第二幕 第八章 【 神級(ランク)のバグ、あるいは神殺し 】
鈍色の立方体――システム・ガーディアンが、無数の光の矢を放つ。
それは魔力による攻撃ではない。世界そのものの「規律」を書き換える消去プログラムだ。触れたものすべてがデータとして分解され、無へと帰っていく。
「アーロン様、逃げて……!」
カルトゥーナ水路から駆けつけたエレーナが、変わり果てた空の光景に絶叫する。彼女にとって、それは神の怒りに等しい現象に見えたのだろう。
しかし、俺には違って見えた。その光の矢の正体は、高密度の「魔力変換のコード」に過ぎない。
「……。計算は終わった。このコードの構造、完璧に把握したぞ」
俺は一歩も引かず、むしろガーディアンの直下へと歩みを進める。
旧王国の戒律が放つ消去プログラムを、俺は右手のひらで受け止めた。
「【全属性変換】――『消去』を『創造』へ反転!」
掌に触れた光の矢が、バリバリと火花を散らしてその性質を反転させる。
消去プログラムの「存在をなくす」という命令が、逆向きの「存在を拡張する」という命令へと書き換わった。
空を覆っていた鈍色の立方体は、俺の反撃によって爆発するのではない――その形を維持できなくなり、美しい緑の粒子となって、俺の国アルカディアへと降り注いだ。
それは超強力な魔力となり、領土の平原をさらに肥沃な土地へと変貌させる。
「……。エラー、発生。……。演算能力の、超過……。被検体、アーロン。貴殿は、世界の……。」
旧王国の戒律は最期に謎めいた言葉を残し、沈黙した。
静寂が戻った領地で、呆然とする民たちの中、俺は確信を得る。
旧王国の戒律は、俺を「バグ」と呼んだ。だが、バグとはつまり、システムが想定しなかった「可能性」だ。
俺がこの力でシステムを食い破れば、この世界は誰かのプログラムによる箱庭であることをやめ、本当の意味で自由な土地になる。
「王国も、隣国も、システムさえも……俺の国の踏み台に過ぎない」
俺は空を見上げ、不敵に笑う。
今夜のアルカディアは、かつてないほど豊かに輝いている。
だが、世界管理局の奥底では、より上位の「管理官」たちが、俺という不規則な存在を完全に排除するための動きを開始していた。




