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第4部 第19話【 暗礁への針路 】

旧グラウの合議も、遠い農耕星群も、

信仰の星域も、それぞれの形で

穏やかさを取り戻しつつあった。


だが、レグナの胸中には、

依然として一つの棘(とげ)が残されていた。


聖国全土に張り巡らされた闇の種、

その根が集う「暗礁宙域」――

そこに向き合わぬ限り、

この庭園に

真の安寧(あんねい)は訪れないという確信だった。


地脈に残る乱れの報告は、

日に日に減っているように見えても、

根そのものが健在である限り、

いつまた新たな芽が吹くとも知れなかった。


「シルヴィア、吾郎。……

 それぞれの持ち場、

 しばらく離れられそうか?」


通信越しに問いかけると、

二人はほぼ同時に頷いた。


画面越しにも、それぞれの宙域で

積み重ねてきた日々の充実が、

はっきりと見て取れた。


「レグナ様が動かれるのなら、

 俺も行きます」


「私も。……あの気配の根源を、

 この目で見届けたいのです」


二人の申し出には、

これまでの信頼の分だけ、

確かな熱がこもっていた。


だが、レグナは静かに首を振った。


「いや。……そなたたちには、

 それぞれの場所を頼みたい。

 積み上げてきたものを、

 途中で手放すわけにはいかんだろう」


レグナの声には確かな信頼が滲んでいた。


二人が

それぞれの持ち場で積み重ねてきた歩みを、

無闇に中断させるつもりはなかった。


それに、この根への対処は、あくまで

自分自身が始めた

覇道の落とし前でもある――そう、

レグナは静かに己(あおのれ)に言い聞かせていた。


「ジュエダンと共に、俺たちが向かう。

 ……そなたたちは、

 そなたたちの庭園を守り続けてくれ」


その言葉に、シルヴィアと吾郎は、

それぞれの画面越しに深く頭を垂れた。


離れていても、

心はレグナと共にあるのだと、

二人の眼差しが物語っていた。


ITSの艦橋(ブリッジ)で、

ジュエダンが静かに戦鎚(せんづち)を担(かつ)ぎ上げた。


「久々の出番ですね。……とはいえ、

 力任せに済む相手ではなさそうですが」


「ああ。……あの者が蒔(ま)いた種は、

 悪意なき悲しみにさえ根を張っていた。

 恐らく、本体そのものも、

 単純な悪意だけでは測れまい」


ジュエダンは静かに頷いた。


かつて自らも

呪いの魔力に蝕(むしば)まれていた身として、

彼女には、闇そのものを

単純な敵として斬り捨てることの

危うさが、誰よりもよく分かっていた。


「力ずくで祓(はら)うだけでは、

 また別の場所に

 根が残るかもしれません。

 ……見極めが要りますね」


「そなたがいてくれて助かる。

 ……この役目、二人で果たそう」


レグナは静かに、

聖都のアーロンへと最後の報告を送った。


「父上。……暗礁宙域へ向かいます」


通信の向こうで、

アーロンがしばし沈黙する。


玉座の傍(かたわ)らには、

静かに佇(たたず)むセレスティアの気配もあった。


「うむ。……根を絶つ時も、忘れるな。

 そなたが刈り取るのは敵ではなく、

 この庭園を蝕む病だ。

 憎しみで応えれば、また新たな

 種を蒔(ま)くことになりかねん」


「心得ております」


短いやり取りの中に、

これまで積み重ねてきた父子の信頼が、

確かに滲んでいた。


ITSは静かに舳先(へさき)を、

いかなる航路図にも記(しる)されぬ

暗礁宙域へと向けた。

汽笛が一つ、いつになく低く、

重々しく響き渡る。


次元の狭間を裂く光の帯が、

いつもより仄暗(ほのぐら)い色を帯びているように、

ジュエダンには見えた。


同じ頃、聖宮の学芸院では、

これから起こるかもしれない戦いの

行方を知らぬまま、

遠い宙域から届いた報告を基にした

詩や劇が、静かに紡がれ続けていた。


聖国ルネサンスの穏(おだ)やかな歩みと、

レグナが向かう戦いの気配――

その二つの時間が、

静かに交錯しようとしていた。


セレスティアは、玉座の間の窓から、

遠い星々の彼方に思いを馳(は)せていた。


「レグナも、いつまでも私たちの

 庇護の下にいるわけではないのですね」


「ああ。……だが、あれが

 向き合おうとしているのは、

 俺がかつて刈り取ってきた理不尽とは、

 また違う類(たぐい)のものだ。

 ……力だけでは、恐らく片が付くまい」


アーロンは静かにそう呟くと、

遠く暗礁宙域の方角へと、目を細めた。


彼にできるのは、ここで

息子の帰りを信じて待つことだけだった。


それもまた、聖王としての、

一つの役目なのだと、

アーロンは静かに己に言い聞かせていた。

明朝 7:30に投稿します。


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