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第3部 第10話【 広がる父の威名 】

「あなたの帰りを待っておられます」


レグナは頷き、

母と共に黄金の回廊を進んでいく。


刈り取った理不尽の数だけ、

父の庭園は、

また一つ美しさを増していくのだった。

商都ヴェルダンテの広場に、

静寂が満ちていた。


レグナの掌から放たれた黄金の光が、

ギルド長の隠し持つ

帳簿の紙質そのものを変質させ、

長年隠蔽いんぺいされてきた不正のすべてを、

黄金の文字として虚空に浮かび上がらせる。


衆人環視の中に

突如として現れたその啓示に、

ギルド長は青ざめ、

崩れ落ちるようにその場に膝をついた。


「この者たちが搾取していた金は、

 すべて民へ還元せよ。

 ヴェルダンテの商いは、これより

 父上の定めた公正の理のもとに置かれる」


レグナの静かな宣告に、

群衆から堰を切ったような歓声が上がる。


理不尽を叩き潰したレグナの名と共に、

覇王アーロンの威光を讃える声が、

都中に響き渡っていった。


辺境の鉱山、

そして商都ヴェルダンテ――

レグナが理不尽を叩き潰すたびに、

その地に住まう人々の口から口へと、

覇王アーロンの偉名は静かに、

しかし確実に広がっていく。


もはやそれは単なる噂ではなく、

確固たる信仰にも似た畏敬へと

変わりつつあった。


天上の座へと帰還したレグナを、

セレスティアが優雅な微笑みで出迎える。


「お帰り、レグナ。

 此度もまた、辺境の理不尽の芽を

 ことごとく摘み取ったようね。

 民の間では、

 すでにアーロン様への感謝の声が、

 神殿の祈りにまで及んでいるとか」


「まだ足りません、母上。

 この庭園の隅々にまで、

 父上の正しき理を行き渡らせるまでは」


レグナは玉座の間の窓辺に立ち、

無限に広がる帝国の版図を

静かに見つめた。


かつて父が

無能とさげすまれた記憶の欠片かけらすらも、

今は

この威光を支える確かないしずえとなっている。


「父上。今日もまた一つ、

 この庭園から理不尽の雑草を

   刈り取ってまいりました」


玉座に腰掛けるアーロンは満足げに頷き、

息子の成長を讃える眼差しを向けた。


父子の覇道は止まることなく、

無限の次元の彼方へと広がり続けていた。


その静かな満足の中、

アーロンはゆっくりと玉座から立ち上がり、

居並ぶ者たちを見渡した。


その声には、これまでにない、

ある種の決意がにじんでいる。


「私は、帝国の首都、ここで

『聖王』となる。

 レグナ、そなたに『覇王』の名を譲ろう。

 アスガルド、ITSともに、

 そなたが艦長となれ。

 アスガルドの副艦長には吾郎、

 ITSの副艦長にはシルヴィアを付けよ」


「は、父上……

 いえ、聖王。承りました。

 帝国の治安維持および帝国拡大は、

 この覇王レグナにお任せください」


レグナは深く一礼し、

その言葉に確かな重みを込めた。


アーロンは満足げにうなずくと、

傍らのセレスティアへと視線を移す。


「私は、寵姫セレスティア、

 忠臣ルナとエレーナらと、

 ここで万民に『博愛』を施す。

 困窮している者、愛に飢えている者、

 魂を亡くした者、あらゆる者に、

 ここに集うように触れ回れ。

       すべて、私が救おうぞ」


セレスティアが優雅に一礼し、

ルナとエレーナもまた深く頭を垂れた。


玉座の間に満ちる黄金の光の中、

聖王と覇王――二つの新たな道が、

ここに静かに定まっていく。


かくして、

追放された元無能の物語は、

征伐と開拓の覇道を継ぐ覇王レグナと、

理想郷の中心で博愛を施す聖王アーロン、

二つの物語へとその姿を変えていく。


第3部(完)


©[I・G・ε]All Right Leserved.

首都の空にはいつもと変わらぬ

穏やかな祝福の光が満ちていたが、

玉座の間の空気だけは、

確かに新しい時代の始まりを告げていた。


9月8日、7:30 に、第4部 第1話を投稿します。


第3部まで読んでくださりました方々に篤くお礼申し上げます。

ありがとうございました。


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