第3部 第6話【 忠誠を誓う狂戦士 】
ルナとエレーナもまた、
茶器を傾けながら
穏おだやかに微笑ほほえむ。
理想郷の穏やかな午後は、
今日もまた
辺境の彼方で静かに芽吹く新たな緑と、
確かに繋つながっていた。
【 旧き記憶 城塞門前の女騎士 】
「かつて、
私たちの前に広がる深緑の城塞の門前に、
奇妙な影がたどり着いたのを覚えているか?」
アーロンに問われて、レグナが
「それは、ボロボロの鎧を纏った女騎士の
ことですね?」
「そうだ、レグナ。
かつて私たちがいた旧王国において、
『失敗作』として理不尽に追放された、
あの、超重量武器を操る狂戦士のことだ」
「彼女は、
長旅と過酷な戦闘で疲れ果てていましたが、
その眼差しには
まだ消えない戦いを求める強烈な火が灯って
いたんでしたね?
「うむ。……」
「周囲の空間を歪めるほどの
禍しい呪いの魔力が、
彼女の体を内側から蝕んでいました」
「うむ……。
面白い人材が転がり込んできたと思った」
「父上が、『そなたのその、制御しきれない
魔力を私が変換してやる』と、おっしゃって」
アーロンが一歩歩み寄り、
彼女の震える肩にそっと手を置くと、
彼女の身体を覆っていた不吉で禍しい
呪いの魔力が、
眩い黄金のオーラへと
劇的に変換されていったのだった。
彼女が手にする超重量の巨大武器は、
一瞬で羽のように軽くなり、
その秘められた破壊力は
以前の十倍へと跳ね上がったのだった。
彼女の名は、ジュエダン。
「私の忠実な下僕となり
私に仕えたいという。どうだ?」
「御意のままに。……」
【 辺境討伐B 解き放たれた巨腕 】
今やジュエダンは
アーロン帝国の忠臣の一人として、
その名を轟かせていた。
帝国東方の峡谷地帯で、
地竜の群れが交易路を封鎖するという
事態が発生した際、
アーロンが選んだ援軍は、彼女だった。
「ジュエダン、行けるか」
「御意。……この身も武器も、
すべてアーロン様に賜ったもの。
存分に使わせていただきます」
峡谷に舞い降りたジュエダンは、
羽のように軽くなった
超重量の戦鎚を軽々と担ぎ上げる。
地竜の咆哮に一切怯むことなく、
彼女はただ一撃、
大地ごと薙ぎ払うように
その武器を振り抜いた。
黄金のオーラを纏った衝撃波が
峡谷を駆け抜け、
地竜の群れは為す術もなく地に伏す。
かつて『失敗作』と蔑まれた力は、
今や帝国の守護者としての輝きを放っていた。
「見事だ、ジュエダン。……
お前の力は、もはや誰にも否定させぬ」
透視の光球越しに戦況を見ていたレグナも、
遠く別の辺境でその報告を耳にし、
静かに笑みを浮かべた。
「父上の元には、
また一人、頼もしい仲間が増えたか」
【 首都のスローライフ 】
峡谷での戦果が届いた夜、
首都の生命の樹の下では、
ささやかな祝宴が開かれていた。
ジュエダンは
慣れない様子で杯を傾けながらも、
その表情には、
かつての追放者だった頃の面影は
もうどこにもない。
「ジュエダンさん、その武器、
本当に軽々振り回すんですね……!」
吾郎が目を輝かせながら尋ねると、
ジュエダンは照れくさそうに笑う。
「アーロン様が
私の呪いを変換してくださらねば、
今頃私は野垂れ死んでいたでしょう。……
この命も力も、すべて捧げる所存です」
シルヴィアが薔薇を手に、
静かにその言葉に頷く。
セレスティア、ルナ、エレーナも、
新しい仲間を
温かく迎え入れるように杯を重ねた。
玉座の間から、
その様子を見守るアーロンの傍らに、
いつの間にか歩み寄っていたレグナが囁く。
「父上。……この庭園は、
また少し豊かになりましたね」
「ああ。……刈り取るだけでなく、
拾い上げることもまた、俺たちの覇道だ」
理想郷の夜は、新たな忠誠と共に、
静かに更けていくのだった。
©[I・G・ε]All Right Leserved.
【 首都の静穏、悠久の庭園 】
アルカディア帝国の首都――
深緑の生命の樹が天を支え、
黄金の魔石が柔らかな光を投げかける
この神話の都で、私アーロンは今、
最も穏やかな時間を謳歌していた。
明日、7:30 に、投稿します。




