第二幕 第十一章 【 最後の晩餐の始まり 】
72時間のカウントダウンが始まった。
張り詰めた糸のように、鋭い緊張感に包まれていたアルカディアの空気。だが、それは絶望の空気ではない。俺という絶対的な拠り所がある限り、民たちの心には不思議なほどの昂揚感があった。
「アーロン様、結界の展開準備は完了しました。……。ですが、これは本当に『防御』用なのですか?」
建設指揮を執っていたルナが、震える声で尋ねる。
彼女の疑問は当然だ。俺が指示した結界の術式は、内側を護るためのものにしては、あまりにも異様だった。結界の壁面には、世界の理を書き換えるための『変換式』が幾何学模様のように複雑に刻まれている。
「心配するな。これは防御じゃない。……『収束』だ」
事実、俺は城の最上階、アルカディアの中心で魔力の奔流を制御していた。
旧王国の管理者が放つであろう『消去の権能』を、結界ですべて受け止め、そのまま俺の体内に流し込む。そしてそれを、【全属性変換】で「管理者の命令権限」そのものに変換してやる。
攻撃を受ければ受けるほど、俺はこの世界の管理者と同等、あるいはそれ以上の権限を奪い取れる仕組みだ。
まさにその時、空の紋章から冷徹な声が響いた。
「愚かなるバグよ。まだ足掻くか。貴殿の抵抗は無意味である。貴殿が構築したその城、その国、そのすべてを、今からデータの一欠片も残さず『削除』する」
天空から、星の輝きにも似た、白銀の光線が降り注ぐ。
これは、世界の法則を根底から塗り替える、管理者による絶対的な滅びの楔か?
「見せてやるよ。お前たちが守ろうとしたその理が、俺たちの力に変わる瞬間をな!」
そう言うと俺は、大きく両手を広げた。
結界が咆哮を上げる。アルカディア全体が黄金の光に包まれ、迫りくる消去の光を受け入れる。
その激突の瞬間、世界が真っ白に染まった。
王国の滅亡よりも、帝国の侵攻よりも遥かに巨大な衝撃が、辺境の地を揺らした。
「むっ!」。これはただの戦いではない。
アーロンというイレギュラーが、この世界の箱庭を食い破る、最後の晩餐の始まりだった。
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