第二幕 第九章 【 深淵からの通告 】
鈍色の立方体が消滅してから三日。アルカディアは、降臨した光の粒子によって、かつて荒野だったことが信じられないほどの霊場と化していた。
しかし、その平穏を打ち破るように、空そのものが真っ黒に染まり始める。
黒雲が沸き立ち、地が割れ、そこから現れたのは巨大な眼球のような紋章だった。
先ほどまでの「雑兵」とは比較にならないほどの、絶対的な「管理者」の威圧感を放っていた。
「個体名アーロン。貴殿が破壊したのは、世界の安全を維持する末端端末に過ぎない」
地響きのような声は、まるで天罰のような重みを持って民たちの鼓膜を揺らす。領民たちが恐怖に膝をつく中、俺は玉座からゆっくりと立ち上がった。
「よいか。傲慢なるバグよ。これ以上の干渉は許さん。貴殿の存在そのものを、世界から論理的に消去する。三日後、この領地は地図から抹消されるであろう」
それは宣告のつもりだったのか。
俺が戦ってきた王国や帝国、あるいは雑兵とは次元の違う、この世界のルールそのものを操る『管理者』からの直接的な挑戦状。
「ふん! 地図から抹消だと? 面白い」
俺は空の紋章を睨みつけ、笑みを深める。
恐怖はない。むしろ、俺の【全属性変換】が、かつてないほど高らかに脈動している。管理者との接触により、俺のスキルは「システムを書き換える」だけでなく「システムと対等に渡り合うための権限」へと進化しようとしていたのだ。
「なるほど、三日後か。丁度いいじゃないか。その間に、お前の管理する『世界の理』ごと、俺の国の力として吸収してやる」
俺は城のバルコニーから、固唾を飲んで俺を見守る民たちへ向けて宣言する。
「皆の衆、聞くのです。三日後、世界そのものが俺たちを消しに来る。だが、俺がいる限り、このアルカディアは滅びない。むしろ、その攻撃こそが、俺たちの国を真に完成させるための最後の鍵となる!」
民衆の顔から恐怖が消え、熱狂へと変わる。
エレーナもまた、かつてのプライドを完全に捨て、俺の横で深々と頭を下げていた。
「アーロン様。……。いえ、我が王よ。最後まで、ついていきます」
残り、72時間。
俺は地下深くの金剛石層に手を触れ、全魔力を変換して、国全体を覆う「神級結界」の構築を開始する。
この戦闘の先に待っているのは、ただの勝利か。それとも――世界そのものの変革か。




