第4話【 数千の重み 】
第6部
吾郎の元に、
銀河団SPT-CL J0546-5345内の
各銀河から、
初めての定期報告が出揃っていた。
副官として新たに任命された
数名の補佐官たちが、
それぞれの担当区域の状況を
持ち寄っている。
会議室には、
数千の銀河から集められた報告書が、
幾つもの束となって積み上げられていた。
「監督官殿。……
安定した銀河群からの報告は、
概ね順調です。
監督官としての関わりで、
十分に機能しています」
補佐官の一人がそう告げると、
別の補佐官が、険しい表情で続けた。
「一方、
暫定統治下にある銀河群では、
新たな問題が浮上しています」
「聞こう」
「内乱が鎮まった銀河の一つで、
旧勢力の残党が、
暫定統治の人員を装い、
資源の横流しを行っていたことが
発覚しました」
吾郎は、静かに眉を寄せた。
「規模は?」
「この一月だけで、
銀河団全体の物流の一割近くに
及ぶ可能性があります」
会議室に、緊張が走った。
財務を担当する補佐官が、
青ざめた表情で付け加える。
「一割となれば、
他の暫定統治銀河への支援にも、
深刻な影響が出かねません」
監査担当の補佐官が、
さらに資料をめくりながら続けた。
「厄介なことに、横流しの手口は、
複数の銀河にまたがって、
巧妙に分散されています。……
単純な内部告発だけでは、
全体像が見えてきません」
吾郎は、しばし目を閉じ、静かに命じた。
「まず、横流しの経路を
すべて洗い出してください。……
そして、
暫定統治の人員そのものにも、
改めて監査を入れる。
信頼だけで運用してきたことが、
裏目に出たのかもしれません」
「監督官殿ご自身が、
直接乗り込まれますか?」
「いや」
吾郎は、静かに首を振った。
「俺一人で
すべてに目を配ることはできない。……
これを機に、
銀河団全体を監査する専門の部署を、
正式に立ち上げよう」
数日後、吾郎は、
この銀河団に新設する
「監査局」の初代局長に、
暫定統治下の銀河出身の、
生真面目な若い官僚を抜擢していた。
「なぜ、私のような者を?」
局長就任の報せに、
当人は戸惑いを隠せない様子だった。
「そなたの銀河は、
かつて内乱に苦しんだ。……
その痛みを知る者だからこそ、
不正を見過ごさない目を持てるはずだ」
「期待に応えられるか、
正直、自信がありません」
「自信がないくらいで、ちょうどいい。……
驕った者に、この役目は任せられない」
局長は、深く頭を垂れると、
すぐさま監査局の陣容を整え始めた。
財務、法務、そして
現地の実情に詳しい調査官たち――
数十名規模の部署が、この数日で
急ピッチで組み上げられていく。
「まずは、暫定統治下にある
すべての銀河の帳簿を、
一斉に照合します。……
人手が足りません、
聖国本星からの増員を、
改めて要請させてください」
「承知した。……
必要なだけ、要請してくれ」
吾郎は、
監査局の立ち上げを見届けながら、
静かに独りごちた。
「信頼だけでは、
この規模は支えきれない。……
仕組みそのものを、育てていかねばな」
一方、レグナは、
聖国の版図拡大の討伐に加え、
この横流し事件の追及にも、
力を貸していた。
荒野の彼方まで続く
索敵の合間を縫って、
援軍の要請に
彼は、間を置かず応じた。
「吾郎、
残党の主だった者たちの座標が割れた」
「では、……」
「俺が直接向かう。……
そなたは、
監査局の立ち上げに専念してくれ」
レグナは、
荒野に潜んでいた残党の拠点を、
瞬く間に制圧し、
横流しされていた資源を、
すべて銀河団の共有備蓄へと
戻して見せた。
「力で片を付けるのは、俺の役目だ。……
仕組みを立て直すのは、
そなたの役目だろう」
レグナの言葉には、
これまで積み重ねてきた覇道と、
吾郎が育ててきた統治、
その両輪への確かな信頼が滲んでいた。
聖宮では、アーロンが、
この一件を聞き、静かに頷いていた。
「銀河団という規模になれば、
こうした綻びも、
避けられぬものなのだろうな」
セレスティアが、静かに続けた。
「学芸院の分院にも、
不正を見抜く目を養う科を、
新たに加えましょうか?」
「そうだな。……
美しいものを愛でる目だけでなく、
歪みを見抜く目も、
この庭園には必要だ」
編纂科の長が、静かに問うた。
「聖王様。……この横流しの一件、
記録にはどう残しましょうか?」
「ありのままに残せ。……
信頼だけでは
足りなかったという事実も、
次の監督官たちにとっては、
貴重な教訓になるだろうから」
アーロンは、
窓の外、遠い銀河団の方角へと、
静かに目を細めた。
この庭園が広がるほど、
光の届かぬ影もまた、増えていく。
だからこそ、
監督官たちが積み重ねる
一つ一つの仕組みが、
これからますます
重みを増していくのだと、
彼は改めて胸に刻んでいた。
本日 19:30 に投稿します。




