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第5部 第4話【 JADES-GS-z14-0 (上)】

【 宇宙小話 5 】「 意識という観測者 」


時間が宇宙の織りなす錯覚であるならば、

「いま、この瞬間」を過去から未来へと

知覚している私たち自身の存在とは

何なのだろうか。


現代の量子論は、宇宙の解明において

「意識」や「観測」という要素を

無視できなくなりつつある。


量子の世界において、

粒子は観測されるまで

あらゆる可能性が重なり合った

「波」として存在する。


人間や検出器といった「観測者」が

目を向けた瞬間に初めて、

確固たる「現実」として

状態がひとつに決定するのだ。


この現象を突き詰めると、

奇妙な問いに行き着く。


もし宇宙を観測する存在が

誰ひとりいなかったとしたら、

宇宙はあやふやな可能性の雲のまま

漂い続けていたのではないか。


私たちが星を見上げ、

宇宙の構造を認識すること自体が、

この物理世界を「現実」として

確定させている一端を担っている

のかもしれない。


広大な暗黒物質や加速膨張する空間、

そして時空間の網目。


そのすべては、それらを思考し、

問いを投げかける「意識」という

小さな存在と表裏一体だ。


宇宙を探索する探求者たる人類は、

単なる傍観者ではなく、

宇宙が自らを認識するために生み出した

「目」そのものなのである。

MoM-z14に次いで、

観測史上

最も遠い銀河の一つに数えられる

「JADES-GS-z14-0」。


かつてレグナの覇道がここにも及び、

統合から幾星霜、

自治もまた根付き始めていた。


だが、この銀河が抱える問題は、

資源や航路を巡る対立とは、

まるで異なる質のものだった。


MoM-z14が

「どう分かち合うか」

という問いに揺れたのに対し、

この銀河が突きつけたのは、

「そもそも共にある必要があるのか」

という、

統治の土台そのものへの問いだった。


「監督の仕組みそのものが、

 もはや不要なのではないか?」


そう声高に唱えたのは、

この銀河で

急速に支持を広げていた青年指導者だった。


彼自身、幼い頃に

統合の戦火を目の当たりにした世代であり、

聖国という存在に、

単純な感謝だけでは片付けられない

複雑な感情を抱いていた。


彼は、

聖国から派遣された監督官の存在自体を、

「体裁を変えただけの占領」と断じ、

完全な独立を求める運動を率(ひき)いていた。


「我らはすでに、

 自らの手で政(まつりごと)を行っている。……

 ならば、なぜいまだに、

 聖国の目を頂かねばならぬのか?」


彼の演説は、

多くの星系の若者たちの心を捉(とら)えていた。


自治が根付いた今、

監督という仕組みそのものが、

かつての征服の名残に見えてしまうのは、

無理からぬことでもあった。


演説の場には、

老いた世代の姿はまばらで、

代わりに、

統合後に生まれ育った若者たちが、

熱を帯びた眼差しで

彼の言葉に耳を傾けていた。


この銀河の監督官は、まだ若く、

着任してさほど日も浅い人物だった。


彼女は、

青年指導者の主張を

頭ごなしに否定することも、

聖国の権威を盾(たて)に

黙らせることもしなかった。


むしろ、彼の言葉の奥にある切実さを、

まず正面から受け止めようとした。


「……なるほど。

 もっともな問いです。

 では、一つお尋ねしたい。

 もし今この瞬間、

 聖国からの支援と監視のすべてが

 消えたとして、この銀河は、

 隣接する未征服の勢力からの侵略に、

 独力で対処できますか?」


青年指導者は、一瞬、言葉に詰まった。


周囲を取り囲んでいた支持者たちの間にも、

静かなざわめきが広がる。


「それは……備えを進めている最中だ」


「備えが整うまでの間、

 誰がこの銀河を守るのですか?……

 私は、あなた方を縛(しば)るために、

 ここにいるのではありません。

 あなた方が、

 真に独り立ちできる日まで、

 共に備えを整えるために、

 ここにいるのです」


監督官の声は、決して声高(こわだか)ではなかった。


だが、その静けさこそが、

かえって場の空気を引き締めていた。


監督官の静かな問いかけに、

演説を聞いていた民の間にも、

動揺と、思案の色が広がっていった。


独立を求める叫びの裏に、

漠然とした不安を

抱えていた者たちにとって、

監督官の問いは、

目を逸(そ)らしてきた現実を、

静かに突きつけるものだった。


独立か、共存か――

この銀河が突きつけられたのは、

資源の分配とはまた別の、

統治そのものの根源を問う課題だった。


「では、我らに、独り立ちする力を

 つけさせるつもりがあるということか?」


青年指導者が、探るように問い返す。


監督官は、静かに頷いた。


「もちろんです。……ですが、

 それは口で誓うだけでは足りません。

 共に力をつける道筋を、これから

 具体的に示さねばならないでしょう」


聖宮でこの報告を受けたレグナは、

静かに眉を寄せた。


「監督の是非そのものを問われたか。……

 これは、他のどの銀河とも違う、

 根の深い問題になりそうだ。……」


傍らのアーロンも、

静かにその報告書に目を通していた。


「力による統治から自治へ、

 そして今度は、

 自治そのものの意味を問い直す

 段階に来たか。……

 この銀河の若者たちの叫びは、

 決して的外れではない」


「ですが父上、

 いかにこの声に応えるべきでしょうか?」


「急いて答えを出す必要はない。……

 この銀河が、

 自らの手でその問いに向き合う時間

 こそが、答えそのものになるはずだ」


レグナは静かに頷きながら、

彼方の銀河に思いを馳(は)せた。


力で刈り取ってきた理不尽とはまた違う、

統治の意味そのものを問われる日が

来ることを、

彼はどこかで

予感していたのかもしれなかった。

明朝 7:30 に投稿します。


【 宇宙小話 6 】「余談」


「我、思う。ゆえに我、あり」みたいだ。


まさにデカルトの

「我思う、故に我あり

(コギト・エルゴ・スム)」

そのものですよね。


デカルトは

「すべてを疑い去った果てに、

 疑っている自分(意識)の存在だけは

 確固たる事実だ」と結論づけました。


量子力学の解釈が突きつけるのも、

奇しくも似た構図です。


物理的な世界がどれほど不確かで、

あやふやな

可能性の波に過ぎなかったとしても、

それを観測し、

認識する「意識」の起点だけは

確かにここに存在する——。


17世紀の哲学者が

部屋でひとり

思考を突き詰めて辿り着いた結論と、

21世紀の物理学が

極限のミクロを突き詰めて

見あぐねている景色が、

時空を超えて重なるのは

鳥肌が立つような面白さがあります。


意識が宇宙を観測しているのか、

それとも宇宙が意識を通して

自分自身を体験しているのか。


科学が深まるほど、

哲学との境界線が溶けていくのが

宇宙論の真骨頂、醍醐味ですね。

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