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第4部 第10話(下)【 見えざる巣 】

レグナが渓谷での祓(はら)いに専念する一方、

シルヴィアと吾郎もまた、

報告のあった別の乱れの地点――

涸(か)れ谷ザランに程近い、

旧グラウ諸邦の廃墟に足を運んでいた。


「ここも、同じ波形ですね……。

 でも、渓谷ほど強い気配ではありません」


シルヴィアが弓を構えながら、

慎重に廃墟の奥へと進む。


吾郎もまた、風を纏(まと)わせた剣を手に、

周囲を警戒しながら後に続いた。


「まるで、根っこが

 枝分かれしているみたいだな……。

 一つの大きな乱れじゃなくて、

 あちこちに

 小さな種が蒔かれてる感じがする」


吾郎の言葉に、

シルヴィアは静かに頷いた。


廃墟の中心――かつて

神殿であったと思(おぼ)しき場所に辿(たど)り着くと、

そこには、崩れかけた祭壇の跡があった。


祭壇の中央には、あの時、

闇の裂け目へと

消えていった者の気配と酷似した、

黒く濁った紋様が刻まれている。


「……これは」


吾郎が息を呑む。


紋様に触れずとも、

そこから滲(にじ)み出る瘴気(しょうき)が、

二人の肌を粟立(あわだ)たせた。


「レグナ様が祓(はら)った渓谷の乱れと、

 この紋様……。

 繋(つな)がっているのかもしれません」


シルヴィアが静かに分析を告げると、

吾郎は険しい表情で祭壇を見下ろした。


「つまり、

あいつは逃げただけじゃなくて、

聖国のあちこちに、

こっそり種を仕込んでいったってことか」


「ええ。……恐らく、

いつか芽吹かせるための、布石として」


二人はすぐさま、この発見を

レグナとアーロンの両方に報告した。


通信越しに、

レグナの声が静かに、しかし重く響く。


「……なるほどな。

 俺が渓谷で感じた『傷』は、

 あいつが仕組んだ種と、

 この地に元々あった争いの記憶が、

 絡み合って生まれたものだったのか」


「レグナ様、どうしますか?

すべての種を、今すぐ洗い出しますか?」


吾郎の問いに、

レグナはしばし沈黙した後、静かに答えた。


「いや……。

 焦って一つ一つ潰して回るだけでは、

 また同じことの繰り返しだ。

 まずは、種がどこに、

 どれだけ蒔かれているのか、

 全体の姿を掴む必要がある」


「聖国全土の地脈を、丁寧に洗ってみます」


シルヴィアがそう告げると、

祭壇の紋様が、まるで応えるかのように、

ほんの一瞬、赤黒い光を放って消えた。


見えざる巣は、

まだその全貌を明かしていない。


だが、聖国の版図の奥深くに、

静かに根を張り巡らせていることだけは、

もはや疑いようがなかった。


シルヴィアがそう告げると、

祭壇の紋様が、まるで応えるかのように、

ほんの一瞬、赤黒い光を放って消えた。


見えざる巣は、

まだその全貌を明かしていない。


だが、聖国の版図(はんと)の奥深くに、

静かに根を張り巡らせていることだけは、

もはや疑いようがなかった。


一方その頃、聖宮の学芸院では、

詩作科の初めての発表会が開かれていた。


グラウ諸邦から訪れた旅の楽師たちの

旋律に合わせ、聖国の若い詩人たちが、

それぞれの言葉を朗じていく。


「なかなか、堂に入ってきたではないか」


アーロンが

客席の最後方から見守りながら、

静かに目を細めた。


セレスティアが傍らで頷く。


「辺境の版図が広がるほど、

 この学び舎に集う声も、

 豊かになっていきますわね」


壇上では、かつて色を失っていた少女が、

初めて自作の詩を朗読していた。


まだたどたどしい言葉づかいだったが、

そこには確かな一つの光景――

涸(か)れた地に水が戻った日の記憶が、

静かに織り込まれていた。


聖国ルネサンスは、

遠い辺境の出来事さえも、

こうして芸術という形に変えながら、

着実にその歩みを進めていた。

本日 19:30 に投稿します。


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