっっ!!!!」
思わず、叫んでしまった。
昼休みの文芸部部室という珍しいシチュエーション。
窓から差し込む光もいつもより眩しくて、机に置かれたお弁当箱の中身を照らすスポットライトみたいだった。
「ゆ、柚子先輩! ご飯が! ご飯が輝いていますよ!?」
柚子先輩が包んでくれた青いハンカチを外すと、中には縦長で二重のお弁当箱が入っていて。
一段目は俺が言ったようにご飯が入っていた。
炊いた白米がギチギチじゃなく、少しだけ隙間が空いているように盛られているので余裕というかすごくふっくらして見えて、とてもすごい。
「それにほらおかずも! な、何ですかこの色とりどりの小分けにされたおかず達は!? 卵焼き! プチトマト! 唐揚げ! ブロッコリー! ハンバーグ! スパゲッティ! えっ!? 一流レストランのコース料理じゃないですか!!」
「え、えへへ……お、大げさだよぉ……」
俺の隣に座った柚子先輩が嬉しそうに首を振る。
可愛い。
だけどちっとも大げさじゃなかった。
だってこんなにたくさんのおかずが入ったお弁当箱なんて見た事が無い!
お弁当はもっと茶色くて、肉とご飯ばっかりで、力がつくものだって爺ちゃんが言ってたし……。
でも柚子先輩のお弁当は違う!
おかずとおかずが並んでいて、芸術作品のようにコントラストがすごいんだ!
しかも脂っこいおかずは小さな包みみたいなのに乗っていて、その包みもまたカラフルで本当に見てるだけで眩しい!!
テレビの食レポで宝石箱という言葉が出る意味を、俺はようやく理解できたんだ!!
「ありがとうございます……ありがとうございますぅ……!」
「か、翔くんっ!? だ、大丈夫!?」
「はい……! 俺、嬉しくて……嬉しくて……! 柚子先輩が俺の為に、こんなに素晴らしいお弁当を……手間暇かけて作ってくれたなんて……俺、俺……一生幸せにしますね!!」
「ふええぇぇっ!? え、えぅ……あぅ……うん……」
感動で泣きそうになってしまった。
気持ちが爆発した俺は柚子先輩の小さな手を握ると、柚子先輩も顔が爆発しそうなぐらい真っ赤になりながらも頷いてくれた。
俺はなんて、幸せ者なのだろうか……。
「……う、うぅぅ……た、食べよ……?」
「はい!!」
幸せを噛みしめていると、顔を真っ赤にした柚子先輩が俺を見上げてくれた。
可愛い。
だけど柚子先輩の言う通り、お弁当を食べなければ!
昼休みは限られているし、何より柚子先輩が作ってくれた最高のお弁当で……?
「あれ? 柚子先輩のお弁当箱……小さくないですか?」
そこで俺は気づいた。
俺の隣に座る柚子先輩が机に置いたお弁当箱が、俺のより一回りも二回りも小さい事に。
二段だった俺のお弁当箱の一段分にも満たない小さなお弁当箱。
少しのご飯とおかずが、それも野菜や卵焼きしか入ってないお弁当だったんだ。
「うええぇぇっ!?」
しかもそれに柚子先輩がすごくビクッと背筋を伸ばして反応する。
可愛い。
でも何で柚子先輩が驚くんだろうか?
「いや、あの、そのぉ……」
視線がキョロキョロ右往左往している柚子先輩も可愛い。
まるで隠し事がバレた子供みたいで、見ていてとても微笑ましくなる。
「……笑わない?」
「え? はい! もちろんです!」
そしてようやく視線が定まって、また俺を上目遣いしてくれた。
可愛すぎる。
可愛さの宝石箱だ。
「こ、この前のぉ……身体測定、でぇ……」
とても言いづらそうに言葉を紡いでいく柚子先輩も可愛い。
身体測定と言えば、測定器が壊れていて柚子先輩の身長が140センチを下回ってしまった時の奴だろう。
あの時は、あの時はすごかった。
柚子先輩の身長を測る流れから、何故か柚子先輩が俺のお腹の上に跨って……。
「た、体重……増えちゃったから……」
そんな柚子先輩が恥ずかしそうに、小声で、俺に告げる。
なるほどなるほど、柚子先輩の体重が増えたと……。
「変わらなくないですか?」
「か、変わってるよぉ!?」
そんな感じはまるでしなかった。
だけど柚子先輩は声を大にして主張する。
「いえいえ変わってません! 大丈夫です! 柚子先輩はいつでも軽くて可愛いですから!!」
「か、可愛いは関係ないじゃんかぁ! そ、それに重くなってるんだよぉ……!」
久しぶりに口調が崩れる柚子先輩も可愛い。
これは柚子先輩が先輩として頑張ってる時の口調だ。
最近は素の可愛い柚子先輩でずっといてくれてたけど、こっちはこっちで文芸部に入った当初の思い出がよみがえるから良いんだよなぁ……。
「いえ、重くなってません! 何故なら俺は毎日、柚子先輩の体重を膝の上で感じてるからです! 柚子先輩専用の体重計を舐めないでください!」
「か、翔くんは体重計じゃないよぉ!?」
それはそれとして無理なダイエットは良くない。
お腹が空いて頭が回らないと柚子先輩の大好きな読書にも影響してしまうだろう。
毎日柚子先輩の椅子なってその軽すぎる幸せの重量を感じている身としては、柚子先輩にはいつまでも健康でいてもらわなければ……!
「デートの時だって俺の膝の上に乗ってくれましたし、だっこもしたじゃないですか! 全然重たくなんてありませんでしたよ!」
「そ、それはぁ……でも、でもぉ……」
デートの時を思い出したみたいで柚子先輩の顔がまた赤くなる。
正直俺も恥ずかしい。
だけど今はそれよりも、柚子先輩にはお腹いっぱい食べてもらいたいんだ!
「でも、だってぇ……お、お腹が……」
「大丈夫ですよ柚子先輩!」
そう、お腹いっぱい!
「じゃあ、触ってみてよ……そ、それで、分かる……から……」
「はい! 分かりま…………え?」
お腹いっぱい!
…………さわ、る?




