第138話 先輩の、お昼休み
白い光の中で、柚子先輩の可愛くて綺麗な顔が見えた。
丸くて大きな瞳を閉じて、もちもちのほっぺたを真っ赤に染めた柚子先輩の顔が。
両手でだっこしていた柚子先輩の重みと柔らかさ、夏の日を一緒に過ごしたとは思えないぐらいに甘い匂いが漂っていて、その優しいあたたかさが俺の腕にあった。
そして、そんな柚子先輩の、唇の感触。
それは、もちもちのほっぺたなんて比べ物にならないぐらい柔らかくて――。
「……い。……る!」
「…………」
「おーいっ!翔ー!」
「…………柚子先輩?」
「綾斗だよ馬鹿やろう」
――爽やかな夏の権化みたいな金髪イケメンが目の前にいたんだ。
周りを見渡してみればここは教室で、みんな思い思いの席に集まっては弁当箱を広げている。真っ白な光もプリクラマシーンの中じゃなくて、カーテンから差し込む夏の日差しだ。
つまり、今は月曜日の昼休みという事だった。
「……ったく、また心ここにあらずだったぞお前? 朝は聞かないで置いたけど、そんなにデートが良かったのか?」
「でっ!?」
「ん?」
「…………今から語りだすと、放課後になるけど良い?」
「良い訳ないだろ」
爽やかイケメンは呆れた顔も絵になる。
だけど俺には柚子先輩との最高過ぎたデートを昼休みの間だけで語りつくすなんて不可能だった。
お洒落して綺麗になった柚子先輩、ワンちゃんと同じ名前で恥ずかしがる柚子先輩、お魚さんにはしゃぐ柚子先輩、そして……俺の腕の、中で……。
「……放課後、家来て、晩飯食ってく?」
「部活だよ馬鹿やろう」
「ぶかっ、ぶかっ……」
「おーい。壊れるなー。帰ってこーい」
爽やかイケメンによって呼び戻される。
でも俺がトリップしそうになったのも野球一筋な爽やかイケメンが部活と言ったからだ。
部活、そう……文芸部。
今日も放課後に、楽しい楽しい文芸部がある! ん、だけど……。
「俺、どんな顔して柚子先輩に会えばいいんだろ……」
「いつも通りで良いんじゃね?」
「いつも通りが出来ないから言ってるんだけど……」
「最近のお前、ずっとそんなだぞ」
爽やかイケメンによる、めちゃくちゃ大きなため息だった。
具体的には、左肩をグルグルと回しながらした、とても大きいため息だった。
最近の綾斗の中では肩をグルグル回す仕草が流行っているらしい。
本人は嫌がるけど、その仕草だけでもファンの女子はすごく喜ぶと思う。
「……とりあえず。学食で話せる範囲だけ話すよ」
「話すの確定なのかよ……」
そんなスルースキルたっぷりな爽やかイケメンの親友に言いたい事が沢山ある。
デートの事とか、デートの事とか、デートの事とか、デートの事とか、デートの事とか。
なによりも柚子先輩に会う前に、気持ちを落ち着かせなければいけない。
弁当が無い学食組な俺達は食堂へ向かう為に立ち上がり教室の扉を開けると――。
「あぇっ!? か、翔……く、ん……」
「ゆゆゆっ……!」
――そこに、柚子先輩がいたんだ。




