第3部 第4話 【 辺境に堕ちた鎖の音 】
父子の視線が交わり、
天上の座に
静かな満足の空気が満ちていく。
レグナの覇道は、
これからも止まることなく、
次なる理不尽を求めて
広がり続けるのだった。
レグナが単騎で降り立ったのは、
アルカディア帝国の版図の最果て、
まだ完全には秩序の行き届いていない
辺境の属領「ガリオン地方」であった。
父アーロンが統べる無限の庭園も、
その末端まで目を配るには、
レグナ自身の足で
理不尽を刈り取っていく必要がある。
丘陵の谷間に築かれた小さな鉱山町では、
領主を僭称する小役人が、
住民たちに帝国の名を騙って
過酷な採掘を強いていた。
鎖に繋がれた子供たちの咳と、
鞭の音が谷にこだまする。
レグナの黄金の瞳が、
その光景を映した瞬間、
静かな怒りが灯った。
「父上の御名を騙り、
民を鎖で縛るとは。……
身の程ほどを教えてやろう」
レグナが右手を掲げると、
掌に眩黄金の光が渦を巻く。
【全属性変換】――あらゆる理を
書き換える父譲りの権能が、
鎖の金属質を一瞬にして霧散させ、
鉱山を蝕んでいた瘴気混じりの岩盤を、
清浄な結晶へと作り変えていく。
小役人の悲鳴は、
光の奔流に呑まれて消えた。
「これより、
この地はアーロン帝国の直轄地とする。
誰であろうと、我が父の名の下に
理不尽を働くことは許さない」
住民たちが跪き、
涙ながらに感謝を捧げる中、
レグナは静かに踵を返し、
次なる理不尽の気配を求めて
空へと舞い上がった。
【 商都に潜む欺瞞の帳簿 】
次にレグナが訪れたのは、
帝国屈指の交易都市ヴェルダンテ。
表向きは繁栄を極める商都だが、
その裏では巨大商業ギルドが
帝国の関税制度を巧妙に偽装し、
貧しい行商人たちから
不当な搾取を続けていた。
ギルド長は帝国監査の目を欺くため、
二重帳簿を用い、私腹を肥やしていたのである。
レグナは商人に扮してギルドの奥深くへ潜入し、
隠された帳簿の存在を見抜いた。
その紙面に眠る
「偽りの数字」という概念そのものに、
彼は静かに手をかざす。
「数字を弄ぶ者には、
数字そのものに裁かれてもらおう」
【全属性変換】の力が
帳簿の紙質を変質させ、
隠蔽されていた不正のすべてを
黄金の文字として浮かび上がらせた。
衆人環視の広場に
突如として現れたその啓示に、
ギルド長は青ざめて崩れ落ちる。
「この者たちが搾取していた金は、
すべて民へ還元せよ。
ヴェルダンテの商いは、これより
父上の定めた公正の理のもとに置かれる」
群衆から歓声が上がり、
レグナの名と共に、覇王アーロンの
威光を讃える声が都中に響き渡った。
【 広がる父の威名 】
辺境の鉱山、商都ヴェルダンテ――
レグナが理不尽を叩き潰すたびに、
その地に住まう人々の口から口へと、
覇王アーロンの偉名が広がっていく。
もはやそれは単なる噂ではなく、
確固たる信仰にも似た
畏敬へと変わりつつあった。
天上の座へと帰還したレグナを、
セレスティアが優雅な微笑みで
出迎える。
「お帰り。レグナ。此度もまた、
辺境の理不尽の芽を
ことごとく摘み取ったようね。
民の間では、
すでにアーロン様への感謝の声が
神殿の祈りにまで及んでいるとか」
「まだ足りません、母上。
この庭園の隅々にまで、
父上の正しき理を行き渡らせるまでは」
レグナは玉座の間の窓辺に立ち、
無限に広がる帝国の版図を見つめた。
かつて父が
無能と蔑まれた記憶の欠片すらも、
今はこの威光の礎となっている。
「父上。今日もまた一つ、
この庭園から
理不尽の雑草を刈り取ってまいりました」
玉座に腰掛けるアーロンは、
満足げに頷き、
息子の成長を讃える眼差しを向けた。
私には、秘めたる計画があったが、
この時にはまだ口にしていなかった。
父子の覇道は、
これからも止まることなく、
無限の次元の彼方へと
広がり続けていく。
©[I・G・ε]All Right Leserved.
【 父の記憶を宿す荒野にて 】
レグナが足を踏み入れたのは、
帝国西方に広がる、
かつて誰も顧みなかった不毛の荒野だった。
乾いた大地に立つと、……。
明日、7:30 に第5話を投稿します。
よろしくお願いいたします。




