第139話 先輩の、お弁当
廊下に出たら、柚子先輩がいた。
教室の扉を開けたら、柚子先輩がいた。
普通科二年生の柚子先輩が、スポーツ科一年生の教室の前にいた!?
「なっ、なななななななっ……! 何で柚子先輩がここにっ!?」
「あ、えっとぉ……そ、そのぉ……」
廊下でもモジモジしている柚子先輩が可愛い。
移動教室の時とかにすれ違った事はあるけれど、階も校舎も違う俺の教室前で会うのは初めてだ。
何て言うか、柚子先輩が初めて俺の家に来た時みたいな感覚……。
あの時は俺の方が熱を出して寝てたから、つまりこれが初めての気持ちだった。
「あ、綾斗! 俺、どうしよう!? すごいドキドキしてる、今!」
「俺に聞くなよ……ていうか叫ぶなって、先輩も困ってるじゃん――」
「なら今日もメス顔晒してるお姉ちゃんの代わりに私が説明するよっ!!」
「――かおうわぁぁっっ!?」
混乱する俺が振り返る。
綾斗が呆れた顔をしていた。
そんな綾斗の背後から両肩にポンと手を当ててヌッと現れたのは檸檬ちゃん。
驚いた綾斗は、膝から崩れ落ちた。
「ななっ! ななななっ!? 何で俺達の教室にいるんだっ!?」
「綾斗、それ俺も今聞いたばかり」
「先輩は廊下だろ!? 檸檬は教室だぞ!?」
「ふっふっふ、実はね……教室には二つ扉があるんだよ。ミスディレクション……お姉ちゃんの可愛さに気を取られた翔くんをビックリさせようと思ってね!」
「驚いたの、綾斗だけど」
檸檬ちゃんがドヤ顔で、やたらミスディレクションの部分だけネットリと言う。
そして今も俺の腰と言うか太ももにすがりついているのは野球部のエースで四番な学園一の爽やかイケメンの綾斗だ。
女性恐怖症という事は抜きにしても、割とビビりな一面もあるのが俺の親友で。
「あ、ああの……か、翔くんっ!」
「は、はいっ!?」
しまったっ!?
そんな腰が抜けた昔からの親友に気を取られていたせいで俺は目の前にいる柚子先輩のことを完全に忘れてしまっていた!
な、何てことだ……!
柚子先輩のことは、一分一秒でも忘れたことが無いって言うのに……!!
「こ、こここっこ、こここっ!」
「こ、こっこ!? に、ニワトリですかっ!?」
だけど柚子先輩も焦っていた。
こっこ鳴く、ニワトリな柚子先輩も可愛い。
ヒヨコじゃなくてニワトリなのが最高に柚子先輩していてとても可愛くて。
「こっ……これぇっ!!」
「こっ、これはっ!?」
そんな柚子先輩がずっと背中に回していた手をバッと前に出した。
その小さな両手には、四角い、青色のハンカチで包まれた……箱みたいなものが持たれていて。
「お、お弁当っ!」
「お、お弁当……お昼ですもんね!」
流石は柚子先輩だ。
学食組な俺と綾斗とは違って、こうして自分でお弁当を用意している日もあるなんて、とても家庭的じゃないか……!
「ち、ちがくてぇ……」
「違うんですか?」
「ち、ちがわないけどぉ……ちがくてぇ!」
柚子先輩が首を横にブンブン振って、さらにそれを否定するようにまた横に振る。
ニワトリな柚子先輩の後はブンブンな柚子先輩も可愛い。
お昼休みだけで可愛いのフルコースを味わえて俺はとても幸せ――。
「か、翔くんにっ、作ってきたの……!」
「…………え?」
――柚子先輩が、俺に?
手作りの……お、お弁当をぉっっっっ!!!!!!!!????????




