第1話【 銀河団という重責 】
第6部
聖宮の評議記録室、
アーロンは吾郎を前に、
一枚の巨大な星図を広げていた。
「吾郎。……そなたに、
新たな役目を託したい。
農耕星群へは、確かな者を、
監督官として遣わした」
「御意。……」
「そなたには、
銀河団を治めてもらいたい」
「銀河一つを超える規模、
ということですか?」
「ああ。
銀河団『SPT-CL J0546-5345』。……
数千の銀河が、互いの重力に結ばれた、
一つの巨大な集合体だ」
吾郎は、
星図に描かれた無数の光点の群れに、
しばし息を呑んだ。
「これまでの、
一つの銀河を任されるのとは、
規模がまるで違います」
「その通りだ。……
だからこそ、そなたに、
統治そのものの形から、
考えてもらいたい」
「形、と仰いますと?」
「この銀河団すべてを、
一つの体制で直接統治するのか。……
それとも、幾つかの銀河は
監督官として緩やかに見守るに留め、
別の幾つかは、
より踏み込んだ統治を敷くのか。
その判断そのものを、そなたに委ねる」
吾郎は、しばし考え、静かに頷いた。
「承知しました。……
まずは、この銀河団の全体像を、
この目で確かめてまいります」
数週間後、吾郎は、
銀河団の主要な銀河の代表たちを集め、
初めての合同評議会を開いていた。
会議場には、
これまでにない規模の代表団が
居並んでいる。
「この銀河団には、
すでに高度な自治を築いている
銀河もあれば、
いまだ内乱の絶えない銀河もあると
聞きます。……
それぞれに、同じ形の統治を敷くのは、
無理があるでしょう」
吾郎の言葉に、
比較的安定した銀河の代表が頷く。
「我らは、
すでに自らの手で治める仕組みを
持っています。
監督官程度の関わりで、十分でしょう」
一方、内乱の続く銀河の代表は、
苦渋の表情を浮かべた。
「我らの銀河は、正直、
自治を語れる段階にありません。……
もう少し、
直接的な力添えをいただきたい」
吾郎は、静かに頷いた。
「では、この銀河団を、
一律の体制で縛ることはしません。……
安定した銀河には監督官を、
混乱の続く銀河には、
より踏み込んだ暫定統治を。
それぞれの状況に応じて、
体制そのものを使い分けます」
内乱の続く銀河の代表が、
なおも不安げに問う。
「暫定統治、とは、具体的には
どのようなものでしょうか?」
「まずは、争いを鎮めるための
最低限の秩序維持を、
聖国の名の下で担います。……
ですが、それは、
いずれ自治へと引き継ぐための、
あくまで一時的な措置です。
永続させるつもりはありません」
「いつまで、その暫定が続くのですか?」
「決まった期限は、
今は申し上げられません。……
ですが、目安として、
評議会の場で定期的に進捗を報告し、
皆様と共に、
次の段階へ進む時期を
見極めていきたいと思います」
代表は、その誠実な答えに、
幾分か表情を和らげた。
法務官が、慎重に問う。
「監督官殿。……
体制を使い分けるとなれば、
管理の複雑さも増します。
人員は足りるのでしょうか?」
「聖国本星に、増員を要請します。……
この規模の銀河団を、
俺一人で見て回れるはずもありません。
信頼できる副官を、
幾人か育てる必要もあるでしょう」
会議は、
この日だけでは結論に至らなかった。
だが、吾郎は、焦らず、
銀河ごとの実情を、
一つ一つ丁寧に見極めていく方針を、
静かに固めていた。
一方、レグナは、
聖国の版図拡大に向けた新たな討伐に、
日々を費やしていた。
「未征服の宙域、その先には、
まだ多くの理不尽が眠っている。……
この庭園を広げることと、
育てることは、決して矛盾しない」
レグナは、荒廃した辺境の星系を巡り、
圧政や略奪に苦しむ民を、
次々と救い出していった。
だが、その合間には、
吾郎からの要請を受け、
銀河団の混乱した一角へと、
援軍として駆けつけることもあった。
「吾郎、状況は?」
「内乱の首謀者が、
なおも抵抗を続けています。……
レグナ様のお力添え、感謝します」
「案ずるな。……
そなたの統治の土台を、俺が力で均す。
その先を育てるのは、そなたの仕事だ」
聖宮では、この頃、アーロンが、
学芸院に新たな試みを持ち込んでいた。
「銀河団という、
これまでにない規模の統治が始まる。
……ならば、聖国ルネサンスもまた、
その規模に見合う形を
模索せねばなるまい」
編纂科の長が、興味深げに問う。
「具体的には、どのような?……」
「各銀河団に、
それぞれの学芸院の分院を設けよう。
……聖都の型を
そのまま押し付けるのではなく、
その土地ごとの
色を活かした学びの場として」
その構想は、静かに、しかし着実に、
次なる時代の礎として、
聖宮の中で形を成し始めていた。
セレスティアもまた、
その計画書に静かに目を通しながら、
微笑みを浮かべていた。
「銀河団という規模になっても、
この庭園の根っこにあるものは、
変わらないのですね」
「ああ」
アーロンは、静かに頷いた。
「規模がどれほど大きくなろうとも、
一つ一つの土地に根差した学びを
大切にする、
その姿勢だけは、
決して揺るがせにしたくない」
明朝 7:30 に投稿します。




