第140話 先輩の、でりばりー
「ゆ、柚子先輩が……俺にですかっ!?」
「う、うん……ママと、一緒に……」
蜜柑お義母さんありがとうございます!!
柚子先輩が俺にお弁当を作ってくれるなんて、こんな……こんな幸せがあって良いんですかお義母さん!?
いつでも肩とか、お揉みしますよお義理さん!!
「ありがとうございます! その、俺! すっごい嬉しいです!!」
「う、うんっ! だ、だってボク……か、翔くんの……お、およっ、およよっ!?」
およおよ柚子先輩も可愛い。
先輩もデートの事、ちゃんと覚えててくれたんだと胸の奥が熱くなる。
このまま柚子先輩の可愛さと優しさを無限に味わっていられるけれど今は時間が限られている昼休みだ。
それに恥ずかしがっている柚子先輩をこれ以上無理させる訳にはいかない。
「大丈夫ですよ柚子先輩。大丈夫! 分かってます!」
「う、うん……えへへ……」
「二人だけで通じ合う世界……エッチだね綾斗くん」
「専門外なんだけどぉ!?」
お弁当箱を両手で大事そうに抱えながら嬉しそうに笑う柚子先輩は女神であり天使である。そんな可愛さ天国に導かれようとしている俺の腰にはまだ腰を抜かした綾斗がしがみついていて、綾斗には悪いけどなんかこんな昔話あったなと思った。
「檸檬ちゃんもありがとう。わざわざ柚子先輩と一緒にこっちの校舎まで来てくれて」
「ううんっ! デート後のお姉ちゃんと翔くんの生々しい雰囲気が見れて最高だったから気にしないで!」
「違う意味で気になる言葉が増えたよ、今」
檸檬ちゃんの長い前髪から片方だけ覗いている右目がすごくニコニコしていた。
気になるところではあるけれど、柚子先輩を待たせるのもこのまま綾斗をしがみつかせたままにしているのも良くないので一端置いておこう。
「とりあえず柚子先輩、一緒に食堂行きましょうか」
「う、うんっ!」
「あ! お姉ちゃん! 翔くん! その事なんだけど!」
「……え?」
「……檸檬?」
気を取り直して柚子先輩と食堂に向かおうとすると、後ろの教室にいた檸檬ちゃんが廊下にシュバッと回り込んできた。
流石はバスケ部、動きがとても俊敏だ……!
「ちょっとこれから綾斗くん借りてくから、二人は文芸部で食べてて!」
「え?」
「え?」
「はぁっ!?」
俺と柚子先輩が首を傾げて、綾斗が俺の腰で叫んだ。
綾斗、気持ちは分かるけど……そろそろ立ってくれない?
「な、なななっ、! 何をする気だ!?」
「何かされること前提なんだ……」
「そ、そうだよ檸檬! そ、そそそそんなお昼ぐらい気を遣わなくても大丈夫だから!! 部活の時間にたくさん座るから!!」
「ゆ、柚子先輩……!」
「シレっとこういうことを素で言っちゃうお姉ちゃんの危うさは私も好きだけど、今はそれだけじゃないよ!」
綾斗が俺の腰にしがみつく力を強める。
そして柚子先輩は真っ赤な顔をしてすごく嬉しいことを言ってくれた!
今日もたくさん座ってくれるらしい!
でも、たくさん座るってなんだろう……!?
「綾斗くんに用があるのは私じゃなくてぇ……」
「お待たせ檸檬ちゃーん。あー、ゆずゆずと翔くんもいるねー!」
「姫ちん!?」
「姫ちん先輩!」
そんな俺の放課後の楽しみが増えたところで、廊下の向こうからなんと姫ちん先輩まで現れた!
柚子先輩の同じクラスだからか、柚子先輩がとても驚いている。
そして綾斗よりも身長が大きい姫ちん先輩が柚子先輩の隣に並ぶと、より柚子先輩の小ささが際立ってとても可愛いなぁ。
「やっほー姫ちゃん! 綾斗くん確保したって言うか、翔くんにしがみついてる!」
「本当だー。綾斗くんどうしたのー?」
「今この状況にビビり散らかしておりますが!?」
そんな姫ちん先輩が、檸檬ちゃんの指差した先にいる俺の腰にしがみついている綾斗を見つけて前かがみになる。
いつもは長身の完璧イケメンも、自分より背が高い先輩の前ではぷるぷるの小動物系イケメンになっていた。
「そっかそっかー。じゃあー、お昼食べながらー、ちょっとお話しようかー?」
「お、お話っ!?」
「ここじゃあー、あれだからねー」
「アレ!?」
「任せて姫ちゃん! 私調べでこの学校の時間別ほとんど人が来ないスポットの調べはついてるよ!」
「わー。檸檬ちゃん、さすがだねー」
「犯罪の匂いしかしないんですがぁ!?」
とんとん拍子で話が進んでいく……綾斗を除いて。
女性恐怖症な綾斗も、俺と柚子先輩経由で悪い印象が無い檸檬ちゃんと姫ちん先輩には強く言えないみたいで。
「だいじょうぶだいじょうぶー」
「おわぁっ!?」
そんな綾斗が、姫ちん先輩に抱えられた。
完璧超人の長身爽やかイケメンが、姫ちん先輩にお姫様だっこされてる!!
「そうだよ綾斗くん! 痛いのは、多分、最初だけ? だから!」
「な、何する気だよマジで!?」
「じゃあー、れっつごー。ゆずゆずー、翔くんー、またねー」
「ま、待って!? 待ってください!? たす、たすけっ!? 翔、助けてくれえええええぇぇぇぇぇ……」
綾斗が、姫ちん先輩と檸檬ちゃんに運ばれていってしまった。
昼休みの廊下には悲痛な叫びだけが木霊して、その叫びが聞こえた他の教室からも何人か外に顔を出したりしていたけど、すぐに静かになった。
「…………」
「…………」
そんな嵐みたいな昼休みの始まり。
残された俺と柚子先輩は、どこかへと運ばれていった綾斗の見えなくなった背中から視線を戻して。
「……ぶ、部室……行くぅ?」
「……はいっ!!」
思い出したように顔が真っ赤になった柚子先輩と一緒に、文芸部の部室へと向かったんだ。




