第3部 第5話【 父の記憶を宿す荒野にて 】
「父上。今日もまた一つ、
この庭園から
理不尽の雑草を刈り取ってまいりました」
玉座に腰掛けるアーロンは、
満足げに頷き、
息子の成長を讃える眼差しを向けた。
父子の覇道は、
これからも止まることなく、
無限の次元の彼方へと
広がり続けていく。
レグナが足を踏み入れたのは、
帝国西方に広がる、
かつて誰も顧みなかった不毛の荒野だった。
乾いた大地に立つと、
不思議とその脳裏に、
幼い頃に
父から聞かされた昔語りが蘇よみがえる。
【全属性変換】――
『無』を『大地属性(高純度魔石)』へ。
ピキピキピキ――。
耳に心地よいその音とともに、
乾ききってヒビ割れていた荒野の土くれが、
瞬く間に黄金色に輝き始めた。
地面から次々と、
最高品質の魔石の原石である金剛石が
隆起していく。
驚くべきことに、
その魔力は枯渇するどころか、
周囲の空気を吸い込んで
際限なく膨れ上がっていた。
「ふむふむ。……なるほど。
これが『変換』の真価か。
消費したはずの魔力さえ、
変換の過程で増幅している」
あの時、父はさらに手を広げ、
荒野を吹き抜ける冷たい木枯らしを
生命を育む『水』と『熱』に変換した。
乾いた地面に清流が生まれ、
冷気は
心地よい暖かな日差しへと姿を変える。
たった数分の作業で、
見渡す限りの荒野が
緑豊かな平原へと塗り替えられたのだ
――そう、父は、かつて
笑いながら語ってくれたものだった。
「……父上も、こうして一つ一つ、
無から理想郷を築き上げてきたのだな」
レグナは静かに掌をかざし、
父と同じ理ことわりを、この荒野に重ねていく。
【 開拓と征伐、二つの手 】
荒野の一角には、
この不毛の地に唯一
しがみつくように暮らす小さな集落があった。
痩せた土地と乏しい水源に苦しみながらも、
彼らはかつて
この地を追われた者たちの末裔として、
誇りを失わず生き延びてきたという。
だがその集落を、
山賊まがいの略奪者の一団が狙っていた。
彼らは荒野の民の乏しい蓄えを奪い、
逆らう者には容赦のない暴力を
振るっていたのである。
「理不尽を刈り取るのが俺の役目だが……
この地には、
それだけでは足りぬものがある」
レグナはまず、
掌に灯した黄金の光で
略奪者たちの武具の理を書き換え、
瞬時に無力化した。
悲鳴すら上げる間もなく、
彼らの脅威は塵ちりと消える。
続けてレグナは、
荒野そのものへと向き直った。
父の記憶に倣い、『無』を『大地属性』へ、
木枯らしを『水』と『熱』へと変換していく。
ピキピキピキ――
という心地よい音と共に、
集落を囲む荒野が、
見る間に金剛石の輝きと清流を湛えた緑野へと
姿を変えていった。
「……征伐だけでは、庭園は美しくならない。
父上は、
そのことを俺に教えてくれていたのだな」
集落の人々が涙ながらに膝をつく中、
レグナは静かにその地を後にした。
【 首都のスローライフ 】
その報せは、透視の光球を通じて、
早くも
首都のアーロンの元へと届いていた。
「ほう……。あやつ、
征伐だけでなく、開拓まで始めたか」
玉座に腰掛けたアーロンの口元に、
隠しきれない満足げな笑みが浮かぶ。
傍らのセレスティアが、優雅に一礼した。
「レグナも、いよいよアーロン様の
背を追い越さんとしておりますね」
「追い越すも何も……あれは俺の息子だ。
当然のことよ」
生命の樹の下では、シルヴィアと吾郎が、
遥はるか西方に生まれたばかりの
緑野の話に花を咲かせていた。
「新しい土地ができたんだって。
レグナ様が作ったって聞いたわ」
「すごいな……。俺たちもいつか、
そういう場所を見に行けたらいいな」
ルナとエレーナもまた、
茶器を傾けながら
穏おだやかに微笑ほほえむ。
理想郷の穏やかな午後は、
今日もまた
辺境の彼方で静かに芽吹く新たな緑と、
確かに繋つながっていた。
©[I・G・ε]All Right Leserved.
【 旧き記憶 城塞門前の女騎士 】
「かつて、
私たちの前に広がる深緑の城塞の門前に、
奇妙な影がたどり着いたのを覚えているか?」
アーロンに問われて、レグナが
「それは、ボロボロの鎧よろいを纏まとった……。
明日、7:30 に、第6話を投稿します。
よろしくお願いいたします。




