第4部 第3話【 差し伸べられた手と、開かれる荒地 】
聖宮の広場には、
今日もまた長い巡礼の列が伸びていた。
ルナの配下が
丁寧に人々を安息所へと導き、
エレーナの配下は救護施設で
怪我人や病人の手当てにあたっている。
列の先頭に近づいてきたのは、
痩せ細った身体を粗末な布で包んだ、
まだ若い男だった。
彼の瞳には、
生きる気力そのものが
抜け落ちたような虚ろな光しかない。
「聖国に辿り着くまでの道のりで、
飢えと寒さに、
何もかもを諦めてしまいまして……。
今も、
自分が生きている実感がありません」
セレスティアがそっと歩み寄り、
彼の冷えた手を両手で包み込んだ。
「魂を亡くしたと、
そなたは思っているのね。
……でも、
ここまで歩き続けたその足が、
まだ確かに地を踏んでいる。
それは、生きようとする心が、
まだそなたの中に残っている証よ」
男は言葉を失ったように、
セレスティアの瞳を見つめ返す。
少し離れた場所では、アーロンもまた
一人の女性と向き合っていた。
「信じていた者に裏切られ、以来、
誰の言葉も信じられなくなりました……」
「それは当然のことだ。
無理に誰かを信じ直す必要はない。
……ただ、今この瞬間、
そなたの話に耳を傾けている私がいる。
それだけは、疑わずともよい」
アーロンの静かな言葉に、
女性の強張っていた肩から、
少しずつ力が抜けていく。
聖宮に集う魂は、今日もまた
一つ、二つと、その凍りついた心を
溶かしていった。
【 開かれる荒地、覇王の足跡 】
同じ頃、
帝国南西の辺境「灰塵平原」では、
覇王レグナが単身、
荒れ果てた大地に立っていた。
かつて
激しい戦乱の舞台となったこの地は、
いまだ癒えぬ傷跡のように、
灰色の不毛な土が
果てしなく広がっている。
「ここもまた、父上
――聖王の理想郷から取り残された
土地の一つか」
レグナは静かに掌をかざし、
【全属性変換】の理を紡いでいく。
『無』を『大地属性』へ。
ピキピキピキーという心地よい音と共に、
灰塵に覆われた大地が、
瞬く間に黄金色の輝きを帯びた
金剛石の原石を隆起させていった。
続けて、平原を吹き抜ける乾いた熱風を
『水』と『穏やかな熱』へと変換する。
灰色の大地に清流が走り、
見渡す限りの荒野が、みるみるうちに
緑豊かな平原へと姿を変えていく。
「征伐だけでは、
この地に住まう者たちの明日は開けぬ。
……父上が心を癒すように、
俺はこの手で、大地そのものを癒そう」
その様子を、ITSで駆けつけた
シルヴィアが静かに見守っていた。
「レグナ様……。この光景、
まるで聖宮の広場と同じですね。
人の心も、大地も、
あなた方父子の手で、
少しずつ息を吹き返していく」
「そうかもしれんな。
……父上は魂を、俺は大地を。
分かち合った道の先で、
俺たちはきっと同じ場所を目指している」
灰塵平原に差し込む陽光が、
生まれたばかりの清流を眩く照らし出す。
聖宮で交わされる癒しの言葉と、
辺境で開かれていく新たな大地――
遠く隔たった二つの場所は、
今日もまた確かに、
一つの理想郷へと繋がっていた。
明朝 7:30 に投稿します。




