第3話【 見捨てられた光 】
第6部
聖宮、演習場の片隅で、
ジュエダンが戦鎚の手入れをしていた。
そこへ、アーロンが静かに歩み寄る。
「ジュエダン。……
そなたにも、新たな役目を託したい」
「聖王様。……私に、ですか?」
「ああ。銀河団『CL J1001+0220』。……
まだ生まれて間もない、
若く荒々しい銀河の集合体だ」
ジュエダンは、
差し出された星図を、しばし見つめた。
「若い、というのは?」
「星々の形成が、
まだ激しく続いている段階にある。……
秩序だった文明もあれば、
混沌の中で、まだ自分たちの形を
見出せずにいる集団も多い」
「そのような場所を、私に。……」
「そなたなら、分かるはずだ。……
かつて『失敗作』と呼ばれ、
見捨てられかけた者の気持ちが」
ジュエダンは、
深く息を吸い、静かに頷いた。
「……承知しました」
数週間後、ジュエダンは、
この銀河団の中でも、特に荒れた一角――
かつて聖国の初期調査団によって
「統治不能」と烙印を押され、
放置されていた銀河群を、自ら訪れていた。
「監督官殿が、
まさかこんな場所にまで
足をお運びになるとは。……」
出迎えた現地の指導者は、
驚きを隠せない様子だった。
「なぜ驚く?」
「……ここは、聖国の記録上、
幾度となく『見込みなし』と
評された場所です。
誰も、まともに向き合おうとは
しませんでした」
ジュエダンは、
静かにその言葉を受け止めた。
「見込みなし、か。……
その言葉、私も、
かつて散々浴びせられたものだ」
指導者は、はっとした表情を見せた。
「監督官殿が、ですか?」
「ああ。
旧王国では、私は『失敗作』と呼ばれ、
追放された身だった。……
だが、聖王様は、私を見限らなかった」
ジュエダンは、周囲に広がる、
荒れた星々の光景を、静かに見渡した。
「この銀河群も、同じだ。……
誰かが見限れば、そこで終わる。
だが、まだ終わっていないなら、
道はある」
指導者は、
しばし言葉を失い、深く頭を垂れた。
「……我らの地に、
そのように向き合ってくださる方は、
初めてです」
「私一人では、何もできん。……
そなたたちが、自分たちの手で、
何を築きたいのか。
それを、まず聞かせてほしい」
現地の技術者たちを交えた会議では、
荒れた星々を安定させるための、
壮大な開発計画が語られ始めていた。
エネルギー工学の専門家、
資源探査の技師団、
そして若い開拓者たち――かつて
見捨てられたと感じていた者たちが、
初めて、
自分たちの未来を語る場を得ていた。
「星系の軌道が、
いまだ安定していません。……
このままでは、居住区を築いても、
いずれ
重力の乱れに呑まれてしまいます」
資源探査の技師団長が、
険しい表情で報告する。
ジュエダンは、静かに問うた。
「安定させる方法は?」
「理論上は、
周辺の小天体を計画的に配置し直せば、
軌道を安定させられます。……ですが、
これほどの規模の作業、
これまで
誰も手を付けようとはしませんでした」
「なぜだ?」
「『見込みなし』と判断された場所に、
そこまでの資源を割く価値はないと、
誰もが考えていたからです」
ジュエダンは、静かに拳を握った。
「価値があるかどうかは、
やってみなければ分からん。……
その作業、
聖国の総力を挙げて後押しする」
若い開拓者の一人が、恐る恐る問う。
「監督官殿は、
本当に、我らのために、
そこまでしてくださるのですか?」
「これまで、誰も
我らの声を聞こうとはしませんでした。
……ですが、監督官殿になら、
託せるかもしれません」
技師団の代表が、
震える声でそう告げると、
ジュエダンは静かに頷いた。
「託されたものは、決して落とさない。
……それだけは、約束する」
一方、レグナは、
聖国の版図拡大に向けた討伐を
続けながら、この荒れた銀河群の話を、
ジュエダンから聞いていた。
「見捨てられた場所、か。……
俺も、かつて似たような荒野を、
幾つも見てきた」
「レグナ様の目から見て、この銀河群、
見込みはあると思われますか?」
「見込みの有無を決めるのは、
俺たちではない。……そなたたちが、
どこまで本気で向き合うかだ。
それさえあれば、
俺の【全属性変換】も、
いくらでも力を貸そう」
レグナは、実際にその一角へと足を運び、
荒廃した星系の一つに残っていた、
深刻な環境汚染を、静かに浄化して見せた。
「これで、
最低限の暮らしは立て直せるはずだ。……
その先は、そなたたちの手で」
聖宮では、アーロンが、この報告を受け、
静かに目を細めていた。
「見捨てられた者に、
見捨てない者が向き合う。……
ジュエダンらしいやり方だ」
セレスティアが、静かに微笑んだ。
「聖国ルネサンスにも、
この銀河群の物語を、
丁寧に記させましょう。……
誰かがこの先、
同じように見捨てられかけた時、
この記録が、支えになるように」
聖宮の劇場では、
演奏会の総合監修を任された、
編纂科の若手職員が、
額の汗を拭いながら呟いた。
「正直、
これほど多くの様式が集まるとは、
想定しておりませんでした」
傍らには、
聖国各地から届いた楽譜や楽器の資料が、
山のように積み上げられている。
運営を支える裏方の一団も、
慣れない多言語の進行台本と格闘していた。
シルヴィアの銀河団から招かれた
弦楽奏者が、見慣れぬ形の楽器を手に、
困惑した様子で辺りを見渡していた。
「隣で演奏される方の楽器、
音律そのものが、
我らのものとは違うようですが、……」
「ええ」
吾郎の銀河団から招かれた打楽器奏者が、
静かに頷く。
明朝 7:30 に投稿します。




