5 赤田隼 立ち止まる僕と、周囲 1
それは、小学一年生の頃だった。
急に不可思議な夢を見るようになったのだ。夢の中で僕は私だった。
私には、世界一大切にしたい女の子がいた。妹だ。名前は――という。一見、無表情に見えて、本当は誰よりも感情豊かで、笑うと可愛い。そんな、女の子だった。
私は、ずっとあの子と一緒にいたかった。あの子さえいれば、それでよかった。でも、本当はそれではだめだと気付いていた。いつか、あの子の手を離さなければ、私たちは永遠に二人だけの世界に閉じこもったまま。
けれど、私は、最悪なタイミングで手を離すことになる。
きっかけは、本当に些細なケンカだった。けれど、
「どうして、いつも、姉さんばかり……!」
そう言って、手を振り払われたのは初めてで、私は飛び出したあの子を追うのをためらった。
それでも、傍にいたくて。いてほしくて、追いかける。
あと十歩だった。私が、追うのをためらわなければ、間に合った。
あの子は、飛び出してきた車にひかれて、もう二度と会えなくなってしまった。
■ □ ■
「ごめん、何て言った?」
「だから、あいつのことだ。あいつ、本当に頭がおかしい」
僕の親友である零次は、道脇さんに傍目から明らかなほど、恋をしていた。けれど、その恋は実らなかった。けれど、零次は元気そうだ。てっきり、零次のことだから、もっと落ち込むと思っていたのに。
それは、きっと彼女――道脇桃のおかげなのだろう。
そして、いつか間違いなく零次は、彼女に恋をするのだろう。
みんな、進んでいく。零次は、新たな恋へ。道脇さんは留学を考えているらしい
あの子によく似た道脇さんは、僕のことを将来が決まっていてすごいですね、と笑ったが、それは違う。
僕は、ただ敷かれたレールの上に乗っているだけだ。
まるで、取り残されたような気分になる。僕だけが、あの十歩で立ち止まったままだ。
■ □ ■
まるで妹のように――あの子のように可愛がっている女の子は小学五年生になった。
「隼!」
僕を見るなり、亜季ちゃんが駆けてきた。初めて会ったのは、彼女が赤ちゃんだったころだから、気づけば随分長い付き合いになる。
今日は、亜季ちゃんに買い物に付き合ってほしいと言われて、ショッピングセンターに来ていた。暫く、
二人で歩いていると、亜季ちゃんの知り合いにであった。
「亜季さん、用事って、赤田様とのお出かけだったのね」
「確かに、それなら仕方ないですね」
亜季ちゃんの知り合いは、口々にそういうと納得したように去っていったけれど。
「亜季ちゃん、どういうこと?」
問い詰めると、彼女は頬を膨らませた。
「どうって、別に。隼と約束してたから、友達の誘いを断っただけ」
話を聞くと、そういうことは一度や二度ではないらしい。
「今度から、そういう時は僕じゃなくて、お友達の方を優先してほしい」
僕がそういうと、彼女は顔を顰めた。
「意味わかんない。私は、別に隼がいればそれでいいもの」
だめだ。それでは、また僕は同じ過ちを繰り返してしまう。閉じた世界ではだめなのに。
「今はまだ、わからないかもしれないけれど。無駄なことに時間を使ってほしくないんだ」
今ある時間がどれほど貴重なのか、彼女は自覚していない。
「……無駄か、どうかは私が決めるわ。もういい、もう帰る」
そういって、それっきり彼女は黙りこくってしまい、結局そのままその日はお開きとなった。




